「っ、や……!!」

 玄関先、フローリングの廊下に捕らえた身体を圧しつける。
 派手な音を立てて倒れこんだ拍子に膝と肘を強かにぶつけたが、痛覚をまったく意識できないほど、僕はつよい興奮に呑まれていた。

 見た目から折れそうに儚い身体は、触れてみれば更にその華奢さが際立つ。
 女性のような柔らかさはないものの、本当に同じ男なのかと疑いたくなるほど細い腰を、掌で乱雑にまさぐった。

 「やめ、やめてくださ……、何なんですかっ…離して!!」

 起き上がろうと暴れる彼を押さえつけ、上着の裾から這うようにして手指を差し入れる。  びくりと目に見えてその肩が震えた。

 「……!!……、やだ…!!」

 ようやく僕の意図と自分が晒されている危惧すべき状況に気がついたのか、彼はさっと顔を蒼ざめさせて、僕の腕から逃れようと、渾身の力で身を捩り始めた。
 脚を絡めとリ、ほそい手首をなんなく捉えて抵抗を封じると、遠慮もなしに肩口に噛みつかれる。多分、血が出ただろう。
 仕方なく、僕は彼の身体を反転させると、その薄い背中に体重をかけた。

 「いっ、嫌っ…離し、はなしてくださ…!!」

 床に両手を突っぱねて逃れようと足掻いた隙をふんで、
 上着をまくって素肌に触れる。

 「!!」

 吸いつくように滑らかな皮膚の上を掌で撫でると、ざわりと肌が粟立つのが分かった。
 そのまま行き着いた突起を指先で捏ねる。抵抗に必死だった彼はいよいよ追い詰められたように、余裕のない声を上げ始めた。

 「やだ、やっ……いやぁ!!」


 ああ、初めて会った時の無表情からはとても想像もつかない声。


 愛撫をこばむように、肌に貼りついた僕の手を引き剥がそうと強く爪を立てて引っ掻く。
 甲にはいく筋もの傷が出来ているだろうが、別段気にはならなかった。

 ジーンズの釦を素早く指ではじくと、するりと中に手を這わせ入れる。
 いっそう激しく暴れる身体を力ずくで床に這いつくばらせると、そのまま双丘の狭間をつたい、行き着いたいりぐちを指のはらで押した。

 「ひ…っ…」

 途端、彼は全身を強張らせて息をのむ。
 なんの潤いもない乾いた其処を、感触をたしかめるように手遊みになんどか撫でると、羞恥か恐怖か、とうとう涙混じりに嗚咽する声が彼の口から漏れ始めた。

 「や…やめて…くださっ…、…っ……たすけ…だれか…」


 やがみくん…っ


 無意識にか滑り出されたその名前に、僕は手を止めた。

 「やがみ?」

 たしか、以前来た時に部屋に一緒に居た青年を、彼はそう呼んでいた。
 さっき大慌てで玄関を開けた時にも。僕を彼と間違えて。

 「あの、茶髪の綺麗な顔した子のことでしょう? 彼は、あなたの、何?
 ……恋人?」

 震えながら嗚咽を繰り返している彼にそう問いかけると、まるで何かを守るかのように、彼はくちびるをぎゅっと噛みしめて答えることを拒んだ。

 「……ふうん」

 そのまま、菊座を撫で続けていた指を、浅く内部に突き入れる。

 「!! やだ……やぁ…ッ!!」

 悲痛なほどの声を上げ、激しく身を捩じらせて逃れようとする腰を引き寄せ、乱暴に中指をすべて埋めこむ。潤滑がなく、狭い内壁に阻まれながらも、其れはほどなく根元まで彼の体内に飲み込まれた。

 「ひ、ッ…いや…嫌……抜い…ッ」
 「動かしますよ」
 「っやだぁあ!!!」

 泣き声のような悲鳴を無視して、僕は埋めこんだ指を慣らすように行き来させ始める。  せまい内道を擦りたて無遠慮に抽挿すると、彼はそのたびに強張らせた身体をびくびくと波立たせながら、引き攣った悲鳴を上げた。
 ときおり、何とか僕の腕から逃れようと抵抗を試みているようだったが、それも僕の動作を妨げるほどの要因にはならず、抑えるのは容易だった。

