不機嫌の所在と責任 2

















 真性のアホだ。アホがここにいる。
 俺の耳がおかしくなったのでなければこいつは今、おおよそ正気の沙汰とは思えない言葉を吐いたような気がする。聞き違いか。それにしちゃいやにはっきり聞こえたな。とてもじゃないが一般の男子高校生が吐く台詞じゃない。特進クラスの頭脳が泣くぞ。

 「この、バカ…っ、できるか!そんなこと」

 乳首だけでイくなんてAVだとかエロ漫画の中のフィクションでの話だ。通用するのは二次元限定、ファンタジーである。
 そもそもそれを他人の身体で試してみようだとか、あまつさえ男の身体でだ。まともな思考回路を持った常人の思いつく考えとは思えない。よってこいつは異常だ。今に始まったことじゃないが。

 「おや、何事も試してみなくてはわからないでしょう」
 「試さんでもわかる!、…っぅあ、」

 しれっと言いながら、両胸を弄る手は止めない。
 くに、とすっかり硬度をもったそれを親指の腹で押し潰されたかと思うと、今度は触れるか触れないか、掠める程度に先端をなでてくる。強く、弱く、緩急をつけて弄ばれると、それだけでうずうずと落ち着かない感覚に自然と腰が揺れてしまう。

 「ふふ、小さいのにこんなに尖らせて……まるで舐めてほしいって言っているみたいですね」

 そんなわけあるか、と反論する前にそれを実行されて、背筋がぴんと反りあがる。
 胸を突き出すような形になるのは肉体の反射であり、不可抗力だ。決して古泉が勘違いも甚だしく指摘してくるように愛撫を悦んでいるわけではない。

 「あっ…、!んん…!」

 ちゅる、と音を立てて吸い付かれ、生温い咥内に包まれ尖られた舌先で擦られ抉られる。
 思わず腕がびくついたが何とかとどめた。ともすれば古泉を制止しそうになる、枕の下でしっかり離すまいと握った掌にじっとりと汗が滲む。大層な拷問だ。縛られている訳ではないからまだいいのかもしれないが、それでもその分勝手に動きそうになる腕を自身で押し止めないといけないというのは逆に辛いものもある。

 「ん…、……んく、う…」

 唾液を塗すみたいに両方存分に舐め吸われたあと、漸く古泉が顔を上げる。
 その少し薄い、キスした直後のようにほの赤く染まった端正な唇と胸との間に、つう、と銀糸が垂れる。とんでもなく猥雑な構図だ、と感想を抱いた。途端にかっと顔に血が上って視線を逸らす。正視に耐えない。

 「ひ、っ!?」

 ぬるぬるになったそこをまた両手で探られたかと思うと、突然にきゅっと摘まれる。
 鋭く走った刺激にまた、肢体が引き攣って勝手に逃れようともがく。

 「や、あ、痛…、っう、……ッんぐ、っん…、」

 痛い、と訴えようとしたところを、言葉ごと取り込むように古泉が口づけてくる。丁度開いていたこともあって、すんなり唇を割って侵入した器用な舌が咥内を荒らす。

 「んん、…、ん、っう、…!!」

 舌を搦め捕られ、それを吸われながら、指が摘んだ乳首をなおも引っ張りながら指の狭間ですり潰すように刺激してくる。気持ちいいというよりは痛い。なのに身体はびくびくとまるで感じているような反応を返す。気を抜けば口の中の古泉の舌に歯を立ててしまいそうだった。寧ろ噛むぞこの野郎。

 「っは、…あ、」

 漸く口を離されると、端から溢れ出た唾液が頬から顎へと垂れ落ちる。咥内に溜まった、重力に従って注ぎ込まれた半分は古泉のものであろうそれをどうしようもなく飲み下した。
 それを目を細めて見つめていた古泉が、またすぐに一度離した乳首を爪弾くように刺激してくる。びりびりと走る痛みと痺れ、にほんのひとさじ甘さの混じったえもいわれぬ感覚はどんどん強くなる一方だ。弄られれば弄られただけ、そこは過敏になって受け取るものも暈を増していく。

