ハロウィン





 「ハロウィンですね」


 ポーンを盤上に足しながら、おもむろに古泉が口を開いた。

 「ハロウィン?今日がか?」
 「ええ。ご存知ありませんでしたか?」

 興味ないからな。
 知識としては外国の子供がモンスターの仮装をして練り歩くらしいとか、目鼻をくり抜いたお化けカボチャのシンボルくらいしか持ち合わせていない。

 「ジャック・オー・ランタンですね」

 微笑したまま古泉が腕を組む。
 次は俺の手だ。

 「ハロウィンとは、カトリックの諸聖人の日…万聖節の前晩、つまり10月31日に行われる、英語圏の伝統行事でして。通説として、ケルト人の収穫感謝祭がカトリックに取り入れられたものと言われています」

 お前はウィキか。
 無駄な博識ぶりをひけらかす古泉を尻目に、俺は右端のルークに手を延ばした。

 「ようするにキリスト教圏の彼岸みたいなもんだろ」

 ここは日本でうちは生粋の仏教だ。
 御先祖様なら既に夏の盛りにお帰りいただいたので、なにも秋にまでおいで願うこともあるまい。

 「ほう。ではクリスマスは如何過ごしていらっしゃるんです?」
 「………」

 毎年イブにはケーキを食って、妹の寝床にプレゼントを仕込んでますが何か問題か?
 半眼のまま窓の外に視線を逃がすと、古泉が小さく喉で笑った。

 「まあ日本でも世間一般に風習が浸透し始めたのは最近のようですしね。
  駅前の公園でも今年から仮装イベントがあるようですよ」
 「へえ」

 そりゃ酔狂な。

 「コスプレをしていると商店街ではお菓子を貰えるらしいです」

 それがどうかしたか?
 お前もお菓子が欲しいのか?
 行っておくがコスプレには付き合わんぞ。


 「いえ、貰いたいのはあなたからです」


 唇を弓なりに吊り上げた古泉を見て、俺は逆に盛大に眉をしかめる。
 何で俺がお前なんかにモノを渡さねばならんのか。

 「ハロウィンの夜、お化けに扮した子供達に家の扉を叩かれると、お菓子を上げなくてはいけないんだそうです。…上げないと、どうなると思います?」
 「…………」

 古泉は手のひらを上に向け人差し指で俺を指した。


 「"Trick or treat"
 お菓子かいたずらか、ですよ」

 そう言って古泉が立ち上がる。
 俺は条件反射でびくっと背筋を緊張させた。
 途方もない嫌な予感がする。
 あいつがあの顔の時、俺が愉快な思いをしたことなど一度たりとてないのを
 知っているからだ。

 「まっ…待て!古泉!!何をするつもりだ」
 「チェスもそろそろ飽きたと思いませんか?」

 チェス盤はさっきの俺の一手で黒のキングにチェックがかかっている状態だ。
 古泉が笑顔で長机を回り込んでくる。

 「わ、わかった!そんなにお菓子が欲しけりゃ棚にストックしてある
  俺の非常食用カロリーメイトをやるから!!」
 「残念ながらカロリーメイトはお菓子には入りません」

 どういう理屈だよ!?

 俺は今相当に真っ青な表情をしているだろう。
 見なくてもわかる。
 古泉が満面の笑みで俺の腕を拘束したからな。



 「お菓子をくれないなら、いたずらを…ですよ」



 可笑しそうな含み笑いが、耳朶をくすぐる。
 いくら俺が無知でも、そんなイベントではないことだけは確かだと思うぞ!


 俺はハロウィンなどという洋製行事を日本に持ち込んだ奴を心底恨みつつ、
 モンスターよりよっぽど恐ろしい目の前の超能力者を絶望的視線で見つめた。

 大体どんなイベントだろうがこいつにとってはいい口実くらいにしか
 ならないんだ。畜生。






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そのままイタズラ→泣かすまで乳首責め
やっぱお菓子→むしろ泣いても乳首責め
どっちにしろ古泉のターン!

どうでもいいけどカロリーメイトチョコ味はお菓子だと思う(´・ω・`)


update:07/10/31



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