 「うっ…うっ…やだ、ぁあ………な、んで…こんな…っ」

 潤いが無かったにも関わらず、なんども抜き差しを繰り返せば、彼の内部はまるで順応するように僕の指のかたちを覚え、さほどの苦もなく解れてゆく。

 慣れている。

 「慣れてるんですね」
 「……っ、……」
 「あの、やがみって子に、教えてもらったの?」
 またくちびるを噛みしめ答えない彼の後孔に、さらにもう一本指を押しこむ。
 「ぁう…ッ…、…!」

 乱雑な指の動作が速度を早めていくのに比例して、彼の泣き声も悲痛さを増す。

 ときおりしゃくりあげ、嫌、嫌、やめて、と拒絶の言葉を繰り返す彼は、感じまいとしているのか、単純に見知らぬ男から受ける愛撫に怯えているのか、頑なに口を引き結び、艶めいた矯声を放つことはなかったが、それでも指が内部の一点を掠めると、ひくりと内部を収縮させて其処が彼の性感帯であることを顕著に示してくれた。

 適当に内部が開いたところを見計らって、ずるりと指を退く。

 一瞬だけ、彼がほっと息をついて力を抜いた隙をついて、未だ脚に絡みついていたジーンズを下着ごと無造作に引きずり落とした。

 「!!」

 次になにをされるのか、否が応にも悟ったのだろう。
 彼は蒼ざめて白くなった肌を震わせて、身体を捩らせた。

「やだ……嫌…いやです…ッ」

 唯一自由になる右手で、圧し掛かっている僕の身体を振り解こうとするのを、造作も無くその手首を押さえて封じ込める。
 上体を完全にフローリングに押しつけ、動かないよう体重をかけて固定すると、細い腰を片手で抱え上げ脚で割り開くようにして膝を開かせた。

 昂りきった自身を取り出し、慣らしたいりぐちに押しあてる。

 「やめ、やめて、くださ……お願い……ゆるして…っ」

 ガチガチと歯の根も合わぬほどに怯えきって哀願するその様相に、さすがに可哀想だという一片残された良心が痛んだが、それも次に彼が再び助けを乞うように「やがみくん」と男の名を呼んだことで跡形も無く消え去った。

 「力、抜いて…ください」

 囁くのと同時に、力任せに、彼の体内に押し入る。

 「…や ぁ ああ……ッ…──!!!」

 彼は喉を引き絞って短く鋭い悲鳴を上げた。床に押さえつけた上体が、衝撃にびくびくと跳ねるのを再び腕で押さえ込む。
 半端に這入りこんだ自身を完全に埋めこむべく、腰をなんどか揺すりたてると、そのたびに彼はそのこわれそうに華奢な身体を痛々しく痙攣させた。


 あつい。
 きもちいい。


 衝動のままに奪った彼の内部は、ひどく具合が良かった。
 本当に入るのかと疑いたくなるほど小さないりぐちは傷つくことも無く僕を呑みこみ、不規則に収斂してはきつく締めつけてくる。気を抜けは直ぐにも射精してしまいそうな程。

 たいしたものだ。

 穢れをしらない、無垢な可愛い顔をして。
 その実、性交の為でないはずの器官は男を咥えこむことに慣れている。

 大方あのやがみという青年が彼の相手なのだろう。
 彼に抱かれ、慣らされ、開発されたのかと想像すれば意味もわからない憤りにも似た嗜虐心が湧いてきたが、同時に、その彼の為に開いていた、他人のものである身体をこうして奪っているのだと考えれば、脳髄を焼くような例えようも無い興奮も覚えた。

 無理やり繋がった状態で、背後からやさしく抱きしめる。

 彼は、抵抗しなかった。
 抵抗せず、ただ泣いていた。
 痛いとか、きもちいいとか、そういう何かを訴える泣き方じゃない。
 ただ、漠然と泣いている。
 幼い子どものように呼吸も覚束ないほどしゃくりあげ、肩を震わせ、ぼろぼろとその黒い双眸からとめどなく涙を溢れさせている。

