ATTENTION!
Lたんがいきなり謎の組織に手篭めにされてます。
かわいそうです。
「月以外にLたんが陵辱されるなんて嫌!!」
と仰っしゃる方はご覧にならないほうがよろしいかもしれません。














余音繞梁





 周りの声が煩かった。


 朦朧とした意識の中感じ取れるのは、幾つもの男の声と、女の哂い声(若しくは喘ぎ声なのかも知れない)、そして不釣合いなほど上品な旋律を奏でる二胡の調べだけだった。




 何時間そうしているのか、
 判別がつかないほど、私は囁きや哂いがざわめき立つ喧騒の中にいた。

 或いは階上で、或いは耳元で交わされている会話は内容までは理解できなかったが、正しいクイーンズイングリッシュで話す者もいれば日本語の人間もいる。しかし圧倒的に中国語が多いのは、この秘密の会合の主催者が中国人だからに他ならない。週一回、首都の地下で人知れず行われる、紳士淑女のいかれたパーティー"余音繞梁"。この世の遊楽に飽食気味な上流層の人間が、夜な夜な目新しい刺激を求めてやってくる。

 贅を凝らした大理石のフロアでは猿や狐の面を被った会員達が闊歩し、気に入った娼婦を見つけては二階の個室に消える。大概の人間はそうやって時間を過ごすが、それでも飽き足らない者達が、フロアに据付けられたベッドの上で次々と行われる悪趣味な見世物を愉しむ。
 慰みに甚振られるのは娼婦の女であったり、貧富層出の買われて来た子供であったり、或いは会員の中から選ばれることもあった。
 中国の法に照らせば管理売春の最高刑は死刑だ。
 それでもアンダーグラウンドでこのような商売がまかり通るのは、中国経済の屋台骨でもあるキーマン達の歪んだ欲望ゆえに相違ない。




 「は…ッ、…ッ、…ぁ、……! …!!」

 もう声も満足に出せない。
 無数の手が絡みつき、押さえつけられた四肢にはもうまるで力が入らなくなっていた。
 思い通りには動いてはくれない癖に、意思とは別のところで散々弄くられた身体はびくびくと、恥知らずな律動を繰り返している。
 先刻まで苛まれていた痛みはもう無かった。代わりにオピウムのむせ返るような馨りで頭が割れそうだ。
意識が混濁して、自分が何をしているのか、何をされているのか、気を抜くと全てが飛んでしまいそうになる。


 そもそもこの余音繞梁に探りを入れようとしたのが間違いだったのか。


 先月、エラルド=コイル宛に舞い込んだ破格の依頼。
 それは『劉月蛇』を失脚させる証拠の入手だった。

 この余音繞梁のオーナーでもある劉は、表の顔としてこそ一流企業の重役ではあったが、裏組織との癒着で黒い噂の絶えない人間だった。中国の麻薬売買の助長にも一枚噛んでいる。
 その汚い金の源のひとつである余音繞梁は、捜査の足掛かりとしては最適だった。
 会員として紛れるには十分な財力とある程度の社会的地位が必要ではあったが、そんなものは幾らでも金ででっち上げられる。入り込むのは容易なことだ。
 劉がこの管理売春の場に居たというシーンを写真にでも収めるだけで依頼は簡単に終わってしまうものだが、流石に本人がこういった犯罪の場に現れることはない。二度、三度と情報収集のために顔を出すうち、何故か決まって赤猿の面を着けた中国人が話しかけてくるようになった。

 柔らかな男の物腰に油断していたのかもしれない。
 四度目の会合で、私はワインに薬を混ぜられたことに気づかなかった。





 「いや…、いや……もう……、たすけ…」

 『そんなに泣かないで下さい。ほら、皆が貴方のことを褒めていますよ』

 もう何度目かも分からない。
 意識を失い、気がついたときにはこの衆人環視の寝台の上で仮面をつけた見知らぬ男達に犯されていた。娼婦と同じように足を開かされ、自由を奪われ、同性である男に代わる代わる身体の内側を蹂躙される。
 あられもない箇所を拡げられる苦痛と恐怖に私はただ泣き叫ぶことしか出来ず、まして、性の一切と疎遠であった自分が今こうして、男の劣情の対象にされていることなど信じられない事実だった。

 『みな貴方の恥ずかしいところを見たいそうです。もっと、もっと…ね』

 ふるえる喉で嗚咽を上げる度に何処からか哂い声が聞こえてくる。
 さんざん色んな体位で嬲られたあと何人目かで入れ替わったのは、あの赤猿の面の男だった。
 私がただの日系で中国語はわからないと思ったのか、私に話しかけるときには流暢な英語でありながら、他の観客達には中国語でどんなプレイが見たいかなどと冗談めかした口調で提案している。
 聴くだけで吐き気がするようなやり取りに耳を塞ぎたい思いでいると、ひざ裏を掬い上げられ、投げ出していた両足を再び抱えられた。

