「ほんとにここで良いんですか?」


 僕の家まで、手前の角を右に曲がって200mあまりの場所。
 「家まで送っていきますよ?」と窺ってくる先生に、軽く片手を振ると、僕は後部座席に乗り出して放ってあった鞄を取り出した。


 「いいよ。人目につかないほうが いいでしょ」


 視線だけを投げて口もとを歪めてみせると、先生は何か云いたげにくちびるをなんどか開いたあと、結局云いあぐねてそのまま閉じた。
 泣き腫らした目元が艶っぽい。

 「それに」

 だらしなく開いたままだった、シャツのボタンを上まで閉める。


 「濡れた方がわからないし」

 「……!」


 ネクタイを結び直しながらそう云うと、その意味を理解したのか、先生の目元にさっと朱がはしった。


 「あッ、あの……ご、ごめんなさ…」


 手で押さえ込んでいたとはいえ、結局先生の放った精液は、幾分僕のシャツにも飛散してしまっていた。ましてや、達したあとも始末さえろくにせずに繋がったまま、ぐったりとした先生を抱きしめていたのだから尚更だ。

 
 それを思い出して居たたまれないのか、先生は可哀想なほど赤く染まった顔をうつむけて動かない。


 「冗談。可愛かった。先生」


 くすくすと含み笑いをもらしながら、垂れ下がった黒髪の上から額にキスをおとす。
 シャツ越しにもまだ微熱の残る肩を引き寄せ、襟の上にのぞく、先につけた赤いくちづけの痕に舌を這わせると、「ん…」と鼻から抜けるような甘い声をこぼして、先生が僅かに身じろいだ。


 「じゃあ、また月曜日」


 なごり惜しむように頬を掠めながら手を離すと、それだけ告げて僕は助手席のドアを開けた。これ以上触れていたら帰れなくなる。


 外に立った途端、アスファルトを叩く水音が激しさを増して鼓膜を揺らす。
 飽きもせず降りそそいでいる雨が、制服のジャケットの上に弾けては染みこんでいく。
 余韻の残る肌には、すこし冷たくて心地いい。

 バタンと音を立ててドアを閉めると、先生の、どこかもの云いたげにうつる表情が、滴の伝うすこし曇ったサイドウインドウの向こうにぼやけて輪郭を失った。


 「あ」


 曲がり角へ向かって歩を早めようとしたところで、
 肝心なことを忘れていたことに気づいた。

 踵をかえすと、フロントを廻りこんで運転席側のガラスを叩く。すぐに先生が窓を下げ、顔を覗かせた。


 「あのさ、先生」

 「どうしました?」


 「今度のテスト、もし僕が化学でトップの成績取ったら、さ来週の土日は
 先生の家に泊まっていい?」


 「え……」


 不意の提案に、先生が目を見開いて瞬きする。

 ちょっと間をおいて、考えこんでいるのか視線をさ迷わせたあと、仕方なさそうな表情を浮かべ、まだ仄朱いくちびるで苦笑した。


 「いいですよ。トップだったら、ですね」


 その返事に、僕もゆったりと微笑みかえす。

 水滴が髪を伝い、頬をたどってぽたりと顎から落ちた。
 すっかり暗く日の落ちた街路に、誰も人の影が見当たらないことを確認すると僕は、


 「じゃあ、約束」



 肌寒い雨に熱をうばわれて、すこし冷たくなったくちびるを、
 先生の其れにそっと押しつけた。







end.








おつです。

下校編、いかがでしたでしょうかっていうかありえないくらいお待たせしてすいませんでした OTL
もうしませんと云えないわが身が恨めしいです
気分で書いてるんで…ホントすいません
とりあえず目下入れようと目論んでいたカーセック●(伏せると逆に卑猥…)と見えるところへのキスマークはクリア出来たので、私的にはまんぞくであります!

次はモチロンお泊り編です…ニヤリ!

他に追記的なエピソードも残ってるんですが…まあいいか(いいんか)
高校教師もソロソロ考えていた大筋、底がみえてきそうなかんじです…
最終話とか、考えないとイカンかいな(笑)

それでは、最後まで読んでくださりアリガトウございました〜v



update---2005.11.1