種族を超えた、なんて設定の恋愛話が持て囃されるのはいつの時代も同じで。
 それは必ずしも円滑穏便な関係ではなくまわりのしがらみによって弊害に直面することが多いからだろう。困難が多い方が、ストーリー的に面白いわけだ。

 だがそれはフィクションの世界前提の話であって、現実問題となれば別物だ。
 まして、自分達の身にふりかかっている問題だとすればなおさら。












サテュリオン















 「やだって。やだ」
 「まあ、そういわずに」

 「嫌だったらいやだ!!」

 わざと哀れっぽい声で懇願される。
 俺は極力目を合わせないようにして、にべもなく断った。
 顔を見るとまずいからだ。
 あの無駄に調った顔で覗き込まれたら、平常心に亀裂が入る。

 「どうしてですか…?せめて理由ぐらい教えて頂いても」
 「いやなものはいやだからだ!」



 人を寄せつけない深い森の中の一軒家。

 樵の掘っ建て小屋のような小ささではあるもののしっかりとした造りのそれは、雨風しのげる場所が必要な俺のために古泉が建ててくれたものだった。
 ちなみに古泉とは、今俺の手を握りながらどうしてもダメですか、と女々しく食い下がっている男のことだ。
 いや、男と言うにはあまりに見た目が調いすぎているそいつは、人間ではない。
 俗にエルフと呼ばれる存在だ。
 そんな奴と人間である俺がどうしてこんなひとつ屋根の下、寝台の上で向かい合って押し問答を展開しているのかと言われればそれはかなり返答に困る質問である。


 「もしかしてこの間のあれ、…悦くなかったんですか?」


 唐突かつ簡潔明快な台詞に、俺ははあ?と素っ頓狂な声を上げて奴を見た。
 いかん、顔を見てしまった。

 白く透き通るような肌に、色素の薄い亜麻色の髪に瞳。
 すっと通った鼻梁に涼しげな眉。
 エルフというやつは人目で他人を魅了するような若々しく美しい外見をしている、というのが専ら人間側の通説だが、正直、初めて古泉と逢ったときその通りだと思った。
 黙って立っているだけで男も女も魂を奪い去られそうな掛け値なしの美貌に、今は情けないほどの困惑顔をうかべている。

 「傍目にはとても気持ち良さそうに見えたのですが…もし痛かったり、苦しかったりしたなら、次こそは不快な思いをさせないよう気をつけますから」
 「まてまて待てなんの話だ!!!」

 しょげかえりながらもとんでもない台詞を連発する奴の言葉をあわてて遮る。
 エルフ特有の、横にぴんと伸びた耳がこころなしかうなだれてみえた。

 「僕はあなたのことが好きですから、無理強いはしたくありませんが…でも、だからこそこうやって触れたいと思いますし、セック」

 「わあああああ!!!」


 綺麗な顔して歯に布着せない奴だ全く。



 既に説明の必要はないかもしれないが、俺と古泉は所謂恋人同士だ。
 細かい粗筋は長くなるので省かせていただきたいが、一年前深い渓谷で遭難し、半死半生になっていた俺を古泉が助けてくれたのがそもそもの始まりだった。
 人間とエルフの恋愛、しかも同性同士なんていいことなんざひとつもない。
 それどころかデメリットばかりだ。
 寿命だって違う。エルフは長命な種族で、俺と殆ど同い年といっていい見た目の古泉はすでに俺よりも何倍も長く生きているし、たぶん俺が老人になってもその見た目のまま変わらず、俺が死んだあとも余命はまだまだ残っているはずだろう。
 百も承知のこととはいえ、行く末がわかっているというのは結構悲しい。
 それに、そもそも身体の構造だって違うわけで。

 俺がやつとの情交に頷かないのは、八割そこが原因だ。


 「だって、お前……中で出すだろ」


 ぼそりと小さな声で呟くと、古泉が音がしそうなほど長い睫毛をしばたいた。

 「中で…って、射精」
 「わー!!!はっきり言うな!!!」

 ぎゃーぎゃー言いながら耳を塞ぐと、その両手をつかまれ顔の側面からひきはがされる。
 いつもするみたいに顔を近づけられ、俺は言葉を飲み込んで黙るしかなかった。
 こいつは自分の顔が武器になるとよく知っているのだ。

 「中で出されたくないから、なんて可愛いことをおっしゃるおつもりですか」


 可愛くはないが、残念ながらそのとおりだ。


 「そういうことでしたか。わかりました」

 古泉が合点がいったといった様子でふわりと微笑む。
 随分と物分かりがいいな。
 少々訝しみつつも、俺としてもこれ以上余計な言葉を重ねたくなかったので、わかってくれたならそれでいい、と寝台から立ち上がろうとした瞬間、


 「おわ!!?」


 視界がぐるりと一転して、気がついたら木組みの天井を見ていた。
 ベッドがクッションになってさほど衝撃は無かったものの、驚くものは驚く。

 「何すんだ!!」

 身体の上に覆いかぶさり影をおとしている奴にかみつくように抗議すると、古泉は先ほどよりも若干嫌な感じの増した微笑を近づけてくる。
 だから顔が近いっての!