 「……ひっ、…うっ……うぇっ…、……っ」

 そんなに悲しいんですか?
 『彼』以外に犯されたことが。

 「…がみく…、…や、がみくん……やがみくん…っ…」

 うわごとのように男の名前を呼び続ける彼を黙らせるように、乱暴に揺さぶった。

 「ひぁッ、あ!!」

 なんども肌を打ちつけるようにして抽挿させ、せまい内壁の奥を突くたびに彼は高く涙の混じった悲鳴をあげた。嫌々と首を振り、床に爪を立てながらもそれでも屈せず逃れようと腰を退かそうとする。
 それを引き戻し、固定しなおしながら尚もひどく責めたてると、激しい律動の合間にも飽きもせず泣きじゃくりながら、彼は震える声で「やがみくん」と名を呼び続ける。
 その耳もとに、くちびるを寄せ囁いた。


 「『やがみくん』、来てくれませんね…?
 こんなに一生懸命あなたが呼んでるのに」


 ひくりと、答えも無くただ背中がふるえる。
 その傷ついたような反応を見てとると、彼の白く柔い内股にそっと掌を這わせた。

 どんなに心では拒絶していても、内部の性感帯を刺激されれば身体は嫌でも反応するのか、太股の奥にかくされた性器は既に勃ちあがっている。
 その桜色の陰茎をやんわりと手指で包み込むと、狼狽するように全身が強張った。

 「やっ…やめて……さわら、な…ッ…」

 弱々しい制止を無視し、後ろの抽挿に合わせるようにして緩々と上下に擦りたてる。
 また彼が愛撫の手を止めようと、性器に絡ませた手の甲に爪を立ててきたので、お返しとばかりに親指の爪をその先端に食い込ませると、「あッ」という短い嬌声とともに彼の身体は力をうしなってがくりと床に落ちた。
 直接的な性器への刺激に、僕を咥えこんだ彼の内部がびくびくとうねるように痙攣する。
 性感が昂ってきているのだろう。ここへ来て、怯えて嫌がるばかりだったはずの彼の身体は、その持ち主の意思を裏切って、はっきりと愉悦を感じ始めていた。

 「い、や……嫌…いやぁ……やがみ、夜神くん……ッ!!」

 嗚咽し、快楽を否定するように拒絶の言葉を吐き続ける彼は、喘声がまじり始めた呼吸の狭間でなおも名前を呼ぶ。

 「イっていいんですよ?きもちよくなってきたんでしょう…?」

 床に頬を擦りつけ、彼はぎゅっと目を閉じて否定するように頭を振る。
 ぼろぼろこぼれ続ける涙が次々に滴り落ち、フローリングを濡らしていた。
 虚栄を張る彼の嘘を暴くように、後ろを突き上げながら性器を揉みこむように刺激すると、ひっ、と息を飲んでその背中が大きく仰け反る。同時に、内壁が酷く収斂して情動を促した。

 そのまま律動を早めていく。
 限界が近い。

 彼は揺さぶられるままに慾動を甘受しながらも、それでも必死に首を振って、残酷に迫り来る快楽を拒絶している。

 「やだ……こんな、こんなの…ッや…あ、あぁ……!!」

 彼の喘ぎがひときわ高くなったと同時に、四肢がぐっと強張った。

 「…ッ……────ッッ!!!」

 声もたてず、薄い背中を折れそうなほどにたわませて、二度三度、立て続けに吐精する。
 びくん、びくんと大きく全身を痙攣させながら、彼は吐き出した白い液体を飛び散らせ、綺麗な床を汚した。

 「……っう、…っ」

 射精の余波でひどく締まる後孔に半ば引きずられるように促され、僕も絶頂を迎えた。
 ふかく突きいれ限界まで繋がると、そのまま最奥めがけて精液を注ぎ込む。
 射精を終えたばかりで荒く呼吸していた彼は、その感触で中に出されたことを感じ取ったのか、ひく、と息を止め、黒淵の瞳をこぼれそうなほど大きく見開いた。
 そのまま、どさりと糸が切れた人形のように、身体を弛緩させ床に沈む。


 彼はもう、泣いていなかった。