放課後編、その翌日。 お見舞い 「どうしてここが?」
「担任に聞いてきた。…上がっていい?」
風邪ということになってはいたが、滅多なことでは休んだりしない先生が休むということはよっぽど事態が悪いに違いないと考えると、いてもたっても居られなくなり、放課後わざわざ住所を調べてこうして先生の住むマンションまで様子を見にきたわけだ。 「学校を休んでる先生を心配して生徒が見舞いに来たら、おかしい?」 靴を脱ぎながらそう言って上目遣いに先生を見やると、先生は嬉しいのか困惑しているのか判別しづらい、ばつの悪そうな顔をうつむけた。 「そうだ、コレ」 手に持っていたコンビニのビニール袋をそのまま差し出す。 「差し入れ。いろいろ冷たいものとか適当に買ってきたけど。ゼリーとか……先生、甘いもの大丈夫だっけ?」 「え……」 袋を押しつけるようにして手渡すと、先生は目をまるくしてひどく嬉しそうな微笑を浮かべた。 「はい……甘いもの大好きです。わざわざありがとうございます」 その表情を見る限りでは相当好きなんだろうかと、ちょっと意外に思う。 「すみません、ちょっと散らかってますけど……」 そう言いながら廊下を進み、ダイニングに向かう先生の後に続く。 「いいよ先生。おかまいなく。それより具合はどう?」 問いかけると、先生は逡巡するように視線を仰がせたあと、 「あ、いえ、……熱がちょっとあって。今日は大事をとってお休みしただけです。明日はちゃんと学校行きますから。……ありがとうございます」
「ごめんね。無理させて」 「………!」 言葉の意味を汲み取ったのか先生の目元にさっと朱がはしった。 不意にあらわれた、触れたくなる欲求をかき消すように抑える。 気を取り直すかのようにカップを準備し始める先生に目をやると、こういうことをする習慣があまり無いのか下手なのか、コーヒーを淹れようとするその手つきはぎこちなく、見ていてこっちがハラハラするほど危なっかしい。 「いえ、そんな……夜神くんはお客様ですから」 「先生は病人だよ。……まだ熱引いてないんだろ。顔、赤い」 身を縮こませるようにして恐縮する先生の顔を、何の気なしに至近距離で覗き込む。 「昨日の今日でどうこうしようなんて考えるほど鬼じゃないよ。……いいから寝てて。なんにもいらないから」 ため息混じりにそう言いながら寝室の方へ腕をひくと、先生は赤い顔をうつむかせて「すみません」と小さく呟いた。 「熱、高いの?」 何の気もなしにその額に掌をすべらせると、不意の出来事に先生が身体を強張らせた。 「いえ、ちょっとまだ、……微熱が、あるくらいで……」 視線を足元に傾けたままの先生の口からぎこちない答えが返ってくる。 「ふうん…」 するりと手を離すと、先生は肩の力を抜いてまた小さく息を漏らした。 「いろんな本があるね」 その中から戯れに一冊を取り出しページをめくってみると、背後から先生のどこか嬉しそうな声が聞こえてきた。 「興味があるものがあればどれでもお貸ししますよ。夜神くんなら充分読めるものばかりだと思います」 読める、とは言われても、どのページを開いても頭の痛くなるようなおびただしい英数字の連なった数式や化学式が印字されているばかりで、とてもじゃないが暇つぶしに斜め読みして理解できそうな内容ではない。
「そうだ、先生あれからちゃんと手当てした?」 思い出したようにそう問いかけると、先生は僕を見つめたままなんどか目を瞬かせる。 「何のですか?」 「だから、怪我の」 「け……………」 しばらく唇をひらいたままぽかんとしていた先生が、ようやく何の話をしているのか理解したのか耳まで真っ赤に染めあげた。 「あ、あの………ッ…」 「やっぱり。してないんだ」 ため息をつきながらそう言うと、先生が顔をうつむかせて固まる。 「薬、買ってきたから」 そう言ってベッドに向き直ると、ぎょっとしたような表情で先生が後ずさった。 「いッ、いいですッ!じ、自分でします!!」 ベッドに足を乗り上げて逃れようとするその身体をたやすく捕らえると、腕を掴んで引き寄せる。 「駄目だよ先生。そんなこと言って自分ではゼッタイやらないでしょ」 のん気な声で言い嗜めながら胸をあわせるようにしてつよく抱きこむと、先生が喉を鳴らして絞り上げるような声をあげた。 「嫌です…っ」 思いのほか派手に抵抗してみせる先生をなだめるように瞼に唇をおとす。 「大人しくしててよ。薬塗るだけだから」 「ううっ……」 真面目な顔で力を緩めることなくそう告げると、逃げられないと悟ったのか、観念したように先生が腕の中で沈下した。
