冷血 2 静かな室内に、俺の鳴咽だけが小さく響いている。 『僕が好きなら、どんなことでも堪えられますよね?』 この上なく優しい微笑で囁かれ、頷いてしまったのがいけなかったのか、それとも俺が何か古泉の気に障ることをしたのか。 いくら考えても恐怖と混乱でぐちゃぐちゃの頭では思考はまともに立ち行かない。 「ぅ…ッ、…く…」 「これくらいでもう泣いちゃうんですか?」 呆れたような古泉の嘲笑が降ってくる。 「まだ何もしていないのに…最初からこれでは、 終わる頃にはどうなっちゃうんでしょうね?」 壊れちゃうかもしれませんね、と可笑しそうにくすくす笑われ、 恐怖感で引き攣った喉が、ひっ、と鳴った。 戒められた手首が軋む。 ベッドに押し倒し圧しかかるなり古泉は、俺からブレザーと下衣を剥ぎ取ると、自らのネクタイと俺の首から抜き取ったネクタイを使って、俺の四肢を拘束し自由を奪った。 右手と右足首一揃いに固定され、もう片方も同じように縛られる。 予想もしていなかった古泉の行動に、もちろん俺は必死に抵抗した。それも古泉には猫かなにかに引っかかれた程度にしか感じないらしく、あっさりと古泉の思惑通りに拘束され、シーツに転がされ今に至る。 両手はもちろん自由が利かないし、両足首に固定されているので自分で起き上がることもできない。腕の長さ分しか脚を動かせないから、両脚も常にふくらはぎを内股につけ大きく開くか、閉じようと思えば胸につけるように膝を持ち上げていないといけない。 不自由な体勢を強いられ、羞恥と恐怖で勝手に涙が出てくる。 「いい恰好ですよ」 嬉しそうに微笑みながら、古泉の手のひらが髪を撫でた。 その口調も表情もいつも通りだから尚恐ろしい。 シャツ一枚しか身に纏っていない、外気に曝された俺の下半身を視線が這う。 内股も、性器も、その奥まった場所さえも古泉の目に触れている。 脚を閉じて隠すことも叶わず、俺はいやだと喚きたくなるのを何とか堪えて、ひたすらきつく目を閉じ屈辱に堪えた。 「……っ!」 ぐい、と無造作に膝を押し上げられる。 品定めをするように古泉の指が会陰部をなぞり上げ、思わずびくっと腰が震えた。 「や……っ」 「はじめてですか?こんなことされるの」 質問に逡巡していると、答えてください、と幾分トーンの下がった口調で促され、仕方なく小さく首を頷かせることで返事をした。 俺が従順にしていると、古泉はうれしいらしい。 にこりと唇を綻ばせながら、 「よかった。ココに入るのは僕が初めてなんですね」 「ぅあっ…!?」 さらに奥を指で圧され、おかしな声が上がる。 自分では触れたことも見たこともない秘部に指を這わされ、勝手に逃れようと脚がよじれる。なんでそんなところ。 「や、やめ…、古泉、汚い…っ!!」 「汚くなんてないですよ。男同士では此処を使うんです。 ご存知ありませんか?」 何度も首を横に振る。 使うってなんだ。そもそもそこは所謂排泄器官であって、他に用途があろうはずがない。 未知の部分にどんどん不安が増大していく。 そんな俺の心理を読み取ったかのように、古泉が薄く唇を吊り上げた。 「今から貴方のココを、女の子みたいに感じるようにして差し上げます」 「んんー…!!、んッ、う、…ぅああっ!!」 口を開けばあられもない声しか出てこない。 それが嫌で必死にくちびるを噛み締めていても、立て続けに与えられる刺激にほどかされて結局は無駄な努力に終わる。 涙がぼろぼろ止まらず、嫌悪感と苦痛と羞恥と、あと僅かばかりの快楽に近い感覚がないまぜになって押し寄せてくる。 「う、っ…もう、いやだ…ぁあ…」 根を上げてやめてくれ、と頼んでも、古泉は許してくれない。何度懇願しても笑んだまま無視の一途だ。それでも譫言のように口に出さずにはいられなかった。 ぐちゅり、と古泉の指をふくまされた部分が粘着質な音をたてる。 想像もしなかったところに、指を入れられている。そのことがたまらなく恥ずかしくて止めて欲しくて、あふれた涙がこめかみを伝った。 無理やり圧し開いて捩込まれたものの、何度も抜き差しされるうちに、なんとか引っ掛からず行き来するようになっていた。 それでも、酷い圧迫感に息すらまともに出来ない。 「どんな感じですか?」 「…っ、きもち、わるい…、もう、やめ…」 「もう少し我慢してください」 無理だ、と弱々しく首を振る。 せめてシーツを掴んで堪えたくても、戒められた両手では自分の足首に爪を立てることくらいしかできない。 「うぅぅ…っ、…!!」 唐突に、ずるっと内部を犯していた指が一気に抜け出る。 その気持ち悪さにぶるりと腰がふるえた。 