 「そんなふうにこちらを煽っておいて、無自覚だというんですから
  …本当に質が悪い。あなたは」

 言い咎めるような色を含んだ言葉に、俺は盛大に眉を寄せた。
 何だそれ。まるで俺が悪いみたいな言い回しじゃないか。

 「まあ、ある意味そうなんでしょうね。貴方がここまで僕の理性を粉砕してしまうような方でなければ、もしかしたら逃がしてあげられたのかも知れませんが」


 すみません、と何に対する謝罪かわからない言葉を口にしながら、古泉の身体がさらに深く重なってくる。

 すまないと思ってるなら、今すぐそこからどいてくれればそれでいい!



















 「ん、んん…、ッぐ、うー!!」

 どんどんと背中を叩いてみても、のしかかった身体はびくともしない。
 見た目は細い癖にどこにそんな力があるんだか。
 シーツに押し付けられ、逃げることも叶わないまま口づけられ既に二分は経っている。 ろくに息継ぎもできなくて、そろそろ酸欠でやばい。
 何だこいつは。まさか俺を窒息死させる気か!
 力の入らなくなってきた手で弱々しく肩を押してみたところで、古泉はどこ吹く風で好き勝手に咥内を犯している。
 入り込んだ生温い舌が上あごや舌を辿るたびに甘い感覚が背筋をはしる。
 いや、感覚だけじゃない。物理的に甘い気がする。何かの蜜のような、ほんのりとした甘み。まさかエルフの唾液はみんな甘いんじゃないだろうな。それともこいつが特別なのか?
 咥内にたまった唾液があふれて、口の端から顎をつたう。
 どうしようもなくて、ごく、と音を立てて飲み下すと、それを待っていたかのように漸く古泉の唇が離れた。

 「はッ…、はあ、はぁ、…っは……」

 まるで金魚のようにだらしなく口を開けっ放して荒く酸素を取り入れる。
 頭がぼーっとして思考が追い付かないうちに、古泉はさっさと手際よく俺のシャツのボタンを外して肌を露出させていた。止める暇もない早業だ。
 感触を確かめるように掌で撫でられたあと、ちゅ、と音を立てて胸の突起に吸い付かれる。
 男でもそこが気持ちいいなんて、出来れば生涯知りたくなかった。

 「ん…、……っや、やだ」
 「やだ?……もう固くなってますよ」

 少し舐めただけなのに、と笑い混じりに言いながら、わざとそれをわからせるように指先で押し潰され、う、と上擦った声がもれた。

 だめだ、また流されてる。

 一度許せばあとはなし崩し、というやつなんだろうか。
 嫌なんだから、ちゃんと言わなくてはならない、断らなくてはいけない、と思うそばから、思考が紅茶の中の角砂糖みたいに溶け崩れていく。
 毎回そうだ。そうなって、気がついたらどうしようもないところまできている。

 「ふ、……」

 線を描くように胸から腹部へと舌でたどられ、臍を舐められる。
 反射的に腰を捩らせると、緩く開いていた膝を割られ、脚の間に古泉の身体が割り込み閉じられなくされる。

 「い、やだ…って、……こいずみ」

 下衣を脱がしにかかる古泉の手を掴むと、やんわりとそれを引きはがされ、もう片手で指を絡めるように握られる。
 一度呼吸するごとに、まるで酒に酔っているかのように頭が霞がかっていくみたいだ。
 とどめを刺すかのように、古泉が耳元に顔を近づけてくる。


 「いつもみたいに、じっとしていてください。
  …大丈夫、気持ち良くするだけですから」


 こいつは自分の声も武器になると知ってるんだ。
 忌ま忌ましい。















 「ふ、っ、…ァ、あ!……ぁああ」

 先端を軟らかな咥内に包まれて、泣きそうな声が出た。
 完全に立ち上がっているそれを何度も舌を押し付けるようにして擦られ、一気につみあがる悦楽に自然と涙が浮く。
 古泉がその綺麗な顔を自分の脚の間にうずめて、あまつさえ性器を口に入れている構図というのはまさしく正視に堪えられないので、俺は何も見ないようぎゅっと目を閉じシーツを握って与えられる刺激に耐えるしかない。