「大丈夫。すぐ済むから」 安心させるように優しく言いながら薬のチューブの蓋を外し、片手でその中身を指先に押し出した。 「力、抜いてて」 そのまま指先を入り口にあてがうと、僅かに力を込めてそろそろと内部に潜らせる。 「………………っ」 先生がぶるりと肩をふるわせて息をつめた。 「ごめん。痛い?」 気遣うように囁くと、先生がちいさく首を振ってその顔を僕の肩口に埋めた。 「もう少し我慢して」 入り口付近にも丹念に薬を擦りこむ。 ひととおり作業を終えると、傷にさわらないよう丁寧に指を退く。 「……はい、もういいよ。先生」 淫靡さをはらみ始めた空気を分断するように、わざと区切ってそう告げた。 「……………」 促すように脇腹に手をやっても、何故か先生は僕の肩にしがみついて顔を埋めたまま離れようとしない。 「先生?」 「………………」 もしやと思い無造作に指を前方にすべらせてみると、先生がびくりと顔をあげて狼狽えるように腰を退いた。 「あッ、や、駄目ですっ……」 ふれてみれば其処は、すでにはっきりとした反応を示していた。 そのままたちあがった性器に手を絡ませると、耳朶を舐め上げ奥に舌をさしいれる。 「……いいよ、先生。楽にしてて」 そう囁いてゆるゆると握りこんだ手を上下させると、先生が息をのんで一層つよく僕の制服のジャケットに爪をたてた。 「あっ」 そうやって前に刺激を送りながら、再び軟膏で濡れたままの指を後孔にもぐらせる。 「イかせるだけだから」 先まで治療の意味で触れていた其処を、今度は明らかに性感を刺激するためにさぐるように蠢かせる。 「あ、あっ…、や、嫌です…っ…こんなの…」 たった一日で自分の身体が大きく変化をみせていることに気がついたのか、先生が快楽に酔っているというよりは怯えに近い、か細いなき声を上げる。 「大丈夫。気持ち良いんでしょ?こわくないよ…」 囁きながらも追い詰める手の動きを速めていくと、それに比例して激しさを増す不規則な呼吸と喘ぎを繰り返しながら、先生がその細い両腕を僕の首にぎゅっと絡ませてきた。 「や、っ…ぁ、あっ…!」 ぐり、とつよく内部から前立腺のあたりを指の腹でこすりあげると、先生がひと際高い声を放って吐精した。 「……夜神くん…?」 「眠れそう?」 そうやさしく呟いて頬をなでると、虚ろなとろりとした黒い眼が戸惑ったように僕を見上げてきた。 「…あの、でも、………夜神くんは……」 何をいわんとしているのか察して、気を遣ってくれてるのかとすこし嬉しくなる。 「これ以上したら先生明日も学校来れなくなっちゃうよ。それじゃ困るだろ」 笑ってそう告げると、先生は赤い顔をシーツに擦り付けて「すみません…」と申し訳なさそうに小さく呟いた。 「先生はゆっくり休んでよ。僕はここにいる」 そのまま片手で黒髪を梳くようにくりかえし撫でると、先生は気だるげに横臥したままくすぐったそうに首を縮こませる。 「ゴメン、イヤだった?」 仮にも年下の自分にそういう扱いをされることが気に障ったのかと思い、手を引っ込めると、先生が慌てて身を起こした。 「い、イヤってわけじゃ…!」 僕は面食らってわずかに目を見開く。 「……嫌じゃ…ない、です…」 消え入りそうな声で呟く先生に、笑って優しくその唇をふさいだ。 「おやすみ、先生。早く良くなってよ」 上体を起こし、髪を梳いてやりながらそう微笑むと、先生は熱のひかない上気した顔を僕から隠すようにして枕に埋めて横向いた。 二度目にみる、先生の寝顔。 その子供のようにあどけない安心しきった表情を見つめているだけで、ばかみたいにどきどきしている。
end. おつです。 お見舞い編お届けいたしました。 今回も反吐が出るほど甘くて申し訳ございません…。もう趣味だから。甘いの大好きだから。ワタシが。 放課後編で削ったエピソードに色つけて起こしなおしたのがコレです。 エロとか最初はなかったですが、単体で読むなら入れるべきだろうと思い直しました。 ていうかワタシが書きたかっただけです(暴・露) ホント「高校教師にはこういう路線の話が求められているのではないか」とかいうことを意識するよりも、 己の欲望を先行させっぱなしです。まるで暴走列車。途中下車は出来ません(謎!) 竜崎先生がもはやLたんの片鱗すら残っていないような気が最近になってしてきました。 いいんだ。いいんだよ、パラレルだから。 よろしければ感想などお聞かせくださるとありがたいですv 最後まで読んでくださってアリガトウございました! update---2005.4.4 |