セカンド編のあと。
キスマーク 「金輪際、私にキスしないでください」 剣呑な響きをもって言い放たれた言葉に、月は顔を上げて目をまるくした。 「…………………は?」 「キスしないでくださいと云ったんです」 昼休みの化学準備室。 短い恋人同士としてのひと時。 常になく不満を露わに、竜崎は眉根をよせて月の顔を睥睨している。 拗ねてみせることはあっても月に対して本気で怒ったことのない竜崎の、その怒り心頭といった様相に、一瞬で尋常でない事態を月は悟った。 「ち…ちょっと待ってよ、先生。僕何か悪いことした…?」 「大有りですよ」 竜崎の指が自らの首もとを差す。 「コレです」 「……?」 「……この間夜神くんキスマーク、つけたでしょう?」 「? うん」 たしかにつけた。 つけてから数日がたとうとしていたが、指差された先を見れば竜崎の細くしろい首すじには、未だ薄っすらと赤い鬱血の痕が残っている。 月はうん、と素直に頷いたあと、小首を傾げた。 恋人同士の情事ならキスマークのひとつやふたつ、普通のことではないのか。 恨めしそうな視線を投げながら、竜崎が唸るように低く声を出す。 「コレのおかげで大変な目に遭ったんですから」 「大変な……?」 「昨日、放課後の職員会議の前…L先生に… (※会話抜粋) 『奥手かと思ってたけど、違うんだな』 『は…?』 『首のココ、痕ついてる』 『? ………………あ!』 『ふうん。竜崎先生はもう誰かのお手ツキか。相手は誰?どんな女?』 『あ、あ、あのッ………』 『お盛んみたいじゃない。そんなくっきり痕残されるなんて。……意外だな。 人は見かけによらないもんだね、先生』 …って」 ことの顛末を話し終えると、竜崎は赤らんだ顔をうつむけ短くため息をついた。 「もう…ほんとうに恥ずかしかったんですから!」 「…………L、先生?」 冷やりとした月の声に、びくりと反射的に身体が震える。 L、という単語に反応してか、唐突に月から放たれるびりびりとした空気に気圧され、竜崎は思わず後ずさった。 月が半眼になって言葉を続ける。 「からかわれただけ?……他には?何もされなかった?」 「は 、は い……」 ぎくりと、背中に冷たいものがはしる。 実際は給湯室にふたりっきりだったのが災いして、抵抗はしたものの、シャツの釦をひとつ外されたり、襟元を引っ張られて他に痕がないか中をのぞかれたりしていたが、例え冗談半分だったとはいえ他の男にそんなことをされたと分かったらそれこそ、 月に何をされるかわからない。 「……ふうん」 ぎこちなくも返事を返した竜崎を、月はしばらくじっと見つめていた。 あからさまに探るような、強い視線。 責任を糾弾していたはずなのに、これではまるで立場が逆だ。 竜崎が閉口して居心地悪そうに身を捩らせると、パイプ椅子に腰掛けていた月がおもむろに立ち上がった。 「だからもうキスするなって?」 「……ですから、み、見えるところに……痕 つけられるのは困るんです!」 及び腰になりながらも竜崎は頑とした姿勢を崩さない。 すべては月の行動が起因なのであって、腹を立てるべきは自分のほうだ。 精一杯に下から睨みつけてくる竜崎に顔をよせると、月はにっこりと端整な美貌を笑みのかたちに緩めた。 「いいよ。先生がそう云うならもうつけない。 …見えるところには」 「……は」 「つまりは見えないところなら何処につけても良いわけだ」 「……あの」 「何処につけようかなぁ。肩とか…、二の腕とか…、鎖骨とか。 ……たくさんつけてあげるから、ね」 「や、夜神くんっ!」 にやにやとくちびるを歪めながら横目で窺うと、つけられるさまを想像してか、竜崎の顔がみるみる赤くなる。 「胸元に、腹……脇腹とか、先生すごく感じるもんね。腰骨に、内股に…」 「やっ…、や…やめてください! やが…」 「あと」 ぐっと月の腕が竜崎の身体を引き寄せ、耳朶に笑んだままのくちびるをよせた。 「×××××」 「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 「あははは!先生顔真っ赤!!」 その後、 ほんとうに×××××に痕つけようと試みた月は、先生のほんきの怒りを思い知らされますおよそ足で。 副題・『先生が服で隠れないところへのキスマークを嫌がるようになった理由』(なが!)、 如何でしたでしょうか。 資料室での一行を書いたとき、すでにここまで妄想していたワタシはちょっとオカシイのかもしれません……妄想…妄想過多… 今気づいたんですが、エロのない教師SSってはじめてのような! ……イヤ、宅配便書いてた…(なんなんだ) 謝りたいのはL先生です。 はじめて教師SSにからめたのにありえないチョイ役です。 ゴメン。兄さん。所詮コレは月Lパラレルなんだよ…(シビア!) 教師はこういうコネタも脳内に満載だったりします。 よろしければ、感想などお聞かせくださいv update---2005.7.10 |