 「あ、あ…、っやだ、出る、それ出るから、…ッ」

 きつく吸い上げられ泣きを入れると、古泉がかすかに喉を鳴らして笑った。
 それすら刺激に変換されて、とぷりとまた先走りがあふれたのが知覚できて死にたくなる。どんだけ早漏なんだ俺は。
 舌をゆるく動かしながら、内股を割っていた古泉の手が奥をまさぐってくる。
 何度か使われたことのあるそこを指で圧され、自動的に強張る身体をなだめるように、くわえたままの性器の裏側を舌で擦られる。

 「ひ、…ぅ、ッ……、…」

 隙をつくようにして、ぬる、と指が奥まで、内側に入り込んだ。
 異物を受け入れる気持ち悪さと、性器に与えられる直接的な快感が入り交じって、何ともいえない感覚に涙がこめかみを濡らしていく。

 「…ぅ、ん、んん……、ん」

 内部をさぐるように指が動かされ、知らず力が入り内壁がきゅう、と収斂した。
 眉をたわめてそれに堪えていると、指先が一点を掠める。

 「あう…ッ、…あ!……」

 びくりと身体をふるわせると、古泉が笑って性器から口を放した。
 古泉の指がそこを探していたのは、俺にも察しがつくくらいにはなっていた。
 その部分を弄られると、すぐにも出してしまいそうなほど耐え難い快感が走るのだ。
 得体の知れないそれが嫌で、身体が作り変わるようななにか悪いもののように思えて、それも古泉としたくない要因のひとつかもしれない。

 「あ、あ……、も、やだッ…」

 指をふやされ、なおも執拗にそこをいじくられ、やめてくれ、と泣いて縋ると漸くそこから指が抜かれた。


 「……!!」


 ほっとする間もなく、指とは違う熱い感触がそこに押し当てられる。
 それが何なのかわからないわけはない。

 「や……、やだ、古泉…ッそれ、いれるの、やだ……」

 身をよじらせて逃れようともがくと、古泉がなだめるように頬を撫でながら、


 「…すみませんが、許して上げられません。ごめんなさい」


 囁くと同時に、ぐっと入口をこじ開けられる。
 熱く脈動するものが圧迫し、押し入ってくる感覚に悲鳴を上げることもままならず、俺はシーツを何度も引っ掻き身体をのたうたせた。

 「や、っぅあ、あ…ッ、……あぐ、…!!」

 容赦なく揺すりたてながら埋没していくそれが奥まで行き着くと、今度は逆に襞を擦られる。どんな拷問なんだ、と思う。
 シーツを握っていた手を背中に回すよう誘導され、俺はされるがままに泣きながら古泉の背中に爪を立てた。

 「っ、ぅあ、……、あ、…い、痛、…ああ」
 「…っすみません、…すぐ」

 気持ち良くしますから、とやや上擦った声で言いながら、挿入のショックで半ば萎えたものに指を絡ませてくる。
 軽く扱かれただけで再び快楽の芽をつむ身体に眩暈を覚えながら、涙でにごる視界で間近にある古泉を見ると、その秀麗な眉を少したわめた切なげな表情をうかべていて、胸がどきりとさざめいた。
 ああ、こいつは俺の身体で気持ちいいのか、といまさらなことを思う。

 なんだかんだ言っても、俺だって古泉のことを好きなわけで。

 好き同士なら、まあ、そこに異種族だの同性だのという問題こそあれ、こうして身体を繋げるのは悪いことではない。が、それを考慮の上で、俺ができることならしたくない理由というのはこの先にあるのだ。

 「ふ、……っく、う……ん、んん…」

 ゆっくりと、気遣うような抽挿が、慣れるにしたがって段々と激しさを増していく。
 どこにそんな余裕があるんだ、と思うくらい古泉は俺の反応を目ざとく見ていて、少しでも反応を示せばそこを執拗に責め立ててくる。

 「あ、あ…、も、…いや、許し、ッ……!!」

 中だけの刺激では、ある程度の快楽は得られても決定打には繋がらない。
 あと少し、前に触れてくれれば達ける、というところで、まるでそれを読み取っているかのように古泉はぱったりと性器には触れてくれなくなり、もどかしい状態に焦れて自分で扱こうとすれば、咎めるように両手を押さえ付けられる。

 「う、っ……やだ、…もう、い、いかせ…」

 みっともなく泣きを入れると、古泉は優しく頬に口づけながら、

 「一緒にいきましょう、ね…?」

 と残酷な言葉を吹き込んだ。
 突き上げられるたびにぐちゅ、と卑猥な音が聞こえて耳を塞ぎたくなる。
 中が焼けつきそうなくらい熱をもった古泉が脈打つのがわかって、古泉もそろそろ達きそうなんだと察知した。

 「こ、いずみっ……、あ、な、中…だめ、出すなっ…」

 呂律のあやしい舌になんとか言葉をのせると、古泉がきょとん、という擬音がぴったりきそうな表情で何度か瞬きしたあと、エルフにあるまじき悪い微笑を浮かべ、


 「大丈夫。…あとでちゃんと、洗い流して差し上げますから」


 !?!


