とはいえ、何の前知識もない俺は古泉は一体何をする気なのかと、不安と好奇心でいっぱいいっぱいになりながらぎゅっと目を閉じ身を固くしていたのだが、そんな俺を尻目に古泉は俺の腕や大腿を手のひらで撫でながらやさしくキスを繰り返すばかりで、少々拍子抜けだった。
 安心させるように何度も身体を摩ってくる手が心地よくて、強ばった体から徐々に力が抜けていく。

 「…ふ、ぅ…、…ん……ん?」

 目を閉じたまま繰り返し降らされるキスに応えていると、不意に撫でるばかりの動作を繰り返していた手が、胸のあたりにふれる。指先がさぐるように蠢いたかと思うと徐に、日常生活では存在自体意識したこともない、真ん中の小さな突起を摘まれた。

 「んっ…、何、やって…」

 シャツの上から柔らかくこねるように玩ばれ、
 くすぐったさに塞がれていた唇を離す。

 「そんなとこ、触ってどうすんだよ…」

 女の子じゃあるまいし。

 「男でも、こうすると感じるらしいんですが
  …良くない、ですか?」

 痺れに似たむず痒さはあるものの、快感と呼べる代物ではない。首を横に振ると、おかしいですねなどととぼけた声を出しながら背を丸めた古泉が、顔を俺の胸に埋めつつ、さっき指先で弄っていた部分に口づけてくる。

 「う、ぁ…、…」

 シャツの上から舌先で舐められ、軽く歯を立てられる。
 そのまま強く吸われると痛いくらいの刺激が走って、俺はびくっと肩をふるわせながら小さく声を上げた。

 「い…やだ、それ、やだ…っ」

 なんでもないはずの感覚が、良くないものに形を変えてきている気がする。
 何だか急に恥ずかしくなってきて、身を捩らせて古泉の頭を引き剥がそうとすると、古泉は小さく含み笑いを零しながらすんなり身体を引いた。

 「ぅ、あ!、…ちょっ」

 安堵したのもつかの間、今度は下ろされた手がズボンの上から股間を押してくる。
 思わず焦った声を上げると「大丈夫ですから」と言い含めるように甘く囁かれた。
 どう大丈夫なのかちっとも分からない。

 「ん……、」

 そっと、壊れ物を扱うかのように古泉の手指がそこを這う。
 服の上からちょっと撫でられているだけなのに、怖くなるくらい躯が興奮していくのが分かった。
 すでに緩く反応してしまっているのがばれているに違いないと思うと、恥ずかしさで耳までじんじんするくらい顔が熱くなる。

 「ふ…、…こいず、み」

 自然と早まる呼吸を抑えながら息をつくと、

 「直接…、触れても良いですか?」

 恐る恐るといったふうに古泉が聞いてくる。
 恥ずかしいとか、人の目にそんなところを晒すのは嫌だとか思うより先に、期待と興奮で頭の中が占められていく。僅かに残った冷静な思考ももはやまともに機能しない。
 小さく頷くと、古泉が愛おしそうな表情で俺の瞼にくちびるを落とした。
 啄むようなキスをされながらベルトに手がかけられる。ファスナーを下ろす音がして、控えめな動作で古泉の手が下着をかい潜って忍び込んでくる。

 「あ…っ」

 軽く握りこまれただけなのに勝手に上擦ったおかしな声が出て、
 俺は慌てて口を掌でふさいだ。

 「声、出そうなら我慢しなくてもいいんですよ」

 くす、と笑われながら言われ、ますます恥ずかしさでいっぱいになってしっかりと口を押さえたまま俺は首を横に振った。
 通常の自分の声からは想像もつかない、まるで女の子みたいな高い嬌声。そんなもの、聞くに耐えないなんてもんじゃない。断固として出したくない。
 そんな俺の心情を知ってか知らずか、古泉がゆっくりと手を動かし始める。


 「んんん…!!」


 やばい。やばすぎる。
 快楽神経系がどこか故障しているんじゃないかと思えるくらいの快感が、ぞくぞくと身体を走り抜ける。自分でするときの快感なんかまるで比較にならない。
 他人の手で触られることがこんなに気持ちいいなんて。
 口を塞いでなかったら、いっそ死にたくなるような大声が出ていたと思う。それくらいの鮮烈な刺激に襲われて俺は狼狽した。

 「んッ、…だ、めだ、古泉…っやばい…これ…!」
 「どうして?…気持ちいいんでしょう?」
 「あ、イイ…っけど、駄目だ…!」

 駄目、と熱に浮されたような声で訴えても、古泉は止めてくれそうな気配はない。
 寧ろ、ゆるゆると扱きたてている手を早めてくる。

 嫌だっつったら止めるって言ったのはどの口だよ!


