キヌさま宅のL誕祭にあやかって書いてみました。
くわしいことはキヌさまのサイトでドゾ!








バースデイ





 「誕生日って、重要じゃない?」


 唐突に言い放たれた月の台詞に、一日の捜査活動を終えプライベートルームのソファで寛いでいる竜崎が、伏せられていた視線を上向かせた。
 そのまま眼の動作だけで月を見やると、相変わらずの無表情な声で答える。

 「どういう意味です?」

 「どうって、そのまま」

 向かい合わせたラブチェアーで、梟のように身体を丸めている竜崎に意味深に笑んでみせると、声と同じく無表情な顔が軽く傾いだ。

 「べつに……特別視するようなことでもないと、思いますが」

 つねに物事に合理性をもとめる竜崎らしい返答。
 間をおかず月が切り返す。

 「そうかな?僕は、一年のうちで重要なイベントの三指に入ると思うけど。
 ……恋人同士にとって」

 竜崎はしばらく無言で月の微笑を見つめていたが、やがて視線をテーブルに戻すと、その上に乗った白磁のカップにおもむろに手を伸ばした。

 「それは、暗に私の誕生日を教えろという要求ですか」

 「まあ、そうかな」

 「私がそれをお教えするとお思いですか」

 「思わないな」

 細いきれいな指先が純銀のスプーンを扱うさまを眺める。
 竜崎が無造作に角砂糖を数個つまみ、カップの中身に投げ入れる様子も、月にはもう見慣れた光景だ。
 カチャカチャと食器の擦れる音を立て紅茶を攪拌すると竜崎は、

 「なら…無駄な会話は止めて、もっと有意義なことを話しませんか」

 そうつまらなそうに云って、スプーンをソーサーに置いた。

 旨そうでも不味そうでもなくたっぷり砂糖の溶け込んだ液体をすする竜崎に、月はどこか楽しげに、さらに同じ話題を振る。

 「別に、生まれた日付を知ることだけが重要ってわけでもないだろ?どちらかと云えば、拘りが無ければどうでもいいことじゃないのかな。大体、相手がこの世に生まれたことを喜び祝福するためにあるんじゃない?誕生日って」

 「……何が云いたいんです?」

 まわりくどいことを嫌う竜崎が、月の言い回しに僅かに眉を顰める。
 ほんのすこし不機嫌さのにじむその眦に臆することもなく、月はその竜崎の訝んだ反応を楽しんですらいるような様子で

 「つまり」

 楽しそうに云った。


 「今日、竜崎が生まれたことを祝ってあげようと思って」


 「……今日?」

 話の展開に少なからず面食らったのか一瞬よどみない動作が止まる。
 中身を飲みきらぬうちに竜崎はカップをソーサーに戻し、両手を膝の上に乗せると、まっすぐ月に照準をあわせた。

 「今日……8月6日という、数字の根拠は?」

 「特にないけど。まあ……今日はよく晴れてて天気も好かったし、土曜日で休日だし。いい日だから良いんじゃない?……それに」

 テーブルの上のケーキサーバーを顎で示す。

 「竜崎が食べたがってたドルチェのミルクレープも手に入ったし」

 竜崎は黒い目をわずかに見開いてなんどか瞬きすると、自分の前に置かれた皿の上のものと月の微笑とを交互に見つめた。

 「その為に買ってきてくれたのですか?」

 「そういうわけじゃないよ。たまたま」

 本当に他意のない偶然だ。

 今日が8月6日なことも、
 専門店の人気のデザートが手に入ったことも、
 僕が恋人の誕生日を、知らないことに気がついたことも。


 「何てことない思いつきだけど、たまには悪くないんじゃない?
 こういう、普通の恋人同士みたいな……恋愛事情の真似事もさ」


 「……月くんは」

 だまって月を見つめていた竜崎が、おもむろにくちびるを開く。

 「案外こどもっぽい、ロマンチストなところがあるんですね」

 険の取れた表情はどこか純粋で幼く、いつもの無表情のようにみせて微細に、喜色をのぞかせているようにも見える。

 「それは意外で悪かったね。馬鹿にしてる?」

 「いいえ」

 先の竜崎と似たようにわざとらしく眉を顰めてみせる月に、竜崎ははっきりと頬を緩めて笑った。黒淵の瞳が、品定めするように月の顔を挑発的に射抜く。


 「じゃあ、今日が私の誕生日なら……ケーキと、あと、プレゼントは
 …何をくれるんです?」


 月が竜崎の視線を捉えまた微笑んだ。

 「竜崎の欲しいものを」

 言葉を紡ぎ終わらぬうちに、ローテーブル越しどちらからともなく腕が伸ばされる。
 交差した腕がからまり、しずかに息も触れる距離に互いの顔が近づくと、



 月は、竜崎に接吻した。
 竜崎は、月に接吻した。






うわ〜い選択制!
たんに月LかL月かなだけです…

当日までに…上げられたらいいなァ…