 「いや、ゃあ…ッ!! もう 嫌… !」

 シーツの上をもがいて腰を逃がそうとしても、直ぐに両脇から伸びた衆人の腕に捕まり臀を突き出す形で固定される。
 抵抗する間も隙もなく男の切っ先が宛がわれ、既に誰のものとも知らぬ精液でてらてらとぬめった其処を押しひらき挿入ってきた。

 「あ ッ…ぐ……、…! 」

 そのままぐうっと奥まで一気に呑みこまされ、下腹部を胎内から圧迫される感覚に知らず呻き声がこぼれる。

 『貴方は"ここ"では新参らしいので知らないと思いますが』

 何度も揺さぶりながら限界まで繋がると、
 男が呼吸もままならない私の耳元で囁いた。

 『ここでは会員は皆マスクをしているでしょう?それは各々が昼間の顔を隠すためのものでもあるけれど、もうひとつ意味があるんですよ。この余音繞梁で仮面をしていない者は誰であれ陵辱の対象と見做されるんです。例えそれが同じ会員の身分を持つ者でも』

 
 涙でゆがんだ目を見開いて男の顔を見ると、赤猿の面の下の榛色の目がひそやかに嗤った。


 『貴方のその顔は、皆覚えてしまったと思いますよ。…多分ね』










 最早時間の感覚がない。

 自分が気を失っていたのがどれくらいなのか。何時間なのか、何分なのかそれとも数秒も経っていないのか、それすらわからない。
 絶え間なく続く手ひどい蹂躙にたびたび意識を手離しては戻り、行き過ぎた快楽と苦痛に堪えられなくなればまた失神する。まるで深海でひとり溺れているようだ。水面に浮かび上がっては引きずり込まれてまた沈み、自由の利かない水圧と波間に翻弄されているような。

 「ぁう…ッ…、…」

 なんの予告もなく、体の中を犯していた異物が固いまま抜き去られる。気持ち悪いとしか言いようのない感覚に知らず声が漏れた。
 割り広げられた両足はもはや殆ど感覚もなく、拘束する手がなくともだらしなく開かれたままだ。傍目にもそうとう情けない状態であることは間違いない。なのに恥ずかしいとか屈辱とか、そういう感情は枯渇してしまったように頭の隅に沈殿してしまっていた。感じないでいないと耐えられない。そう脳が判断したのだろう。狂乱はまだ続くのだ。

 腕がふたたび伸びてきて、うつ伏せにひっくり返された。
 両手で身体を支える力なんてある筈もなく、自然腰だけを高く上げた雌犬のようなポーズを取らされる。

 『可哀想に……真っ赤に腫れ上がってしまっていますよ。ココ』

 わざとらしい沈痛な声とともに、指が這入りこんでくる。一本、二本。
 さっきまで男を受け入れさせられていた其処は、なんの抵抗もなく差し入れられた指を受け入れてしまう。ぐちゅ、と嫌な音を立てたかと思うと、内股を粘液が伝った。それが何なのかは考えたくもない。
 中も赤くなってますね。綺麗な桃色だったのに、と聞いてもいない感想を述べながら犯し続ける猿面の男の指が、何の前触れもなく的確に奥の一点を擦りあげる。

 「い゛ッ…、ああぁあ!!!!」

 声を上げすぎて貼りついたようだった喉の奥から勝手に悲鳴が上がった。
 反応したいわけでもないのに海老のように仰け反った背筋から脳髄に電流のように快楽が湧き上り、思考を焼き切る。目の前が白くなりまた気を失うかと思ったが、寸でのところでつなぎとめた。

 『ココ、堪らなくなったみたいですね。やはり貴方、素質がありますよ』

 涼やかな低い声に耳元で囁かれて、ぶるりと腰がふるえた。
 後口からの前立腺の刺激だけで充分に感じられるようになったのを確かめたかったのか、指がずるりと体内から抜かれる。

 もう嫌だ。開放してほしい。

 相変わらず寝台を囲んでいるオーディエンスの下卑た嘲笑が聞こえてくる。視界は膜を張ったように濁って利かなかったので何人いるのかまではわからない。わかるのは、回りが飽きない限りこの陵辱劇は終わらないということだけだ。