 「も…、いやだって、痛い、っそれ…!」
 「痛い、だけですか?」

 当たり前だ、とみっともなく上擦った声で訴えると、また古泉が目を細めて笑んだ。

 「そのわりには腰が泳いでいらっしゃいますが」
 「…、……!」

 指摘されて初めて、自分の腰がシーツに擦りつけるように揺らいでいたのに気がついた。
 足と足の狭間に割り込んだ古泉の身体に局部を押し当てるみたいに。
 マジで自殺願望が湧いてくるに足る事実だった。死にたい。

 「ここ、すっかり反応なさってるみたいですし……乳首しか触っていないのに、ね。痛いのにこうなっちゃう性癖なんですか?まあマゾヒストの素質は充分にお持ちかと思いますが」

 今度は言葉責めかよ。
 わざと中心は避けるようにして、スラックスの上から下腹やぎりぎり際どいところまでを掌で撫でられる。それだけでびくん、と腰が跳ね上がった。

 「う、…っばか、も、焦らすな…!」

 羞恥で破裂できそうなほどに熱くなった顔で、唸るように精一杯の懇願をしたところで、古泉はどこ吹く風の涼しい表情で尚も乳首ばかりを触ってくる。充血しきって、皮膚が破れているんじゃないかと思うくらい鋭敏になったそこを擦られ、堪らず悲鳴じみた声を上げる。

 「ひあ、っ…、い、あぁ、やだ、っ…!!」

 枕の下で握った腕が軋む。
 こんな無体を働かれても理不尽な言い付けを遵守している自分を自分で褒めてやりたいくらいだ。
 ぬる、と乳輪の輪郭をなぞられる程度でも肢体をのたうたせ声を上げるまでに切羽詰まった俺を見ても、古泉はいっそう笑顔を深くするだけだ。殴りたい。

 「うう…っ、頼む、っから、っ…古泉…!」

 じわりと浮く涙が目尻に溜まる。
 もうずっと胸ばかり弄られて、絶え間無い疼痛に苛まれるそこはもう、感覚が麻痺しているのかそれともより過敏になっているのか判別すら出来ない。ただ触られるとずん、と腰骨に溜まる愉悦が出口と決定打を求めて蟠っていく。
 何とかしてほしい。射精に直結する、快感がほしい。
 部屋に来た時はまだ注いでいた夕陽が沈んで、部屋が薄暗くなるまでの間こんな責め苦を味わわされて、俺は健気にも耐えたほうじゃないか。もう解放してくれ。
 そそり立ったまま一度も触れられていないそれを愛撫してほしい一心で、恥も外聞もなく両足を古泉の腰に絡みつけ引き寄せる。まるで売女みたいな所作だと、自覚はあったがどうしようもない。

 「…こうして男を煽る方法を熟知していらっしゃるようでいて、無自覚なんですから」

 だから心配なんです、と急に真顔になった奴が、目許を濡らす雫を舌で舐めとってくる。
 それと同時に動いた古泉の膝に、ぐ、と股間を押し上げられ、その刺激に背中が大きく撓んだ。唐突な刺激に、白い電流が一気に下肢から脊椎を通過して脳髄を焦がす。

 「あっ…、ぁああ、!!」

 駄目だ、と思ったが止められるはずもなく、そのまま込み上げてきたものを吐き出す。スラックスも下着も身につけたままだというのに、最悪だ。
 とうとう耐え切れずに枕下の両手を、古泉の首へと巻きつけて思考をもすべて押し流す悦楽の波に耐えた。はあはあと落ち着かない呼吸が煩わしい。

 「ん、ん…、ん…、…」

 また新しく滲んできた涙がこめかみまでを濡らした。
 濡れた感触がじわりと広がっていくそこを、悪戯するように古泉の膝が圧迫してくる。

 「ああ…胸だけで、と申し上げたでしょう。…足が当たっただけで出すなんて」

 いけないひとだ、と笑い混じりに囁いてくる。
 胸を散々弄られて勃起させて、ちょっと足が当たっただけで射精した。
 これじゃあお前も変態の仲間だと乱暴な分類をされたとしても自己弁護すら難しい。
 また乳首をなぞられて、うあ、と声が漏れたのは、変態の手によって変わり果ててしまった己の身体の情けなさ故にほかならない。

 「次こそは、ここだけで射精出来るようになりましょうね?…大丈夫、ちゃんとじっくり躾けて差し上げますよ」



 このところの俺の憂鬱の種はそう言うと、嬉しそうに笑った。





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キョン君の乳首好き過ぎる変態ですいません
すごく…たのしかったです


update:09/10/10



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