彼を見ると歯止めが効かない。
 良くない兆候だ。





 初めは見ているだけで充分だった。
 それがやがてその手に触れたいと願うようになり、身体に口づけたいと念うようになり、そしてそれを彼が受け入れてくれると、更なる別の欲求が生まれる。
 この類の欲望はエスカレートしていくばかりだ。質が悪い。
 際限無く膨らんで、いずれは破綻し喪失する。

 そうとわかっていても、抗うことさえ到底無理なことだ。








愛玩








 最近では彼の泣き顔ばかり見たくなって困る。
 先週も、例によって週末いつものように僕のマンションで睦み合い、後ろの刺激だけでも素直に感じた声を上げるようになってきた彼に嬉しくなってその旨を告げると、

 「そんなわけないだろ。気持ち悪いし痛いに決まってる」

 そう素っ気なく返され、それが引き金になったらしい。
 僕もできることなら、なるべく彼を優しく優しく愛して大切にしたいと思っている。
 しかし、例えば何でもない彼の一言だったり、態度だったり行動だったりが、僕の心のどこかに引っ掛かっては突然に理性を消失させる。酷くしたい、征服して蹂躙してやりたいという後ろ暗い欲望にスイッチするのだ。
 もはや、自分ではどうすることもできない領域だ。それが悪いと分かっていたとしても。





 その後は言わずもがなだ。
 嫌がる彼を無理やりベッドに押さえつけて、抵抗できないよう腕を散乱していたネクタイで後ろ手に縛り上げた。彼は必死に拒否していたようだったが、既に一度射精して、良い感じに力が抜けて柔らかくなっていた彼の身体に言うことを聞かせるのは楽な作業だ。

 「気持ち悪いだけなら、こっちも縛っておいて問題ないですよね」

 そう言って彼の根本をきつくゴムで括ると、彼は泣き出しそうな声で何事か口走ったが、すぐに静かになった。
 最近ではこうなってしまえば下手に抵抗すると僕を助長させるだけだと学習したのか、彼は嫌悪するように眉根をよせつつも、脱力して諦観の色を見せた。

 「いい子ですね」

 脚をわりひらき、つぷりとそこに指を通す。

 「うっ…、…」

 先ほどまで僕を受け入れていたそこは充分に柔らかく、充血して熱をはらんでいた。
 ぬるぬるとした感触は彼自身が悦んで濡れているというよりは、嫌と言うほど塗り込んだローションと中出しした僕の精液のせいだろう。
 それでもくちくちと鳴る淫音が堪え難いのか、彼はくちびるを噛み締めてそっぽを向いた。

 「ぅくっ…、…ン…!!」

 指を二本に増やして、入り口を拡げてやる。
 ひくっと内部の筋肉が収縮して、彼の喉から嬌声になりそこなった音が洩れる。

 「あれ?…どうしました?」

 もしかして感じちゃいました?とわざとらしく尋いてみると、彼は上気した頬を更に赤くして睨みつけてきた。
 涙を湛えて見られても、こちらを煽る結果にしかならないのだが。
 まだ折れそうにない彼の自制心に更に負荷をかけるべく指を動かす。

 「ん…、ふぅ、……ぅッ…!、…」

 肉壁をこすりたてるようにして注挿する。
 こうするときは少しだけ乱暴に、わざと猥雑に音を立てるようにする。
 指を抜きながら少し間接を曲げてやると、彼が腰を浮かせるようにしてよがるのを僕はよく知っている。

 「…ッ、…ぅ、く……っ、……」

 いつものように声を上げる代わりに、そこがいやらしくひくついて、彼が紛れもなく快感を感じていることを僕に伝えてくる。
 縛り上げて達けないようにした前も充血しきって、せき止めきれなかった先走りがあふれてきている。ここまで昂っては縛られた根本が痛いだろうに。
 どの口が気持ち悪いだなんて言うんですか、と嘲笑して責め立ててやりたかったが、まだ無理やり篭絡させるには些か早い。
 彼が自分から堕落するところを見たいのだ。