 「う…、ぅっく…、……う…」

 涙などとうに涸れきったと思っていたが、見通しの利かない絶望的な展望にすすり泣くような嗚咽が漏れた。泣いてみせたところで連中を喜ばせるだけだというのに。

 ただこの先正気を失うようなことにならないことを祈るしかない。

 幸いなことに、猿面の男が生み出したこの状況は私の素性を疑ってのことではないようだった。もし私がエラルド・コイルという名前に付帯する人間であると分っていたなら、とうにLSDでも投与されて言質を取られた挙句始末されているだけだろう。

 詰るところ、耐えるしかないのだ。
 連中が握っている偽のプライベートカード通りの、倒錯的な欲望の犠牲となった初心な青年実業家を演じきるしかない。


 「ぅぐッ!!…、…あ…!!」


 いきなり、意識を戻させるかのように再び男の性器がそこに押し込まれる。
 息をつく間もなく尖った先端が肉壁をわりひらき最奥まで犯してゆく。そんな乱暴にもはや痛みは殆ど感じないことに愕然とする思いだった。脊髄を走る感覚は苦痛を凌駕する壮絶な快楽だ。むしろ其処が異物で埋められたことに安堵さえ感じている。
 正常な判断ができないでいるだけなのだろうが、そんな自分の思考に怖気が走った。自分がどこか狂ってしまったような錯覚さえする。汚く淫乱で、嫌悪されるべき醜悪な生き物に。

 数度揺さぶり奥まで突っ込むと、腕を引っ張られて上体を起こされる。
 そのまま猿面の男の胸に背中で寄りかかり座る形になり、力のろくに入らない体は沈みより深く結合する結果となる。
 あまりの深さに、生理的な涙が勝手にあふれた。

 「か…、はっ……」

 びくびくと奥のほうが痙攣したのが知覚できた。入っている物の形さえまざまざと感じ取れる。
 反射的に締め付けすぎたのか、耳元を男の低い呻きが掠めた。
 片足を胸につくほどに抱えあげられ、対面にいる人間からはあさましく勃ち上がり涎を垂らす性器と男を飲み込んでいる結合部が隠すことなく晒される。その瞬間閉じた瞼の向こうでフラッシュの閃光を感じ、写真に取られたことを知った。


 『今の貴方、とっても素敵ですから記念撮影してもらいましょうね』


 血の気が引いたくちびるに指で誰のものとも知れぬ精液を塗りたくりながら、楽しそうに男が言った。おそらくこの写真が表の世界に出ることはないだろう。しかし…。


 『貴方もそろそろ疲れたでしょう。よくがんばってくれましたから、最後にもうひとつ、最高に気持ちいいこと教えてあげますよ』


 男の言葉に、思わず目を開ける。
 ようやく開放されるのか。これで終わってもらえるなら何でもいい。これ以上何をされてもこれまでの時間散々嬲りつくされたことを思えば耐えられないことはないだろう。
 一筋の光明に喜びさえ覚えていると、タイミングを見計らったかのようにバレットと思しき男が恭しく何かを運んできた。

 見慣れない形の、シリコン状の棒。

 男の手に取られたそれは細長く、直径は4mm程度しかなく先端が僅かに膨らんでいた。いったいどういった意図の器具であるのか図りかねていると、戸惑いを隠せない私の顔を眺める聴衆の下品な笑みに、ろくなものでないことを直感的に悟る。


 『知ってますか?"こちら側"からも気持ちよくなれるんですよ』


 「!!!」


 囁きとともにその道具が性器の先端に押し付けられたことで、ようやくこれから何をされるのか理解した。

 「いや…ッ、嫌です!!…それだけは…っ」

 堰をきったように叫んで四肢を暴れさせると、息を合わせたかのように周囲から無数の手が伸びてきてあっという間に抵抗を封じられる。突如襲われた恐怖感に血潮が引いていくのははっきりわかった。
 『大丈夫。初めてですから、痛くないようお薬使ってあげます』という宥めるような男の言葉もなんの安心材料にもならない。


 『貴方が大人しくしていてくれれば、すぐ良くなります。…もし途中で暴れたりすれば尿道が傷つきますからね。そっちの方がよっぽど痛いですよ』

 「ひっ……」


 想像したくもない。恐怖のあまり息を呑むと、可笑しそうに男が笑った。少し神経質そうなその声はよく聞いてみると執拗さに似合わずまだ若い男のようだった。10代ということはないだろうが、それでも20代前半程度の。

 男の手が、先端をくすぐるように親指で刺激してくる。
 これからされようとしていることを知りながら、それでも身体は精神を裏切ってそんな知覚も貪欲に拾い上げ、快楽として脳に伝達する。浅ましいばかりだ。
 とろ、と鈴口を先走りが一筋垂れたことに満足したのか、指が離れた。

