玉響








 自分がこんなにも堕落してしまえる人間だとは思わなかった。


 すくなからず私自身理性の力で自らを律せると思っていたし、
 これから先もそれは変わらない。


 ただ、このときだけ。


 この腕がこの身体にふれたときだけは、身の内側から湧きあがる溶けてゆきそうな熱に、自分が溺れていくのを止められない。
 彼の指が、くちびるが、肌にふれるたびに。
 心の箍を外され、奥まで暴かれて。
 あの深い榛の瞳が私を射抜くたびに、


 彼は生徒なのに。
 私は教師なのに。


 この関係に溺れきっていく自分を、止められなくなるのだ。











 「どうかした?…先生」

 わずかに乱れた熱い息が、囁きとともに耳朶に吹きかかる。

 「……何がです?」

 「なんか、ぼんやりしてるみたいだったから」

 云いながら、彼は私の肩口に顔を埋めた。そのまま甘噛みするようにくちびるをつけ、いたずらに吸い上げてくる。

 「他のこと考えてたでしょ」

 軽く腰を退かれ、思わず声が漏れる。
 繋がったままの下肢が、ぐちゃりとちいさく粘着質な音をたてた。

 「…っ、夜神くんはかっこいいなぁって考えてたんです」

 「ほんとうに?」

 彼の手のひらがゆっくりと汚れた内股を撫で上げる。それだけで肌が粟立つような余韻をひく感覚に、また私の中でぞくりとするものが湧いてくる。

 「うそです、ほんとは五限の小テストの採点、
 明日までだなって思ってました」

 薄いあめ色の髪を撫でながら云うと、あからさまに不満げな表情を浮かべ
 彼が顔を上げた。

 「なお悪いよ」

 時おりはっとするほど大人びた顔をしてみせる彼も、こういう拗ねた様子は十七歳相応の高校生にみえる。ふとしたとき覗かせる、彼の偽らざる素顔。
 普段は決して垣間見せない彼のそういうところが、私は好きだった。


 「そんなに余裕があるなら、まだ大丈夫だね」

 「……、っん」


 確かめるように揺さぶられ、達したばかりで敏感な内壁を擦られる感触に、反射的に息を飲む。いつの間にか、中に居座ったままの彼自身が硬度を取り戻しつつあった。

 「………まだ、するんですか?」

 最初に口づけを交わしてから、かれこれ40分は抱き合ったままでいる。
 この時期、こうして身を寄せていればそれだけで暑さで汗が滲むが、不思議とそれを不快には感じない。


 「したい盛りだから。若いし」

 「人が年寄りみたいな云い方しないでください」

 「ならいいでしょ。もう一回だけ」


 子どもが強請るような口調で、彼がすり寄ってくる。
 こういうとき、わざとらしくも甘えた声を出せば、私が否とは云わないのを、悔しいけれど彼は良く知っている。


 「嫌ですって云ったら?」

 「いいって云って」


 彼の指がそっと押しつぶすように、
 私のくちびるにふれた。


 「…………いいですよ」


 呟いて、その長く形の良い指に軽く歯をたてる。
 彼は幼い顔で満足そうに微笑むと、足を捉え再び私の身体に圧し掛かってきた。





 そうしてまた彼の手が私にふれて。

 私はいつものように目を塞いだ。






 拒めない甘美な誘惑に、溺れていく自分を感じながら。 









短っ!

すいません特に意味はありません…
たんに竜崎先生視点の練習でした。
むずかしいんですよね…教師設定での竜崎視点。とくにエロ。
未遂以外はぜんぶ月視点ですからね…そのほうがハナシも進めやすいのですが
中には先生視点じゃないと成り立たない話もあるので。

玉響(たまゆら)ってひびきが好きです。
うたかた的な意味合いだったとおもうのですが…瞬間とか、しばしの間みたいな。
コッチも深い意味はありません…



update---2005.8.31