ようやく止めてくれるのかと一抹の期待に縋って古泉を見上げると、相変わらず優しげな微笑をたたえたまま、ベッドボードから何かを取り出すところだった。 「……こいず、み…?」 「大丈夫。楽になるお薬ですから」 手に握られていたのは、手のひらほどの大きさのチューブだ。 片手で器用にキャップを捻ると、たっぷりとジェル状の中身を指先に取り再び脚を割ってくる。 「ん…、…ぅく、っ…」 ぬるっとした感触と共に、今度はいくらか楽に指が這入ってきた。 楽になるというのは本当らしい。全身を強ばらせて耐えなくてはいけないほどの圧迫感が少し緩和される。 「直腸吸収ですから、直ぐ効きますよ」 「え…?、…んっ…!」 何度も中に塗りこめるような動きをした後、再び古泉の指が出て行った。 ベッドに乗り上げ、シーツの上でだらしなく仰向けの状態で脚を開いている俺の身体に跨ってくる。 今度は何をする気なのか、と不安に駆られつつ見上げていると、笑顔のまま古泉は、俺の目の前で自らのベルトを外し始めた。 「舐めてください」 「……!!」 寛げた前から取り出されたものを鼻先に突きつけられる。 そうされてやっと言われた意味がわかった。 半ば勃ち上がっているそれは凶悪な風姿をしていて。同じ男の性器のはずなのに何故かどうしようもない畏怖を感じた。 「………っ、…!」 どうすればいいかなんてわからなくて、視線を彷徨わせ躊躇っていると、焦れたように先端をくちびるに圧しつけられる。舐めろ、と言われたからには舐めなくては駄目なんだろう。でも顎が硬直したように動かない。 「口、開けてください」 命令の意図を含んだ声がおちてくる。 それでも口に擦りつけられたものに恐ろしさしか感じなくて、ぎゅっとくちびるを引き締めたまま首を横に振ると、古泉が、ふぅ、と短く溜息をついた。 頬に伸びてきた手が、ぐっと顎の付け根を押してくる。 「……!!、…ぅ、あッ…ぐぅ、っ…!!!」 関節を圧される痛みに根負けして、わずかに口を緩めた隙に指でこじ開けられた。 すぐに古泉のものが口内に突っ込まれる。 自由にならない手足ではそれに抗うこともできなくて、押さえ込むようにして喉の奥まで這入りこんでくるそれを俺はただ受け入れるしかなかった。 「んっ、ん、…ぅッ、…んん……ぐ…」 苦しさと、口腔を蹂躙されている恐怖で涙があふれる。 「舌を使って、よく唾液をからめて下さい。充分に濡らしておかないと、 辛いのはあなたですよ」 そう言われたところで、口の中をいっぱいにされた状態では満足に舌を動かせるはずもなく、ましてやフェラチオなんてしたことは勿論、されたこともない。わからないことをやれ、と言われたって土台無理な話だ。 粘膜を刺激され唾液だけはどんどん零れてきて、隙間からあふれ出たものが顎を伝う。 俺が泣くばかりでいっこうに愛撫できないのを見限ったのか、古泉は俺の頭を掌で固定したかと思うと、徐に腰を動かし抽挿し始めた。 「ん!!ぅぐッ、ぅ、ん、んん、…、!!」 ぬちゃぬちゃと、卑猥な音が頭蓋に響く。 喉の奥まで容赦なく突かれて、ひどい吐き気がこみあげてくる。苦しい。 呼吸すら塞がれびくびくと身体が震えたが、古泉はお構いなしだ。 唾液でぬめり滑る舌の上に、じわりと知らない味が広がって、それが古泉の体液の味だと、息苦しさで朦朧としてきた思考の狭間で思った。 「んく、……ぁ…、っは…、げほッ」 充分に唾液を纏わせたところで、口の中から引き抜かれる。 ようやく呼吸が自由になり、俺は咽そうになりながら荒く酸素を肺に取りこんだ。 「…は…っ、こいずみ、…コレ、外して、くれ… もう、逃げたりしないから…」 縛られた手足が痛い。 ずっと脚も開かされっぱなしで、曲げた膝がずきずきと軋んだ。 「逃げる気がないなら、そのままでも構わないでしょう?」 くっくっと喉を鳴らしながら、古泉が唾液やら体液やらの入り混じった粘液で濡れそぼったくちびるを指先で拭ってくる。 「…っそうじゃなくて…」 「まあ、手足が自由になったところで、もう逃げ出すには 手遅れですけどね」 いつも笑顔を浮かべている古泉の、これまでに見たこともないような、 残酷とも思えるような冷淡な微笑に背筋が震えた。 こんな冷たい笑い方をする古泉は知らない。 何を言われているのか理解できず、何でもいいから頼むから解いてくれ、と口に出そうとしたところで、俺は異変に気がついた。 「……っあ…!?」 身体の内側が、じくりと疼くような熱をもってきている。 ---------------------------------- update:07/12/12 |