 『いきますよ』
 おそろしさのあまり、ぎゅっと目を瞑った。


 「ーーーーーッッ!!!!!!」


 その瞬間、無機物がほそく弱い先端から内部を犯す。
 総毛立つその強烈な感覚に絶叫した。絶叫したつもりだったが、実際は喉の奥のほうでかすれて声にならない声となっただけだった。
 這入るべきところではない器官に異物が進入していく。苦痛とも快楽ともつかないただ強い感覚が背筋を這い登り、拘束されたままの四肢が勝手にびくびくと痙攣した。

 「…あ……、あ……ぁ……」

 わざと長く苦しめたいのか、焦らすようなゆっくりとした動作で、たまに浅く引き抜きまた押し込むような動きを繰り返しながら、それでも確実にシリコンの棒は奥のほうまで侵入してゆく。わずかでも動かされるたび堪らない排尿感がせり上がり、少なくとも快楽とは言い難かった。

 気絶したほうがましだ。
 表現のつかない酷い責め苦に息を吸うことすらままならない。


 『そろそろ…、このあたり、でしょう?』


 慣らすように行き来していた棒が、内部でくっと一点を探り当てた。

 「ふ゛ぁッ!!?」

 唐突に走った快感に悲鳴が上がった。
 それに気をよくしたのか、男が小刻みにシリコン棒を動かして其処を苛めるように突いてくる。そのたびにびくっびくっと身体が反射的に引きつる。何が起こったのかまったく理解できない。さっきまで苛まれていた苦痛は鳴りを潜め、突如感じたことのない快感に翻弄されている。
 いったい何をしたのか。


 『こちらからも、前立腺の快楽を味わえるんですよ。…堪らないでしょう?』




 焦点の定まらない私の顔を覗き込みながら、猿面の男が笑った。笑いながら深々と這入り込んだ棒を一気に引き抜く。

 
 「ひ゛…ッ…ーーーーー!!!!!」


 面の奥の榛の瞳の残像を最後に、そこで私の意識は完全に事切れた。







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 目が覚めると、白いシーツの上にいた。

 意識があるということは生きているのだろう。両手両足の感覚もある。
 恐る恐る上体を起き上がらせると、カーテンの隙間から注いだ太陽の光が室内を暖かく照らしていた。既に昼近くのようだ。豪奢な造りの内装からどこかホテルのスイートの一室だと当たりがつく。
 あれほどどろどろに汚されたはずの身体は綺麗に清められており、備品とおぼしきバスローブを着せられていた。すべて夢だったのではないかと思えるほど見た目には陵辱の痕は見つけられなかったが、声もろくに出ないほど嗄れきった喉とわずかでも動くと身体の節々に響く鈍痛が、あれが現実であったことを如実に物語っていた。


 ワタリに連絡をとらなければ。


無意識に最初に起こすべきアクションが浮かび、身体を鞭打ってベッドから降りた。あられもない場所が酷く痛む。途端にフラッシュバックしそうになる記憶をなんとか押しとどめて立ち上がった。
 ドアに外からロックが掛かっているわけでもないところを見ると、監禁する意図はないらしい。
 窓から外を覗くと北京市内であることだけは検討がついた。連絡さえできればあとはまだ見張りがついている可能性も含めて、なんとか出し抜くこともできるだろう。
 所持品にあるはずの携帯電話を探そうと周囲を見回す。

 ふと、サイドボード上の電話が目に付いた。


 挟むようにして忍ばされている、イングリッシュホワイトのカード。
 そしてその上に上品な文字で無機質に印字されたメッセージ。


 私はそれを手に取ると、足から根が生えたかのように暫くその場に立ち尽くした。



 余音繞梁。

 劉月蛇。



 尻尾を掴まれているのはこちらなのかもしれない。
 もしかすると尻尾を掴もうと巣に飛び込んできた私を、ただ戯れに手のひらの上で転がして遊んでいただけなのかもしれない。エラルド・コイルのバックボーンすらすべて承知の上で。
 そうだとすれは想像以上に狡猾な男だ。劉月蛇。


 少なくとも、これで終わりではない。
 それだけははっきりしている。


 そう考えながら、私は受話器を取り上げた。
 フロントが出るまでの数コールを聞きながら、黒い光沢のあるインクで綴られた劉月蛇からのメッセージを何度も指でなぞっていた。










 "Silence is Golden"







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途中まで書いて例によって放置してたんですが
mineさまのところのL受アンソロに再録していただけるということで
ラストまで書き上げた一本です

取締役島●作を読んで考えついたという…(おま)
その話したらmineさまに爆笑してもらえたのでよかったです(´∀`*)


update:08/1/20



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