バレンタイン編 驚いた。
週初めの昼休み、なんの気無しにバレンタインの話題になり、その時に先生は『チョコレートを貰えるのは嬉しいけれど、貰ったらお返しをしなくてはならないし、生徒からのものも含めれば大変な数だから毎年頭が痛い』とため息をついていた。 まあ、僕にしたって似たような考えだったし、 間の抜けた顔のまま先生を見つめていると、先生がばつの悪そうな顔をうつむけてぼそぼそと呟いた。
「…………」
細いリボンに控えめに印字された、有名なショコラティエの店名が見て取れる。
「!!」
包みを紐解くと、ゴシックブラウンの箱の中には数個のシンプルなプラリネやトリュフが詰められている。 「あんまり甘くないのを選んだつもりなんですけど…」 そう云う割りに、はなからビターという選択肢がないところが先生らしい。 細やかな細工の施された粒をひとつ取り上げる。 「先生、あーんして?」 にっこり微笑んでそう云うと、先生は眉をしかめて閉口した。 「私に食べさせてどうするんですか。 ほんの少し指先に摘まんでいただけで、もう溶け始めたチョコレートを慌てて自らの口の中に放り込む。舌に纏わりつく独特の甘味は、良質なそれでもやっぱり甘いものは甘い。 「無理して食べなくてもいいですよ」 そっぽを向き、先生がわざと拗ねたような声を出す。 「ん…、っ…」 そのままくちびるを押し開くように舌で促し、チョコレートを割り込ませる。 「甘いね」 ため息の端でそう呟くと、先生はすこしだけむっとしたような表情を作った。 「あたりまえですよ。チョコレートですから」 「いや、先生が」 「え?…」
チョコレートの後味が残ったままの舌で舐めたら当然そうなるだろう。 ちゅ、ちゅ、とわざと音を立ててさらけ出された肌を舐るたび、先生は先の甘さに当てられたみたいにいつもより高い声で鳴く。無意識に決まっているが、媚びるような視線で身をよじらせるさまは発情した雌猫みたいで、意図しない煽情的な媚態はこっちの余裕も失くさせる。 「あ、あ…、っや、や がみくん…」 唾液をまとわせ、慎重にもぐらせた指でゆるゆると内壁をなでていると、鼻から抜けるような甘い声で、先生が僕の名前を呼んだ。 「なに? 先生」 「…っも、ぃ …ですから」 「え?」 「ゆび、いいです、から…、はやく…」 ほしいです、と息だけで強請る。珍しい。 「駄目だよ。まだ全然慣れてない。…ほら」 確かめるように指先を内部で折り曲げる。 ゆっくりと指を増やし、くちゅくちゅと水音を立てて粘膜をこすりあげるように抜き差ししていると、短い不規則な喘ぎが、息をひくような泣き声混じりの音に変わる。 「や…、あ …、あ…、っ、もう…っ」 「我慢できないの?」 指は休ませずに耳裏に口づけながらそう囁くと、先生が目尻に涙の溜まった瞳で頷いてみせる。その切羽詰まった様子に苦笑すると、僕は指をずるりと引き抜いた。まだ不十分だが仕方がない。 「そうだ」 可哀相なほどに余裕のなくなった先生を見ていると、不意に悪戯心が湧いた。 サイドボードに包みごと置いてあったチョコレートの箱に手を伸ばし、粒をふたつほど取り上げる。怪訝そうな表情を向けている先生にそれを翳してみせると僕はにっこりと微笑んだ。 「食べさせてあげるよ」 「え…?」 咄嗟に何のことか判断しかねる、と云った様子で聞き返してくる先生に構わず、だらりと無防備に開かれたままの膝を捉え、その奥まった場所に手を伸ばす。ぐっとソレをいりぐちに圧しつけたところでようやくその意図に気がついたのか、先生が慌てた声を上げて身を起こした。 「や、夜神くんッ!?」 指先で押しこむように力を加えると、小さなチョコレートの粒は滑り込むようにして、なんなく先生の中に収まった。 「っう…、な、にを…」 「大丈夫。先生のココ、すごく熱いから直ぐ溶けてなくなっちゃうよ」 「や…ッ やです…!やめ…」 僕の言葉に血相を変え、咄嗟に腰を退こうとする先生を逃がさず押さえ込むと、笑いながらふたつ目を中に押し入れる。再びすんなりと内部に這入りこんだ粒を更に奥へと送り込むように指を挿れると、ひとつ目のチョコレートは既に周りから溶け始め、硬度を失くしていた。 「と、とってくださ…っ、おねがいですから、やがみく…」 「大丈夫だって。悪いものじゃないし」 「そッ、そういう問題じゃないです…!!」 先生は今にも泣きそうな真赤な顔でおろおろしている。 「ほら、もう溶けてほとんどないよ」 「……ッや…」 「舐めて、出したげよっか?」 「!! やだぁ…ッ」
「…っひ、酷いです… せ、せっかく買ってきたのに、こんな…」 「ごめんね。先生」 予告なく指をずるりと抜き去ると、「あっ」と大袈裟なほどの声を上げて先生が仰け反った。当然、溶けてどろどろになったチョコレートに塗れた指に、舌を這わせてみる。 膝をつかんで閉じかけた脚を開かせる。 お菓子で悪戯なんてするから、交わる前から先生の肌は糖分でべたついてしまって、舐めたらきっとどこもかしこも甘いような気がする。
「え…」
ぬるりと吸いついてくる感触とともに僕を迎え入れる先生の奥地は、チョコレートが潤滑になってか思ったよりすんなりと開いた。根元まで埋めこませると、びくびくっと軽く奥を痙攣させ、僕を締め上げてくる。 相変わらず狭い、先生の中。 何度抱いても、気を抜けば直ぐにも持っていかれそうになる。
「…ちょっと、激しくしてもいい?」
「ひ ッ… !!」 ぐちゅ、ぐちゅ、と腰を揺らすたびに艶めかしい音が鼓膜を犯す。 いつもだったら、くちびるを噛んで声を殺そうとするのに。 始まりからしても学校で他人の目を盗んで抱き合ってばかりだったから、例え場所がこのマンションの寝室であっても先生は極力声を出すまいとする。
まるで逃すまいと必死にすがりついているかのような子どもじみた仕草に、えもいわれぬ愛おしさがこみ上げてきて、吐息ごと塞ぎこむように濡れたくちびるに口づける。 甘い、どこまでも糖度の高いセックス。 いままでにこんなにまで求められているセックスを味わったことはないな、とぼんやり考えながら揺さぶっていると、先生の鳴き声が色を変えた。絶頂が近い。 あぁ、あぁ、と高く押し出すような喘声を吐きながら、先生が身をくねらせる。
途中…途中… |