週末といえば、古泉の部屋で過ごすのが既にルーチンになっている。
 金曜の夜にやって来て、土曜のミーティングには一緒に奴の部屋から向かい、日曜の夜に家に帰る。その間フリーの時間帯に何をしているかと言えば、古泉のコレクションの中から適当なボードゲームをしたりだとか、ぼんやりテレビや借りてきたDVDを見たりだとか、飯食いに行ったりすることもあれば、部屋から一歩も出ない時もある。その場合は無論、服を着ずに出来ることをしている、とお思いだろうが。
 残念なことに古泉と俺は、まだ服を脱ぐ段階まで進んじゃあいなかった。















学校じゃ教えてくれない××


















 勢いで床に後頭部が当たって、ごつん、と音を立てる。
 が、文句を言うほどの痛みがあったわけではないのでそのまま黙っておいた。
 仰ぎ見た天井の真っ白なクロスを背景に、割合に切羽詰まった表情の古泉が視界を覆う。こいつが余裕を一切剥ぎ取ったこういう顔の時は、大抵スイッチが入った時だ。
 そのまま顔と顔のわずかな距離をゼロにされ、くちびるに柔らかなそれが触れる。

 「ん、…」

 季節の変わり目で空気が乾燥しているせいか、ほんの少しだけかさついた唇同士を触れ合わせていると、次第に表面が濡れて熱をもってくる。すぐに合わせているだけじゃ足りなくなって、どちらからともなく舌を差し出し、互いの粘膜を貪るような深いキスになる。
 キスという行為にこういう、いやらしいやり方が存在すると古泉に教えられ知ったのは最近だが、幾許も経たないうちにすっかりその味と気持ち良さを覚え込んでしまって、今や嵌まってしまっているといっても過言ではない。
 ぴちゃ、とちゅ、という擬音を混ぜたような音を立て、古泉の唇が離れる。
 キスの直後の唾液に濡れ赤みを浮かべたそれは、いつ見ても猥雑だ。
 重力に従って咥内に溜まった、半分は古泉のものであろう唾液を無意識の内に飲み下すと、まるでつられるようにそれをじっと見ていた古泉の喉も動いた、のがわかった。

 「したいです、…貴方に、触れたい」

 触れさせて下さい、と懇願されて、ノーと言えるだけの理性は最初に触れ合った時にとっくに崩壊している。
 だらし無いほどに快楽に弱い、という自覚はあったが、好きな相手に触って、触られることで齎されるこの異常なまでの快感に勝てる人間がいるならお目にかかってみたい。ましてや、それが若い身体を持て余している高校一年の男子ともなれば、誰が俺を責めることが出来るだろうか。生理現象というやつだ。身体の欲求には、逆らえない。
 床に押し倒された状態で合意するように力を抜くと、シャツの上から胸元にふれた古泉の手から、僅かの遠慮も無くなった。
 まさぐり、せき立てられるように服の下に手を突っ込んで直接肌を撫でられる。その間にも小さなキスが、額やら頬やら首筋やらに細かく降ってくる。

 「あ、…、っ」

 シャツを首許まで大きく捲られ、ちゅ、と乳首にもキスされた。
 触れるだけじゃなくてすぐに舌が絡まり、つるりと咥内へ含まれたかと思うと強く吸いたててくる。

 「んん、…っやだ、って…それ」

 じん、と身体の内側に響く、むずむずするような得体の知れない感覚が嫌で、そこにはさわらないでほしいといつも頼んでいるのに古泉は、毎回触れてきては気持ち良くならないですか、と聞いてくる。気持ち良くないから嫌だと言っているのに。
 苦笑しながらそこから離れると、今度はベルトを外しはじめる。

 「今日は……脱がせても、いいですか」

 パンツの留め具を外し、ファスナーを下ろしながら俺の反応を伺うように恐る恐る聞いてくる。
 大抵古泉とこういう事態に陥っている時、服を脱ぐことは滅多にない。
 互いに抜き合うくらいなら服を着ていても出来るし、必要でないなら裸を見せるのは恥ずかしい、というのもあった。
 しかし、まるで、ドン引きされるの覚悟で要望を口にしたはいいものの俺の回答の是非が不安で不安で堪らない、といった風情の奴の顔を見て、嫌だと言い切ることも出来なかったのも正直なところだ。断ったらここでやめられそうな気もするし、それはそれで辛いものがある。

 「…好きにしろよ」

 そっぽを向いて小さく呟くと、古泉がほっと息を吐いた気配がした。
 そのまま緩められた下衣をそろそろと脱がされる。
 その遠慮がちな手つきが逆に羞恥を煽って、俺は腕を眼窩に置いて極力それを見ないように努めた。
 下着をずり下ろされた時にはさすがに声を上げそうになったが耐えた。
 そうしてすっかり下を裸にされる。

 「……あんま見るな馬鹿」

 唸るように言うと、すみません、と奴の返事が鼓膜に落ちる。
 視界をふさぐと小さな布擦れの音さえやけにはっきり聞こえて、それがひどく逆に卑猥なものに思えた。

 「………っあ、」

 ゆるく立ち上がったものに、手指が絡まる。
 びくんと返事をするように腰が勝手に跳ねた。そのまま殊更形を確認するかのような手つきで扱き上げられ、喉の奥からせりあがる息が切なげな音を立てた。
 どうして古泉の手だというだけで、こんなに気持ちいいんだろう。
 古泉にされた、いやらしいことの記憶を手繰って自分の手でしたところで、ここまで悦くはなれない。その訳は単に俺の技巧が足りないとか、そんな理由とは全く別のところにあるような気がするのは、多分間違っちゃいないだろう。

