どんなに人間に近づけて造っても、所詮機械人形は機械人形。
 どこのメーカーのどんな最新式モデルでも、現在の技術ではその動作、肉体反応は生身の人間には遠く及ばない。

 でもLは違う。

 目の動き、外部刺激に対する反射、反応、どれをとっても人間が返すそれと同じく正しすぎるほど精緻で人間らしいし、もの慣れない、初々しい仕草は例えようもなく扇情的だった。

 月が、自分の持てる全てを費やして創りあげた精巧なアンドロイド。

 出来損ないの、人間。







 「ふぁっ……あ!…」

 指のはらを腹部側に向けてかるく折り曲げつよく内襞を擦りたてると、細い腰ががくんと大きく揺れた。

 ソファに腰掛けた月の身体を跨がせ、脚を大きく割り拡げさせたLの身体を、崩れないよう空いた片腕で抱きしめる。後孔を弄んでいる右指をなかで蠢かせると、その都度ぐちゅりと粘着質な水音がたった。

 「ん、ん……ぅ…」

 ひくひくと、忙しなく胸を上下させながら、Lは与えられる刺激に順応しようとふるえる瞼を伏せ、擦り寄るようにして月の首にすがりついた。

 「全然慣れないね」

 顔の直ぐ横の柔らかそうな耳朶に息をふきかけ囁くと、ぴくんとその肩がすくまる。

 「どこの人形だってこんな面倒な準備は要らないよ?命令ひとつであっという間に自然に開くのに」

 「す…みませんね……製作者が…っ無能なもので…っ」

 「口がへらない人形だ」

 窘めるように内壁を爪先で引っ掻き折り曲げると、Lはひっ、と息を飲んで大きく背を仰け反らせた。
 生意気な物言いが艶っぽい喘ぎに変わったことに月は満足すると、さらに指の速度をはやめていく。淫らに肉の擦りあう音がたつ其処は、人と変わらず体温をもって熱い。

 「お前も人形なら、主人の手間を減らすために自分の指で慣らせるようになったら?」

 「無理、です…、…できませ…ッ」

 「命令してあげよっか?」

 「や、やだ…っ!!」

 顔を泣きそうにゆがめて必死に首を振るLの額に、笑ってやさしく口づけてやる。


 どんなに嫌がろうとひとたび命令すれば自らの指を後孔に挿しいれるのだろう。
 嫌、嫌と泣きじゃくり涙で頬をぐちゃぐちゃにしながら。


 そんな可愛いLも見たかったが、それをやらせた後はいつも口をきいてくれなくなるので、Lが嫌と云えば月は命令しない。

 痛覚や恐怖、嫌悪感などの人間特有の感覚も、Lには当たり前のように備わっている。
 だからこうして後孔に触れようとすると恥らってみせるし、指を増やせば苦悶に顔を歪めたりもする。


 ずる、と慎重にゆっくり指を引き抜く。

 「ん……っ」

 離したくないとはしたなくも月の指に纏わりつく内壁に、Lはぶるりと背筋をふるわせ、深く身体を犯していた長い指が完全に抜け出ると、ほっと息を吐いて脱力した。

 うつむいた白いうなじに、ぺろりと舌を這わせる。

 「……いい?」

 短い月のその問いに、Lもまた言葉もなく首を頷かせて応えた。
 その顔を掌で促し上げさせると、接吻をせがんでどちらからともなく唇をよせる。教えてもいないのに、閉じた瞼が睫毛をふるわせた。

 「ふっ……、んぅ……」

 触れ合わせる口付けは直ぐに淫靡なものに変わり、唾液のからむ音がたつ。

 せつなく眉を顰め、必死に舌を伸ばし、時折くるしそうに喉を引きつらせて呼吸する。
 そんなLと身体を交えていると、腕に抱きしめたその身が機械であることなど忘れてしまえそうなほど月にとってLはどんな人間よりも人間らしく、ただ健気で愛おしいものだった。


 戯れるようにくちびるを舐めあいながら、尖りきった自身を慣らした後孔へ圧しあてる。

 いりぐちを両手で押し開くように拡げてやると、命令しなくても意図を察したLの身体が恐る恐る降りてくる。

 「ん、ん…、……あぅ、…っ」

 ずるずると、抵抗を示しながらも暖かな内壁は月の陰茎を迎えいれる。
 ふるえる膝で加減しながら少しづつ月に体重をかけていくLの双眸から、ぶわりと涙がこぼれた。

 「ほら、もう少し」

 「んっ…、……ひ、ぅ…っ」

 苦痛とも快楽ともつかないかたちに顔を歪ませながらもLは、大きく呼吸を繰り返しつつなんとか内部に月を収めこみ、内股を月の腰につけて座りこんだ。

 荒く息を吐いて、大きさに慣れるのを待っているLを休ませず、軽く下から揺さぶってやる。

 「ひあッ……ッ」

 「ほら、動いて、L」

 促すようにほそい腰を掌で撫で上げ微笑むと、Lは潤んだ眦を吊り上げて月を見た。
 淫蕩に淀んでも、プライドが高いのはかわらない。

 せめてもの抵抗か、表情を読ませないかのように月の肩に顔を埋め、ゆるゆると上下に腰を揺すり始める。

 「うっ…うっ……あ……」

 なんどやらせても慣れない、拙い動きは上手に月の性感を煽ることはなかったが、それでもなんとか自分をイかせようと腰を振る様が淫猥で可愛らしく、月は眩暈のするような恍惚に短く息を吐いた。

 「下手くそ」

 「…………っ、……」

 言葉に反応するようにひくりと、内部が収斂する。

 「ちっとも上達しないね。Lは。舐めるのも上手くないし。他の機械人形なら、教えもしなくても皆完璧にやってみせるのに」

 悔しそうに視線を伏せてくちびるを噛みしめる。
 傷ついたような反応。


 「……なら、ちゃんと出来るようプログラムに手を加えるなり何なり、すればいいじゃないですか。…ほ、他の人形がお好みなら、私を廃棄してそちらを飼っては如何です?」


 嘘吐き。

 ほんとうは捨てられることが何よりも怖いくせに。


 月は微笑をこぼすと、拗ねたように顔をうつむかせるLの眉間にくちびるをつけた。

 「嘘。可愛い。L」

 「………最悪ですっ……大嫌い…」

 潤みきった目で睨みつけながら可愛くない台詞を吐くLの身体を、唐突に突き上げ乱暴に揺さぶる。

 「ぁ あッ…!!」

 「ホントに可愛いよ。嘘吐きで、意地っ張りで」

 ぎゅっと強く月にしがみついて刺激に耐えるLの、黒髪を月の手指がやさしく撫でる。
 あかく染まった耳朶を舌が辿り、愛おしげな声が至近距離で囁いた。



 「ねぇ。大好きだよ…………竜崎……」







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