「四度目です」 埃っぽい床に「もう授業はないからいいです」と云って、白衣が汚れるのも構わず座り込んで黙っていた先生が、おもむろにその口を開いた。 「何が?」 立ったまま身づくろいをしながら僕が聞き返すと、先生がのろのろと気だるげな視線をこちらに向けてきた。額に垂れた黒髪の隙間からのぞく目元や瞼はわずかに赤く腫れ、えもいわれぬ艶めかしさの残る其れは、先の情事の余韻を顕著に表している。 「夜神くんがこうして授業をさぼった回数です」 汗で肌にはりついた髪が気持ち悪いのか、指先でなんども頬をこするようにして払いながら、先生が溜息まじりにそう答えた。 着衣の乱れをきっちり直し終わると、壁に寄りかかるようにしてぼんやりと座っている先生の前にしゃがみこむ。顔をうつむかせ膝を抱えている先生は、未だシャツも肌蹴っぱなしで、下にはなにも着けていない。薄暗い室内で、その惜しげもなく晒されたままの白く細い脚が、やけに際立ってみえた。 「ようするに」 腫れたまぶたの上を、水分をふくんだ睫毛をぬぐうようにして親指のはらでこする。 「言い換えれば、先生が生徒のサボリを黙認した回数ってことだろ」 くちびるを悪戯っぽくゆがめて云うと、先生がむっとしたような、ばつが悪そうな、判別のし難い表情で僕を睨みつけてきた。 先生も割かし学習能力が無い。 そんな未だ潤んだままの目でにらまれたって、逆作用こそあれ、 先生の思うような効果なんて得られもしないのに。 「冗談だよ」 云いながらも笑いをかみ殺している僕の態度に、いっそう先生が眉根をよせた。 「足、ひらいて。先生」 閉じられている先生の膝を掴んで、言葉とともに促す。 わずかに狼狽える先生をよそに、僕はぐい、と力をこめて其処を左右に押し開くと、ポケットから取り出したハンカチで情事の跡を拭いとり始めた。 他に後始末できそうな用意はしていなかったので、止むを得ない。 遠慮がちに「いいです」と呟いて、力無く退かそうとする腰を押しとどめる。 僕はともかく、こんな有様では先生は服も着られない。 開かせた脚の間では、先生の出したものと、僕が先生の中に放ったものとがその白い内股を伝い、そのままの状態で座っているので、それが白衣までにも垂れおちていた。 汚れを拭い清めながら、僕がもういちど「白衣、汚れるよ」と先に発したのと同じ台詞を口にすると、先生も「もう授業ありませんから」と同じ答えを返してきた。 ふと目に入った腕の時計を見やれば、五限目も残り十分を切ろうとしている。 昼休みどころか、さらに一時間も潰してしまったこの資料室の片付けは、おそらく放課後まで費やさせることになるだろう。 「ごめんね。……放課後、ちゃんと手伝いにくるから」 「もう絶対にしないですよ」 先制して釘を刺すような先生の言葉に、思わず半眼になってその顔を眺める。 致し方ないとは思うが、 いったいどういう目で僕を見てるんだか。 下肢をひと通り綺麗にし終わると、次はシャツに手をかけ、 外れたままのボタンを下から順にかけていく。 「次はいつできるかな」 ひとつひとつ丁寧に留めながら真面目にそう呟くと、先生が眉をたわませ、 呆れたように息を吐いた。 「することばっかり考えないでください」 「だって、先生が好きなんだもん」 「す……」 さも当然、とばかりに微塵も表情を変えずにそう告げると、大きく目を見開いた先生の顔が、まるで火がついたようにみるみる赤く染まった。なにか云いあぐねるように、なんどもそのくちびるが開いたり閉じたりさせられる。 僕の不意を打った一言に、顕著なまでに動揺してみせる先生ににやにやと笑んでみせると、再度同じ言葉を、わざと区切るようにして舌にのせた。 「好きだよ、センセイ」 「あ……」 まだ襟がひらかれたままの胸もとに顔をよせ、舌で舐め辿り着いたほそい鎖骨の下のあたりに、噛みつくようにして口づける。先生の口から吐息をふくんだ微かな声が漏れた。 そのままきつく吸い上げる。 僕の腕に絡ませた先生の指が、つよく制服のジャケットを握りしめた。 ちゅっと軽く音を立ててくちびるを離すと、其処が赤く鬱血したことを確認する。 