 「……っはあ、…、ん、」
 
 ぬち、と湿った音が立つようになるころには、すっかり身体は力が入らなくなりくたりと床に投げ出すような格好になっていた。古泉がやりやすいよう、羞恥心が許容するぎりぎりのラインまで足をひらく。腫れたような熱をもつ目許に、泣きたくもないのに涙が滲んだ。

 「……そのまま目を閉じて、じっとしていてくださいね。気持ち良くするだけ、ですから」

 そう囁かれた言葉の意味を探り出す前に、すぐに頭ではなく身体で理解する羽目になる。

 「っあ、あ…!?」

 身体の位置を下へと移動させた古泉が、両足を肩に担ぐように抱え込んたかと思うと、完全に勃起したそれに指ではない生温い感触が当たった。下腹部を擽るさらさらと柔らかな髪の感触と際どい部分に触れる吐息に、それが古泉の舌だと思い至った。性器を直接、舐められている。

 「い、いや、っだ…!!ばか、何やって…!!」

 予想もしていなかった行動に驚愕し身体を捩って逃げを打つも、太股をがっちり腕を廻され押さえ込まれていて叶わない。そのままやめるどころかさらに先端を口の中に入れられ、その温度とぬるりとした軟らかな感触に頭の中が真っ白になった。

 「ひ…、…い、いやだっ…、き、汚い、から、っ」

 やめてくれ、と訴えているというのに、古泉はまるで聞こえていませんとばかりにそれを続ける。
 ざらりと裏側を舌で擦られると、手とはまったく別の種類の快感が背筋を駆け登る。
 思考が状況に追いつかないままくちびるで締め付けられ幹を扱かれ、いつもみたいに声を出来るだけ抑えようとかそういう余裕も何もなく背中をのけ反らせたまま喘いだ。

 「うあ、…、あっ…、駄目、だっ、…あ…っぁあ…!!」

 じゅる、と強く吸われ、とうとう泣き出す。
 あんまりだ。こんなの知らない。今まで古泉と重ねたなけなしの経験がぶっ飛ぶような、有無を言わせない強すぎる享楽。こんなの知ったらもう後戻りできないじゃないか。

 「あ…、…?」

 ひく、としゃくり上げつつ翻弄されていると、大きく割られた足の間をそろりとなぞられた。古泉の唾液や俺の垂らしたものでぬるぬると濡れた会陰を指の腹で押され、伝い落ちる爪の先がさらに下、の、奥まったところへと移動していく。

 「んん…、…、っ?、…」

 性器を咥えられたまま、くるくると円を描くように孔の周囲を撫でられ、多少の戸惑いを覚えたところで、霞がかった頭では一体古泉が自分の身体に何をしているのかはっきり認識することができない。
 じっと動かずにいると、くに、と指の腹が中央を押した。
 何でそんなところに触るんだ。

 「…っ、やだ…、っ…」

 訳がわからず、嫌だ、と声を上げ腰をよじらせ逃れようとすると、はっとしたようにそこから指が離れる。と、同時に、こちらの意識を逸らせようとするように雁首を含まれた状態でまた強く吸われた。

 「んぁあ…、っ、だ、駄目それ、っ、出る…、!!」

 一気に追い立てられる。
 迫る射精の瞬間にもう逃げられない、と自覚すると、古泉に口を離せという意思表示のつもりで切れ切れにそれを訴え両手で頭を押しやった。が、わかっているのかいないのか古泉はさらに深く飲み込むと、脈打つそれに吸い付きつつ、軽く歯を擦らせ甘く噛んでくる。

 「ひ、ぃっ…、あ、ああ、っ…!!!」

 堪えようと思う間もなく、一気に電流のように走った許容量を超えた感覚になすすべもなく身体を痙攣させて吐精した。つまり、古泉の口の中に。

 「あ…、ぁ………ん、…んぅ、っ…」

 びくびくと引き攣る脚を押さえたまま、古泉は俺が射精を終えてしまうまで口を離さなかった。その喉が数回に分けて嚥下する動作をしたのが、見なくてもわかる。飲んだ。こいつ、飲み込みやがった。
 あふれるそれをわずかも残したくないかのようにちゅ、と軽く吸い出したあと、漸く古泉が顔を上げた。
 はあはあといつまでも落ち着かない呼吸を繰り返し、涙で滲んだ視界で呆然とその顔を見上げる。満足げに目を細めて俺の様子を見ている古泉の、その整った口許はぬらぬらと濡れそぼち顎の端に半透明の粘液が垂れていて、壮絶にいやらしい。 
 覗いた赤い舌がぺろりと、くちびるを舐める。

 「……、こういう味がするんですね」

 得心がいったように呟かれて、その内容を咀嚼するなり一気に顔に血が上った。

 「こ…っの、変態…!!」

 途端に圧し掛かられた身体の下から抜け出そうともがいたが、しっかり体重をかけられているのと、射精後の倦怠感で身体が全く言うことを聞かない。
 そんな俺を余所目に苦笑しながら、古泉が宥めるように額をなでてくる。

 「怒らないでくださいよ。…ずっとしてみたかったんです」

 泣きながら僕の口の中で射精する貴方は今までで一番いやらしくて可愛らしかったです、とちっとも褒め言葉ではない妄言を吐きながら、耳にキスしてくる。またこいつの手によってとんでもない経験が増えてしまった。

 「お腹すいたでしょう、食事にしましょうか」

 と、スイッチがオフになったらしい古泉が、欲情しきっていたあの顔とはとても同一人物とは思えない柔和な笑顔で脳天気な台詞を吐くのをぐったり臥したまま聞きながら、ああ、しばらくは奴の口許を直視できないなと、そう思った。





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思い出したように続いた無知×無知(σ゚∀゚)σ
次はきっと指のひとつも入れられてしまうことでしょう


update:09/10/13




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