古泉と付き合うようになってからというもの、そりゃあ言えば呆れ返られるほど何度も何度もキスをした。
 それまでは勿論キスなんて、小さい頃に両親や妹なんかとしたくらいの、経験にカウントされないような経験しかなかった。だから、初めて古泉と、他人と唇を重ねるという行為を体感して、ああ、これが世の中の恋人達がしているキスなんだ、などと俺なりに感慨深く思ったりしたものだが、どうやら、とりたてて経験豊富とも言えない古泉すら唖然とさせるほどに、俺はほとほと無知だったらしい。













学校じゃ教えてくれない KISS

























 放課後。
 ハルヒ達三人娘の帰ったあとの部室に、対戦していたオセロがもう一勝負ついてから、と古泉と俺が残っているのは勿論それだけが目的なわけはない。

 「っふ、……」

 ちゅ、と軽く音を立て、重なっていた古泉の唇がわずかに距離をあける。
 小さく息をもらすと、指先で鼻梁をくすぐるように撫でられた。

 学校の中では、キス以上のことはしない約束だ。

 誰に見られるかわからないから、キスも抱擁も、絶対に人目につかないところ、つまりは二人きりになれるところイコール文芸部室という図式が既に出来上がりつつある。
 放課後、部活も終わった時間ならさっさと古泉の部屋等に場所を移した方が確実なのはわかりきっているが、移動する時間も惜しかった、と言ったら察していただけるだろうか。
 馬鹿だという自覚はある。お互いに。

 一旦離れた古泉が、またすぐに取って返して掠めるように口づけてくる。
 一瞬触れ合ったそれはすぐにまた離れ、それを繰り返す。

 「……ん、」

 くちびるをなぞるように、ぺろりと温かな粘膜がふれる。古泉の舌だ。
 なんだよ、舐めるなくすぐったい、と抗議の声を上げる前に、先にしゃべったのは古泉の方だった。

 「…くち、開けていただけませんか」

 はあ?

 「何でだよ」
 「何で…って、あの、…キスできないからです」

 今してるじゃねえか。

 答えると、古泉は一瞬目を見開いたあと、困ったように眉根をよせて、

 「もしかして、舌…入れるのはお嫌とか」
 「舌?」

 古泉が一体何を言わんとしているのか計り兼ねて首を傾げていると、わずかに見開いた目を瞬かせる古泉の顔が怪訝そうな表情に変わり、やがて苦笑になった。

 「参ったな…。もしかして、これもご存知なかったんですか」

 だからこれって何だよ。

 「恋人同士のキス、ですよ。…教えて差し上げます」

 ふっと優しげな微笑みを浮かべて、古泉が指でくちびるをなぞってくる。むず痒さに薄く唇をひらくと、そのすき間を押し開くようにして、指先が口の中に侵入りこんだ。

 「……、ん」

 歯列を割り、口内の柔い粘膜をさぐられ、ぶるり、と背筋がふるえる。
 何だか変な気分だ。
 至近距離にいる古泉の顔を見ていられなくて、ぎゅっと目を閉じた。

 「そのまま口、開けていて下さいね」

 声と共に、指が口から抜け出る。
 何が何だかよくわからないまま、それでも言われた通りに口を開いたままでいると、すぐに再び古泉のくちびるが重なってきた。

 「ふ…、っう、う…?」

 ぬるりとしたものが開けた口の中に入りこんできて、俺は目を見開いた。
 思わず身体を退けて離れようとしたところを、背中に廻された古泉の腕にさらに強く抱き寄せられる。片手で頭を固定されているから、顔を背けることもできない。

 「んっ、ん…、ぅ、ッ、…!!」

 温い温度を持ったものが、咥内をうごめき探る。
 そうされて漸く、それが古泉の舌だと思い至った。

 ぬるついた柔らかな感触が歯の裏側をたどる。
 唾液をからませるようにしてたどりついた上顎をなぞられると、電流を流されたみたいにぞくぞくと得体の知れない感覚が頚椎を這いのぼった。

 「んッ…、ふぁ、……、っ、」

 甘えるような、おかしな声が勝手に出る。
 こぼれ落ちた吐息さえも飲み込むように深く貪られ、眩暈がした。
 古泉の舌が、俺のそれを捉える。
 逃げようにも狭い口内では逃れようもなくて、そのまま絡みついてくるそれに促されるようにしておずおずと舌をわずかに差し出すと、強く吸いつかれた。

 「んん…!!」

 初めて感じる刺激に、びくんと背筋が反る。
 やばい。何だこれ。

 「…っは、…はぁ、…」

 息苦しさから古泉の肩にぎゅっと縋り付く。
 それを合図にしたかのように、漸く唇が離れた。
 どちらのものともわからない唾液がとろりと顎を伝ってくすぐったい。
 酸欠からか、それとも気持ちよさからか判別できないまま、少し頬を上気させた古泉をぼうっと見つめつつ、俺は口内に溜まった唾液をごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。

 「……どうでした?」

 こぼれた唾液の轍を指の腹でぬぐいつつ、古泉が囁くような声音で尋ねてくる。
 俺はいくらか逡巡したあと、古泉の腕を引きよせて、その肩口に熱くなった顔を埋め呟いた。




 「……すっげぇ、エロい」






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ステップアップどころかステップダウンした件

いや、キス編はいる。いるよ。非常に私的に
なにがすごいって聞きかじりの知識のみでキョンを腰砕けにする
無知古泉だと思います。
キョンが天性の淫乱なら彼は天性のテクニシャンです(`・ω・´)


update:08/1/24



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