一般棟MS-108シャワー室 4

















 それからどのくらいの時間が経ったのか。
 漸く両手首から手錠を外して貰える頃には、ちゃんと身体が原型を保っているのか不安になるほど、身じろぐことはおろか、爪先すら満足に動かすこともままならないような有態だった。くたくたに疲弊しきって喋ることもできない。
 手ひどい陵辱に何度も意識を飛ばしてはその都度口にしたくもないようなやり方で引き戻され、延々と嬲られ続けたのだから当然だろう。寧ろぎりぎり糸一本くらいのところで意識を持たせている自分を褒めてやりたいくらいだ。
 ぐったりとタイルの上でうずくまっている俺を尻目に三人は、まるで散々遊んだおもちゃに飽きたとでもいうようにさっさと身支度をしている。
 その布擦れの音やささやかな会話を呆然と耳に入れていると、その合間にもまた、シャッター音とともにフラッシュが焚かれた。いったい何枚撮られたかなんて奴らに中出しされた回数以上に覚えていない。こちらの身体が言うことを聞かなくなっているのをいいことに、奴らに好きに扱われいろんな体位で犯されている様をカメラに収められた。
 男をずっぽり咥え込んでいるぐちゃぐちゃの接合部も、無論、フェラチオしている時の精液にまみれた顔もばっちり写されていたから誰かの目に触れでもすれば一発で俺だとわかるだろう。最悪の物的証拠だ。しかも写真じゃ合意のない輪姦だなんてわからない。

 「どちらかというと部下に悦んで抱かれて喘いでる上官の構図、と言ったほうがいいでしょうね。実際そうとしか見えませんし」

 デジカメに収めたデータを、まるで品定めするみたいに見返しながら男が笑った。
 僅かに頭を上げその顔を睨みつける。それが俺に許された精一杯の反抗だ。
 だらりと伸ばしたきりだった腕を引き寄せると、節々や手首が酷く痛む。殊に手首には手錠でついた擦過傷がぐるりと一周していて、真っ赤に腫れた傷口はところどころ皮膚が破れて血が滲んでいる。手袋だけじゃ隠すに心許ない範囲のそれに、暫くは包帯でも巻いていないとならないだろうな、とぼんやり考えた。
 手首だけじゃない。散々に吸われ、噛み付かれた肢体の至るところに赤い鬱血やら歯型や擦り傷やらが無数についていて、恐らく首筋や背中なんかの見えないところもひどい惨状になっているだろう。

 「さて、名残惜しいですが参謀殿。いつまでも寝てるとそろそろ勤務交代の時間ですから人が来ますよ。そんな扇情的な姿で他の奴らにも可愛がられたいならどうぞお好きに」
 「…………」

 浴びせられる無情な侮辱の言葉に無言のまま、のろのろと上体を起こす。
 身体を動かすと途端に鈍い痛みとともに、未だ中に突っ込まれているみたいな異物感の残る後孔からどろどろと粘っこい液体が溢れ出して内股を伝い、苦い唇を噛んだ。
 カメラを軍服の内ポケットにしまい込んだ男がしゃがみ込む。

 「わかっていらっしゃるかと思いますが、このことは俺らと貴方だけの秘密ですよ」

 立てた人差し指を笑んだ唇に当てながら言う。
 当然貴方もそうしたいでしょうから、と、まるでこちらの心中などわかっていると含むような言い方に虫ずが走った。

 「陳腐な手管であまり気は進みませんけど、今日撮らせていただいた写真を他へ流出させたくなければ、これからせいぜい俺らを愉しくさせて"そういう"気が起こらないようにして下さいね」

 この上なく愉快そうな調子の台詞が降ってきて目の前が暗くなる。
 視線を落とした真四角のタイル模様が歪んで見えた。
 これから、というからには、これっきりで終わりではないのだ。
 俯いたまま黙って固まっていると、顎の下に手を差し入れられ、顎関節を力任せに掴まれて無理矢理顔を上げさせられる。にっこりと微笑みを浮かべた男と目が合った。

 「返事は?」

 血の気を失い白むほど力を込めた指先がタイルの目地を引っ掻き、爪が痛んだ。


 「………………は、い」


















 男どもが去った後、独りきりになったシャワールームで穢された身体を洗い流した。
 湯の飛沫が当たる度に全身がびりびりと酷く痛むのにも構わず、こびりついた肌の上の粘液の這った跡や汚れを落とし、身体の中まで自らの指を入れて精液を掻き出す。
 その作業を行っている間も、こんな目に遭わされて悔しいとか悲しいとか、怒りだのと言った感情は不思議なほど湧いて来なかった。ただそれよりもこの事実をどうやったら古泉に隠し通すことが出来るだろうか、と、そればかりが頭の中を占領する。
 事実とは勿論、こうやって部下に暴行されたことと、それよりも、こうなる以前から古泉が無垢と信じて疑わないこの身体が既に汚れているという、今までどうしても打ち明けることなど出来ないでいた事実、だ。
 いつか真実を知った古泉が、俺の醜悪な正体に幻滅し嫌悪して離れていくことが何よりも恐ろしいから、例え奴らがどんな要求を突きつけてこようとも、隠しおおせることで古泉を騙し、欺き、それでも側に居られるのならばそれでいいと考えている自分はもうとっくにどこかが壊れて、欠落してしまっているのかもしれない。
 身体をひとしきり流し終えると、べたべたになった床や壁にまで飛散した精液を残さず洗い流し、完全に情交の痕を消した。破かれて駄目になった上着はとても着られたものではないので、空きロッカーに放置されていたシャツを拝借し着込むと、まるで罪人のようにシャワー室を出て、頼むから誰にも逢いませんようにと祈りながらふらつく足を叱咤して一般棟から自分の部屋へと急ぎ戻った。
 ドアに確実に施錠したのを確認し、そのまま部屋の明かりすらつけずにベッドに倒れ込む。そうしてしまえば最後、未だ耳に残響する男達の嘲笑や、全身を這い回る手の感触、精液の生々しい臭い、明日の軍務の予定も、今日の別れ際に見た古泉の笑顔もすべて、何もかもが思考の底に沈没していくようで、夢も見ずひたすら泥のように眠った。






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参謀おつかれさまでした…
部下キョンは気が向いたらまたかくかもしれません


update:09/09/23



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