カタン、と音をたてて、また先生の指からボールペンが滑りおちた。
 それは惰性のままにデスクの上を転がり、端まで行き着くとそのままリノリウムの床の上に落下した。

 「どうしたの?先生」

 「……ッ、……、…ッく…」

 落ちたままのペンを拾おうともせず、先生は椅子に腰掛けたまま小刻みに身体を震わせている。 もういちど「先生?」と声をかけてみると、とうとう懸命に堪えていた嗚咽が、わななくくちびるの隙間から漏れ始めた。

 「駄目だよ、先生。お仕事しないと帰れないんでしょ?」

 「…ッだって…っ、こ、こんなの……無理ですッ……」

 顔を真っ赤に上気させて先生が抗議する。
 それも当然だ。「勝手にする」と云った僕はその言葉通り、デスク上の書類に向かう先生に対して悪戯を仕掛けていた。
 最初は髪を撫でたり頬にキスしたりといった可愛いものではあったが、先生が意識して反応しないようになると、当然それは 徐々にエスカレートしていった。もちろん、そんな他愛もないスキンシップだけで満足できるはずもないのだが。
 とうとうデスクの下に潜り込んで先生の下衣に手をかけたところで、流石に先生も狼狽て声をあげた。

 「や、やがみくんッ…ちょっ」

 「いいから先生は仕事しててよ」

 手早くベルトを外し前をくつろげると、それといって反応もしていない先生の性器を取り出す。ちゅっ、と音を立ててその先端にキスをすると、びくんと全身が緊張したのが手に取るようにわかった。


 「僕が勝手に、先生を気持ちよくさせたいだけだから」


 そう云って上目遣いに嗤うと、困りきった表情の先生はいたたまれないように視線をさまよわせたあと、くちびるに 指をやって爪を噛んだ。
 どうしようかと考えあぐねているのだろう。
ここは普通なら怒るべきシーンであると思うのだが、 先生はしない。それは先生が優しいからか、怒れないほど僕のことが好きだからか、若しくはこの先されるであろう 行為に期待をしているかのどれかだろう。もしかしたらどれも同じくらいの割合なのかもしれない。

 「…ん……、……ぅ…」

 鈴口のあたりを舌先で嬲りながら雁首にそって指で刺激する。
 いつものように感じるところを感じるやり方で一気に追い上げることはしない。
 徐々に、焦らすように緩慢な刺激を与えていくと、ともなく先生の呼吸が干々に乱れ始めた。
 最初こそ動揺を顔に出すまいとつとめていた先生だったが、やはり久方ぶりの悦楽への誘惑には耐え切れないらしく 書類の上をはしるボールペンの音もすぐに聞こえなくなった。

 アイスキャンディを舐めるように上から下までなんどもなぞっていると、すっかり硬度をもった先生の其れは、 じわじわと先端に泪を溜め始める。その蜜をたれ落ちる前にくちびるで吸い上げてやると、 「あっ」という掠れた喘ぎとともに腰がわずかに跳ねた。

 「ん……、く、……、…!」

 「気持ちイイ?」

 愛撫する手は止めずに訊ねると、上気し淫蕩にうるんだ表情をしながらも、質問が聞こえていないかのように 顔をそらして無視をする。

 「彼女にも、こういうことして貰ったんでしょ?」

 「………な…」

 「ねえ、僕と、どっちの方が感じる? …先生」

 云い抜けに喉の奥まで一気に呑みこむと、短い悲鳴のような嬌声を上げて先生の背がのけぞった。

 「……ッあ、悪趣味ですよ…ッそんな、言い方…!!」

 上擦りそうな声を抑えて、せめても抗議か力なくかぶりをふる。
 二週間の間まったく自慰をしていなかったとは思わないが、火をつけるとあっという間に昂ぶった性感は終わりが来るのも早い。 あとからあとからあふれてくる粘液と唾液でが顎まで滴りべたべただ。先生の桜色にそまった指が髪にからむ。 絶頂が近い合図。

 先端に甘く歯を立てたあと、一気につよく吸い上げた。


 「んん!!!……──ッ、っ!!!!」


 びくびくっと全身をわななかせたあと、殺しきれなかった悲鳴でせつなく喉を鳴らしながら先生が達した。
 喉奥に吐き出された苦い体液を飲み下し、なおも根元までくわえ込んで一滴のこらず搾り出すように吸いたてると、 そのたびに泣き声を洩らしながら陸に上げられた魚のように身体を痙攣させる。
 波が過ぎ去ったのを見計らいようやく口を離すと、先生の身体はそのままぐったりと背凭れに沈んだ。

 「すっきりした?」

 意地悪い問いに勿論返事はない。
 気だるげに宙に視線を遊ばせたあと、先生はのろのろと床に手を伸ばして落ちたままだったボールペンを指先で拾い上げた。
 「……ずるいですよ」

 目も合わせずに、口内にこもる様な小さい声でわずかに呟く。
 ボールペンをファイルの上に投げ出すと、そのまま先生はデスクに突っ伏した。くしゃ、と重ねられた書類が撓む音がする。

 「なにが?」

 唾液と先生の出したものでどろどろに汚れた顎を手の甲で拭う。
 ティッシュペーパーがあるのはわかっていたが、それを使うことなくぬめりを拭い取ると、わざと手にのこった残滓に舌を這わせた。伏せた腕の隙間からちらりとこちらを見ていた先生が、あわててそっぽを向く。

 「…………嫉妬するのは、夜神くんだけじゃないんですから」

 「え?」

 独りごちるように発せられた台詞に思わず聞き返すと、「知りません」と云ったきり、先生は突っ伏した体勢のままだんまりを決め込んだ。無理やり出させたことで怒らせたわけではないようだが、拗ねているのは間違いない。時計を見ればもうすぐ七時にさしかかろうとしているところだった。

 「先生、仕事しないと帰れないんじゃなかったの?」

 「………………」

 「先生?」

 「……………きないです」

 「え」

 「…できないです……こんなんじゃ…っ…」

 ようやくデスクから顔をあげた先生が、真っ赤な顔で上目遣いに睨みつけてくる。
 いまにも泣きそうに涙目になっている様子で察し、椅子の背後から薄い肢体を抱き寄せると、先生の身体は未だに渦まくような熱をもっていた。

 「もしかして、足らない?」

 云いながら腕をまわした胸のしこりのあたりを摩ると、びくっと大仰に上体がはねた。
 図星だ。目に見えて、一気に先生の顔が耳まで赤くなる。


「〜〜〜〜〜ッ全部やがみくんのせいなんですからッ!!!」


 これまではこんなこと一度だって無かったのに、と泣きそうな声で呟きながらも僕の背にしがみついてくる先生を抱きしめた瞬間、なんだかさっきまでの嫉妬心は、うそみたいにすっと流れてきえていた。


 たぶんこんな先生は、ずっと僕から離れられない。
 それは己惚れでも不遜でもなく。








 「30分で済ませて、そのあと仕事したほうが絶対能率が上がると思うよ?」

 「……20分にしてください」













おつかれさまでした〜
ちょこっとオチつけるだけで何ヶ月もかかってすいません…
時間がかかったというよりは忘れてたが正しいです(最・低)
読み手にやさしくないです、ここのSSは…

嫉妬ネタはこのほかにもなんパターンかありまして…
竜崎先生視点とかシリアスとか
竜崎先生視点はいつかかきたいです。
甘えたいのに、わがままいいたいのに素直になれない、そんな年上受…
そんな嫉妬心がか・き・た・い(´∀`*)
まあおいおい、おいおいということで!


ここまで読んでくださり、アリガトウございました!




update---2007.4.10