「上、脱いでいただけますか」 背広の上から掌を這わせながら、低く僅かに掠れた声が耳元に吹き込むようにして囁いた。 「……………」 前述のとおり断る術は俺にはないので、脱げと言われたら黙って脱ぐしかない。 僅かに体温が引いて冷たくなった指先でシングルのボタンを外し、袷に手をかけると渋々身体から剥ぎ取る。静まり返った、他に音のない室内に、するりと布擦れの軽い音がやけに意味ありげに響く。 部長は何が嬉しいのか相変わらず端正なくちびるを笑ませたまま脱いだ上着を俺の手から奪うと、背後の長机に置いた。 シャツの上から触れられると、じわりと相手の体温が伝導してきて嫌だった。そういう意味でふれられていると、否応なしに意識してしまうからだ。 他の奴らがこの状況を知ったらいったいどう思うだろうか。 どうひいき目に見たって、とてもまともな研修中には見えないだろう。 新人研修だの何だのとかこつけて、俺はこうして男の癖に、業務とはかけ離れたところで上司のいいようにされているのだと、俺だって誰かに知られたくなどない。それはこの男にとっても多分同様で、だからこそこうして、成り立ってしまっている関係なのだ。 研修室 2 最初にこういうことがあった時はまさに、驚天動地、晴天の霹靂と言った言葉そのままの混乱に襲われた。混乱のうちにその一時は過ぎ去って、次にまた肩を叩かれ給湯室に連れ込まれたときに漸くはっきりと自分の状況を認識した。 そこでやっとセクハラとかパワハラとか、聞いたことはあっても馴染みのない言葉が過ぎったが、この場合男同士でもセクハラは通用するのだろうかとどうでもいいことが気になった。それくらい現実味のない事態だ。 いたってノーマルな身の上としては、男に、しかも上司にそういった性的な欲望を押し付けられることに勿論抵抗があった。ショックだったし悩みもしたが、まさか同性にセクハラ被害を受けましたなどとどこかに訴えられるだけの勇気も行動力もあるはずはなく、そのままずるずると回数ばかり重なり数週間。さすがにここ最近では、強調しておくといたってノーマルで、好きでもない人間の相手が何の呵責もなしに出来る性格でもない以上、こうしてたびたび強要される行為に相当疲弊が重なっていた。 いまでは指先ひとつで呼び付けられることに、一種の恐怖すら抱いている。 今日も実際に、こういうことになっているわけだから。 「…ん……、…」 長机に両手をついた状態で、背後から抱きしめられる。 シャツ越しに密着した背中が嫌になるほど温かい。首筋に擦り付けられる鼻先と柔らかな髪の感触が擽ったくて、じっと身を強張らせていると、腹のあたりに触れていた掌が下へとすべりおちていく。 「っう!……」 ぐ、とスラックスの上から股の間を押さえられ、思わず喉から潰しそこなった声がもれた。 くす、と面白がるように吐息が揺れて、手がベルトにかかる。片手で器用に外されていく金具を下目に、それを止めることも出来ずに見つめていた。 寛げたそこから掌が這いこむと同時に、もう片手がシャツの上から胸元をさぐる。何度も撫でられているうちに僅かに固さをもった突起を、指先がきゅ、と摘んだ。 「あ…、っ……」 「随分、敏感になってきましたね。気持ちいいんですか」 びく、と身体を跳ねさせる、言葉より雄弁な反応に気をよくしたのか、そこをくりくりと捏ねくりながら甘く囁かれる。ん、と鼻から抜ける声を我慢しながらわずかに首を横に振る。それくらいの抵抗は許されるだろう。 下着をかい潜った手が、何の反応もなしに垂れたままの性器にまとわりつく。温度の違う、他人の手の感触に反射的に息を飲んだ。 「………ん……」 悲しいかな、男の性というやつは直接刺激を与えられればどうしても反応してしまうわけで。それが男の手だろうが、職権濫用甚だしい卑怯な上司の手だろうが。 ややあって完全に芯を持ち始めたそれに、いっそ死にたいほど恨めしさを覚える。 例えば誰かにこの場を目撃されたとして、俺が合意の上ではないと、被害者であることを訴えたところで、明らかに身体が応えてしまっていては共犯です、と言われても反論の余地はない。 「…っん、あ……、あ…」 ゆるゆると幹をこすられ、自然と腰がゆれる。 わずかにぬるついた感触と水気が混じり出した音に、もう先走りが滲み出しているのだと羞恥で脳が染まった。 「早いですね。…溜まってらしたようだ」 嘲笑が浮かんだ囁言に耳を塞ぎたくなる。 「この間、最後にしたのが木曜日で、今日は月曜。……その間、ご自分でされなかったんですか」 「……っ!!」 質問の意味を理解するなり、かっと頬に血が上った。 さすがに答えられるわけもなく黙ったままでいると、答えてください、と促されながらも掌の中で脈打つそれを撫で上げられる。 「っ、…………、…」 「上長の質問には迅速かつ明確に返答するように、と習いませんでしたか」 ぎゅ、ときつく根元を握られ、痛みに思わず上擦った情けない声とともに身体がはねた。 些かの怜悧さをふくんだ声は、それでも一貫してからかいの意図を滲ませている。 机についた両手が、肘からがくがくと揺れはじめた。力を籠めすぎて白くなった指先を、涙で濁る視界で見つめた。 胸元を弄っていた手が降り、申し訳程度にひっかかっていたズボンを膝の辺りまで落とす。 片手で根元を戒められたまま添えられた手で先端を揉みこまれ、いや、と泣きそうな声が勝手に出た。 「や、あっ、あ、あ……ッそれ、…ぁ」 俺の声などまるで聞こえていない素振りでしつこく鈴口を撫でられ、とぷりととめどなくあふれる粘液が幹をつたう。 あと一寸、後押しされればすぐにでもい達ってしまえるくらいに高ぶったそれを、根元を塞がれ最後の解放を許されない。いっそ暴力とも思える快楽が辛くて、おねがいします、と訳のわからない懇願を口走った。 「いきたいなら、質問に答えてください。三日の間に、 ご自分でなさったんですか」 「……、……」 浅く、不規則になる呼吸の間で、たっぷり何十秒かはかかって漸く、はい、と蚊の鳴くような小声で呟いた。 屈辱に塗れながら認めれば今度は回数を問われる。一度答えてしまえばあとはもうどうなろうが大差がないように思われて、一度だけと泣き声混じりに吐き出すと、ようやく従順な反応をみせたことに満足したのか、肩口に強く口づけられる。 「それではどうぞ、もう出してかまいませんよ」 圧迫がなくなると同時に幹と先端を同時に強く刺激され、俺は子供のような泣き声を上げて射精していた。 勢いよく吹き出した精液が机の脚や床に模様を描くのを膜を隔てた向こうの出来事のように感じながら、漣のように連続する痺れるような愉悦に翻弄され、強く抱きしめてくる両腕にされるがまま、ずるずると肢体の力を抜いた。 続く ---------------------------------- パッションのままに書いた古泉部長×新入社員キョンをお送りいたしました(^q^) すいませんたのしかったです。セクハラ\(^0^)/万歳 もしかしなくても続くかもです気分しだい! update:08/4/19 |