 「やっ…、ち、違っ…、そういう問題じゃ…」
 「ほら、…もういいですよ、いってください」

 ぎりぎり引き抜かれたものを、ぶつかる音が立ちそうなほど激しく突き戻され、一瞬で頭が真っ白になる。


 「っあ、ぁああ、んー……!!!」


 びくびくっと全身が痙攣したかと思うと、次の瞬間には古泉の手の中に精液を吐き出していた。
 いく瞬間、中の古泉も思いっきり締め付けてしまい、う、と色っぽい呻きが鼓膜にふれる。脈打つ感触すら読み取れそうなほど敏感になっている内壁に、じわりと熱い感覚がひろがった。だめだ、と叫んだつもりだったが、声になっていたのかいなかったのかさえわからない。

 嫌だって言ってあったのに、中で出しやがった…。


 「っふ、ぁ、ぁあああ…!?」

すぐに古泉自身とは別の 熱さが、身体の内側から湧いてきて、達したばかりのそこが、物欲しげにひくつきだすのがわかる。

 「う、ぁ…っなに、やだ、へん……変、だ、…ッ!!」

 だから嫌だっていったのに!
 中で出されると、身体がおかしくなる。これが古泉との情交が耐え難い理由だ。
 まるでそれが引き金になったかのように、身体が異常に過敏になる。出したばっかりにも関わらず、だ。そんなの、古泉が何かしているとしか思えないだろう!

 「おや、…まだ足りませんか」

 もう一度いけそうですね、と浅ましく反応している性器を撫で上げられ、抗議の代わりに恥知らずな嬌声が口をついて出た。
 ずる、と奥を擦り上げながら引き抜かれたかと思うと、力の抜けた足を引っ張られ身体を反転させられる。うつ伏せで腰を上げた獣みたいなポーズをとらされたかと思うと、すぐに抜かれたものが再び押し入れられた。


 「……ーーーッ!!!」


 声も出せずに身体を強張らせると、すぐに腰を捉えられつよく揺すぶられる。

 「…っひッ、ぃ……、ぁ、ああああッ…!!!」

 さっきよりも遠慮も手加減もない律動を受け止め、その乱暴すら快楽に変換する身体に恨めしさを覚えながら、あとで絶対古泉を殴る、と心に決めると、俺はこれまでと同様になけなしの理性を放棄した。




















 「ごめんなさい、そんなに嫌だと思わなかったんです」


 沈痛な古泉の声が降ってくる。
 完全に無視を決め込んだ。何がそんなに嫌だと思わなかっただ。
 あれほどいやだと口でも態度でも示していたにも関わらず、俺の意思など封殺して事に及んだばかりか、あまつさえ中で出しやがったやつと聞く口などない。
 俺は頭までしっかりと布団を被ったままだんまりを押し通すことにした。
 今度の今度こそは許さない。絶対に許してやるもんか。
 顔を出さないのは決して、尖った耳を垂らしてしょげかえっているだろうあの顔を見たら決心が鈍るかも、とかそういう理由からではない。そうだ、腰が痛いから起きたくないだけだ。

 あれから散々に突かれ揺さぶられて、恥も外聞もなく泣きじゃくり悦がらされた。
 まだ身体をつなげた回数なんて数えられるほどだというのに、古泉に中に出されおかしくなった身体は、後ろの刺激だけで簡単に射精まで追い詰められてしまう。
 まるで果てがないみたいに次から次に快楽の波が押し寄せてきて、そうなってしまえば俺にできることなんてただ泣きわめくだけで、幾度も古泉の放埒を奥で受け止めさせられ気を失うまで愛撫された。
 あんなの、二度と味わいたくなかったのに。

 「……っ、…」

 じわり、と散々泣いて腫れた眦にまた涙が浮かんだ。
 古泉のことは好きだ。でも、あんなふうになる自分は嫌だ。
 泣いているのがバレたくなくて、もぞ、と身をよじらせシーツを深くたぐりよせる。
 スプリングが軋む音とともにベッドが揺れて、古泉の気配を真上に感じた。シーツの上から肩の辺りに掌がふわりとふれる。