服で隠せないところに痕をつけようとすると嫌がるので、僕はいつも誰にもわからない場所に印をつける。先生が僕のものだという所有の印。そんな意味もない些細なことで、 僕が先生を繋ぎとめようとしていること、きっと先生自身だって気づいていない。 付いたくちびるの痕をぺろりと軽く舐めると、ボタンを外すまえと同じように、一番上まできっちり留め直してやる。 「コレが消えるまでには、またさせてね」 顔をよせ耳元で囁いて、優しくこめかみにキスをおとす。 名残惜しく髪を撫で、ゆっくり身体を離すと僕はまた時計の針を見た。 そろそろ五限目の終わりを告げるベルが鳴るころだ。 「それじゃ、そろそろ戻るよ。また、放課後来るから」 そう告げて僕が立ち上がろうとするのと、それをさし阻むように先生の手が僕の制服の裾を掴むのとは殆ど同時だった。 「先生?」 僕が訝しげに目を瞬かせると、先生はばつが悪そうに赤い顔をうつむけ、視線をさ迷わせた。ジャケットの裾は握りしめられたままだ。 「あの、や、休み時間……いえ、ベルが鳴るまででいいですから、 ……もうすこしだけ…」 さも云いにくそうに、しどろもどろに告げられるその言葉は、この至近距離にいてなお耳をそばだてなくては聞き取れないほど小さなものだったが、それでも確かな響きを持って僕の鼓膜を震わせた。 「……………いいよ」 伸ばした手で頬をかすめるように軽く撫ぜて答えると、先生は嬉しいのか恥らっているのかまた判別のし難い表情で目を閉じ、顔をうつむかせた。 いつまでもしゃがみこんでいるのも億劫だし、もう汚れてもいいかという気分になり、先生の隣に壁に凭れて座り込む。どうせこの資料室をなんとかして帰るころには日も暮れて、夜目にはそうそう目立たないだろう。 「制服が汚れますよ」と口をへの字に曲げて云う先生に「もう授業出ないからいいよ」と答えると、先生は首を軽く傾がせ、きょとんとした表情でなんどか瞬きをした。 「でも六げ……んっ」 腕を掴んで身体を引き寄せ、何事か生真面目な台詞を紡ごうとするくちびるを、自分のそれでやや強引に塞ぐ。先生が驚きからかくぐもった声を上げ、身を強張らせた。 柔らかく押しつけ言葉を遮りきると、あっけないほどの短い時間で唇を離す。 掠め取るような口付けに目を閉じることも忘れていた先生は、その一瞬のうちの出来事に、赤い顔で固まったままだった。 長い前髪をかき上げ顔を覗きこむと、綺麗なかたちに口もとを吊り上げる。 「先生」 「え?」 「一日で二時間連続してサボった場合、 それも一回でカウントするの?」 遠くで、終業を知らせる鐘が鳴っていた。 end. おつです。 資料室編、いかがでしたでしょうか。 拍手等でコメントくださっていた方、お待たせしてたいへん申し訳ありませんでした…。 思えばバラバラにupしたのってコレが初めてのようね……イヤ、そうでもありませんでした(なんなの) ワタシ自身、連載SSって続きがひじょうに気になるので、いっきにまとめて読みたい派なんですが、 どうなんでしょう……今回のように1ページづつ小分けにupしていくのと、最後まで書き終えてからガッとまとめてupするのと、どちらの方がいいですかね?(聞くなよ) ともかく、可愛くおねだりする竜崎先生が書けたので、個人的にはまんぞくです! 「なんかラスト、おちてなくない?」とかはノーツッコミの方向で。 ホントエロ描写のときにはエロ神(略してエ神←謎!)がご光臨なさっておられるので、もうキーボードは休まる暇がないほどなのですが、 それ以外だと途端に苦悩する哲学者みたいなかんじでパソコンのまえで考え込んでしまいます…。 ようするにエロが書きたいだけか!ワタシは! OTL よろしければ か、感想とかくださるとウレシイですv 次は保健医連載とかいっちゃおうかとか考えてはいますが、いまんとこ未定です。 コッチはあんまり甘々でもナイんですが……化学教師の方がいいですかね?(だから聞くなよ) それでは、最後まで読んでくださりアリガトウございましたv ---update:2005.5.17 |