 「ぃッ、……あ……!!」

 右手の二本は飲み込ませたままに浅く引き抜くと、もう片手の人差し指を隙間にもぐらせ、ぐっと拡げる。苦しいのか彼はとても嫌がるが、そうすると誰も見たことのない、彼すらも知らない内側が見える。
 半透明の白濁液に塗れ、ぬらぬらとしたそこは卑猥としか言いようがない煽情的な部分だ。彼の内部が表層とは裏腹に、素直で猥らだなんてきっと僕だけしか知らない。

 「…うッ、…も、ゃ……、こいず、み…ッ」

 過ぎた快感が辛いのか、それとも内部を暴かれる羞恥に耐え兼ねるのか、ぼろっと大粒の涙が仰臥した彼のこめかみを伝った。

 「恥ずかしがらないで下さい。綺麗な色をしてますよ……あなたの中は」

 今は擦りすぎて少し赤くなっちゃってますけど、と微笑うと、彼は目を見開いたあと、いよいよしゃくり上げるようにして泣き始めた。

 「もう…いや、だっ……、う、ッ……許、し…」
 「駄目ですよ。まだ確認が終わってないでしょう?」


 ちゃんと奥まで調べないと。


 そう言ってぐっと埋め込んだ指を押し上げる。

 「ふぁ゛ッ…、あ!!!」

 甲高い声を放って、彼が予想通りの反応を示した。
 ダイレクトに前立腺を狙って刺激を送ると、彼はあっという間に理性を飛ばしたような声を上げてかぶりを振る。
 この背徳的な快楽を教え込んだのも僕なら、その快楽で彼を屈服させるのも僕だ。

 「ふ、ぁあッ、…あっ…や……、ぃ、あッ」

 ぐっぐっと小刻みにしこりを押し上げ刺激する。
 それに合わせて、彼の喘声も短く、忙しないものに変わる。
 内壁は既にぐずぐずに溶けきっていて、いつもだったらすぐにも挿入するところなのだが、今はそうしない。指だけでいたぶり続け、彼が泣いて欲しいと言うまで決定打は与えない。

 そろそろ限界なのか、段々と目の焦点が怪しくなってきた彼が、許して、とかごめんなさい、とか哀願する言葉を何度も繰り返し口走り出した。

 「…どうしました?はっきりおっしゃって下さらないとわかりませんよ」
 「ぅ…ッ……おねが、…も、イか…せ…ッ…」
 「イきたい、ということは……あなたが今感じてらっしゃるのは快感、ということになりますね」

 首が縦に振られる。
 相当切羽詰まってきたのだろう。

 「おかしいですね?僕はさっきから後ろにしか触ってないのですが…」
 「……ッ、…こ、いずみ…っ…」

 さっきの言葉は訂正なさるんですか?と問うと、
 幼子のように何度も首を頷かせる。


 「それでは、ちゃんと本当のことを口に出しておっしゃってください」


 たっぷり三秒はかかって、
 ようやく囁かれた言葉の意味を咀嚼できたのか、彼が瞼を開く。
 くちびるが躊躇うようにわなないたが、達したい欲求とこれ以上の責め苦に耐えられないのか、ぼろぼろと涙を零し、しゃくり上げながら彼は僕が望むままの台詞を口にした。



 陥落させた後も、彼に自ら求めさせ、淫篤に染まった彼の肢体を思うさま貪った。
 優しく愛撫しながら、どう動いてほしいか尋ねると、彼は半分飛んだ意識の狭間で、素直に自分の感じるされ方を教えてくれた。
 そうして彼が失神するまで揺さぶり続け、彼の中に何度目かの精を吐き出す。
 そうすると、ようやく自分の胸に拡がっていたどす黒い欲望が収束し鎮静していくのが知覚出来た。

 彼の正体の無い、涙と涎でぐちゃぐちゃに汚れた顔を撫で、
 いつものように耳元で囁く。

 「愛してます」









 結局のところ、僕が自分の欲望に忠実であるのは、それを彼が許してくれると知っているからだ。
 明日の朝、彼が不満げに、不機嫌な顔をしていたとしても、優しい彼は結局それを許してしまう。

 彼の許容と僕の欲望。

 そして僕は、その均衡のボーダーラインを見誤らないよう量っている。
 彼を抱くたびに増してゆく、己の狂気と愛情を自覚しながら。






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鬼畜というよりはヤンデレな古泉さん

ヤンデレも鬼畜も愛さえあれば無問題!



update:07/10/21



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