 「……あの、お風呂、用意しますから……せめて、後始末しませんか?」
 「うるさい」

 軽くゆすられてにべもない返事をする。
 確かに済んだあと汚れを拭いもしないまま今の状況に至るので、非常に足の間やシーツがべたついて気持ちが悪い。早く綺麗にしたいのは山々だが、ここは折れるつもりはない。俺の矜持にかけて。

 「ちゃんと洗わないと、具合悪くしますから…」
 「…………」

 完全に沈黙していると、ふ、と小さく古泉が息をつく。
 少しして、ゆっくりと身体の上に重みがかかった。布団の上から覆いかぶさられているらしい。

 「重い。どけ」
 「あなたが顔を見せてくださるなら」

 交換条件なんか提示できる立場か!
 揺すり落とそうと身体をよじると、わずかに空いた隙間から掌が這いこんでくる。

 「ちょっ……やめろ!!」

 腰から腹に廻った手に引き寄せるようにして抱きしめられる。
 あわてて逃れようともがくと、そのまま難無く身体をひっくり返され頭からシーツを剥ぎ取られた。なんたる強行手段。
 やっぱり若干耳をしょげさせて情けない顔をしている奴を思いっきり睨み付けてやる。あ、また顔を見てしまったな。

 「機嫌、直していただけませんか」
 「断る」

 即答すると、がく、と古泉がうなだれた。
 知ったことか。俺の懇願も聞かずに我を通した奴に酌量の余地など無い。

 「どうしたら許していただけるんです?」
 「……お前が二度と中で出さないと誓うなら」

 捨て犬みたいな憐れさを滲ませて、古泉が上目遣いにこちらを伺う。
 なんだそれ。まるで俺が悪者みたいじゃないか。
 そんなふうに下手に出られると、どうやったって弱い。
 くそ、卑怯だぞ。

 「……正直言って」

 言いながら、急に古泉が真顔になる。


 「僕、あなたが孕んでくれたらいいと思ってます」


 !!?


 「同性とはいえ、種族間の隔たりもありますし…とはいえ、可能性は0ではないと思うんです。ただ、そのためには中で出…痛い!」

 俺は前言通り、真剣に史上最強にくだらない御高説を垂れる古泉の頭をぶんなぐった。
 いきなり何言い出すんだこのエルフは!脳が沸いたのか?
 地上で一番の賢族と謳われる種族の奴が吐く言葉とはとても思えんぞ!

 「それくらい、僕はあなたのこと本気で好きなんです。愛してます」
 「あい…!?」

 さらっと凄い告白をされる。
 完全に不意を打たれて、俺は二の句が告げずに口を開閉させた。
 かーっと血が一気に頬に上るのがわかる。

 「あなたがどうしても嫌だと仰るなら、もうしません。
  でも、せめて理由くらいは教えていただけませんか?」
 「…………」

 伸びて来た手が、子供の癇癪をなだめるようにそっと髪を撫で梳いてくる。
 真顔のまま見つめてくる古泉の視線がいたたまれなくてうつむいた。
 ああやっぱりだめだ。顔を見るとだめだ。

 「お前に…な、中で出されると……へんなんだよ」
 「…変?」

 声がやたら震えてしまう。
 出来ることなら言いたくはない。ないが…。


 「か、身体が熱くなって…おかしいくらい、……か、かんじる、し!」


 「…………」
 「っあああ!だから言いたくなかったんだよ!!」

 何を言われたのかわからない、といった様子の古泉に、俺はのたうちながら馬鹿みたいに熱くなった頬を両手で隠してシーツに突っ伏した。
 こんなの、自分で自分は淫乱ですと申告しているようなもんじゃないか!
 男のくせに、種族こそ違えど同じ男に中で出されて気持ちいいとか、とてもじゃないが認めたくない。認めたくないぞ!


 「………あの、すいません」

 ややもあってようやく口を開いた古泉に、びくつきながら顔を上げた。
 いやに真面目な表情の奴に、嫌な予感が走り抜ける。
 もしかしたら本当に淫乱だと思われたのかも知れない、と思うと、鳩尾のあたりが引き絞られるように痛んだ。


 「……こいず、」
 「いま、すごくもう一回したくなりました」

 「…………」





















 エルフの体液には人間に対する催淫作用がある、と俺が知ったのは、それから大分経ってからのことだった。

 古泉も知らなかったと言い張っているが、俺は勿論信じちゃいない。





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なにか勢いでかいたニセファンタジー設定をお送りしました\(^0^)/
ゲームしながらこんなことばかり考えてます


update:08/5/20



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