 「んっ、あぁ、あ…っ、…!」

 抗議しようと口を開いた隙に先端を指先でぐり、とこねられ、完全に愉悦に満ちた喘声が出る。感じたこともないような強い性感に、腰がびくっと跳ねた。
 鈴口からたらたらと先走りがあふれてくるのがわかってしまう。擦りあげる古泉の指が動くたび濡れた音が立つようになってきて、それがとんでもなく羞恥を煽る。
 とてもじゃないが下で行われているその行為と惨状を直視することなど出来なくて、俯いていた顔を上げると、古泉と目が合った。

 「……っ」

 どきりとした。

 いつも憎らしくなるくらい余裕綽々で胡散臭い笑顔を崩さない古泉が、切なげに眉を寄せて頬を上気させ俺を見つめている。
 なんていうか、エロい。
 ただでさえ綺麗な顔がそんな表情をすると性質が悪いとしかいいようがない。
 俺を見て、俺にしていることに、古泉が欲情している。
 そのことが脳髄を溶かしつくすような興奮を煽った。

 「…っ、キョン君…っ!?」

 なにを、と問われる前に俺は殆ど無意識に古泉の制服に手を伸ばすと、古泉が俺にしたのと同じように前をくつろげ、中に手を突っ込んだ。焦った声を出しまくる奴に構わず、すでにガチガチに勃ち上がったそれを引きずりだし両手で握りこむ。
 こんな状態になった他人の性器を見たのはもちろん初めてだが、自分のものよりいくらか大きなそれに少しの畏怖こそ湧いたものの、嫌悪感はまるでなかった。
 むしろ、もっと良くしてやりたいと思う。
 俺に、俺の手で感じて欲しい。

 「……く…、っ…」

 向こうの動きに合わせてゆるゆると指を上下させると、
 古泉が息を飲むのがわかった。
 
 反応が返ってきたのがうれしくて、さらに愛撫する手を早める。
 同じ男同士だから、自分がされて気持ちいいやり方をすればいい。そう考えながら手を動かすが、なかなか思うように上手くいかない。初めてだから仕方ないとは思うが、我ながら拙い手淫だ。それでも時折古泉が感じている素振りを見せるのが堪らなくて、俺は懸命に手を動かした。
 静まった室内に、お互いの呼吸音と粘液を玩ぶような音が響いて生々しい。
 古泉とこんないやらしいことをしていると思うだけで、興奮に底上げされた悦楽が一気に感覚をのぼらせる。

 「こ、いずみ、もう…俺…ッ…」
 
 乱れた息の狭間で限界を訴えると、「いきそうなら、いっていいですよ」と囁きながら古泉が指先で尿道口を押しつぶすように刺激してきた。
 痛いくらいの強烈な快感が走って、俺は悲鳴に近い声を上げてのけぞった。

 「は、あッ、駄目…で、るっ…出るから、ぁッ…!!」

 沸き上がり飲み込もうとする射精感に、せめてティッシュに出さなくてはと思考したもののいくらも我慢することも出来ず、俺はなすすべもなく古泉の手の中に精液を吐き出した。

 「はッ…、は…ぁ……、…」

 くらくらするような絶頂の余韻に浸りながら、古泉の肩にもたれかかるように顔を埋める。握ったままのものが強く脈打って、古泉もいきそうなんだと察した。
 さっきそうされたのを思い返しながら指を動かし、裏筋をなぞり先端を押し込んでやると、古泉が耳元で短く呻いて、それが弾けた。
 指の隙間から手の甲を伝いおちていくとろりとした粘液を見つめる。
 その皮膚を舐める白さが何だか卑猥すぎて、二人して仕出かした行為の深刻さを突き付けてくるような気がした。










 向かい合って寄り添ったまま、お互いに呼吸が落ち着くにつれて、無性に恥ずかしさが込み上げてきた。好き同士なら悪いことではないと思うのに、何だかすごくいけないことをしてしまったような気がする。

 「嫌じゃなかったですか?」

 濡れてしまった俺の手のひらをティッシュで丁寧に拭いながら、古泉が聞いてくる。
 俺は素直に首を横に振って否定を示した。こうして熱がひいてしまえば、浮かされていた最中にしたことを思い返すとわざわざ舌を噛み切らずとも羞恥で死ねそうなほど恥ずかしいが、嫌ではなかった。むしろ、

 「…気持ちよかった」

 さすがに顔を直視はできなくて、うつむいたまま古泉の動く手を見つめ小さく呟くと、安堵したように古泉が息をついたのがわかった。

 「よかった。…また、しましょうね」

 そう囁かれて、返事も出来ずに顔が熱くなるのを感じながら、またっていつだろうと思ってしまった俺は重症だ。どうやら古泉は俺の知らない知識をたくさん蓄えているようだし、今度この部屋に来たときは、今日よりももっと恥ずかしいことや、気持ちいいことをされてしまうのかもしれない。

 そんな不埒なことを想像しながら、「お茶でも入れますね」とキッチンに向かう古泉の背中を見つめた。






----------------------------------




無知古泉×無知キョンが書きたかったんです…


この先フェ●編、69編、後口開発編と続くかどうかは空気次第です
そこは読んでいこうと思います。
バカっぽいタイトルは仕様です
めんどくさくなって仮タイトルのまま上げちゃいました



update:07/12/20



ハルヒtopへ←