謎の転校生。超能力者。

 ただでさえ普通じゃない肩書を持つ古泉にはもうひとつ、
 俺しか知らない属性がある。














恋愛tricks

















 放課後の、夕暮れに染まる教室に俺と古泉はふたりきりでいた。

 放課後といえばホームルーム終了次第、速やかに文芸部室へと赴くことが半ば義務化されている身ではあるのだが、それこそ気まぐれな団長様の目を盗み、こそこそ部室を抜けて来ているのには勿論訳がある。
 ただ、それは専ら古泉の都合であって、俺はそれに付き合わされているだけだ。
 どちらかというと非常に気が進まない。それなら何故断らないのかと言われると言葉に困るが、そこにはマリアナ海溝より深い理由が存在するのである。




 「…、……何でまたうちの教室なんだよ」


 せめてそれくらいは聞く権利はあると思う。

 「そのほうが貴方、恥ずかしがって下さるでしょう?」

 人のベルトを断りもなく片手で器用に外しながら、古泉が事もなげに言った。
 何とも閉口せざるを得ない返答だ。
 それでも着々とシャツのボタンを外し、前を寛げる古泉に制止をかけないのは、それがもはや無駄であることが身に染みているからだ。
 寧ろ下手な抵抗は事態を悪化させるだけだと最近になって学習した俺は、こうなってしまえばもう後は目を閉じて、ここが公共の場たる教室であることも見ないふりして嵐が過ぎ去るのを待つだけである。

 「…、ん…」

 肌蹴たシャツの袷から掌をしのびこませながら、古泉が肩口に吸いついてくる。
 小さく息を零すと、今度は喉のくぼみに口づけられる。
 もたれ掛かった教卓が、がたんと音を立てた。

 すいません。岡部先生。
 俺達は今から神聖な教壇で不埒な行為に耽ろうとしています。
 それもこれもみんなこの男の所為です。

 「…っあ!」
 「考え事とは余裕ですね」

 出来るだけ意識をよそに散らそうとしていたのを咎めるように、
 古泉が膝で股間を押し上げてくる。

 「う…っ、い、から、早くしろよ…!」

 そしてさっさと終わらせてくれ。
 憂鬱な事態の回避が絶対不可能なのだとしたら、せめて一刻も早く解放されたいと願うのは人間として当然の心理だ。
 俺の台詞を別な方向に受け取ったらしく古泉はうれしそうに微笑みながら、そんなに我慢できないんですか、などと耳もとで囁いた。んなわけあるか!








 不本意ながら古泉とこういう関係になって以来、計らずも俺は、いつも柔和な微笑を浮かべた爽やかな好青年の外見に似合わない、奴の隠された本性を知ることになった。


 ひらたくいって、こいつは真性のサディストだ。


 初めて抱き合った時、いいか、初めての時にだ。いきなり説明するのも憚られるようないかがわしい道具を持ち出して来たのを皮切りに、それはもう涙ながらにしか語れない、いやむしろ人には口が裂けても語れないような行為を散々強制させられてきた。
 しかも、そんなとんでもない性癖を露顕させておきながら、本人は至って無自覚だから始末に終えない。古泉いわく、

 「恥ずかしがる貴方がとても可愛いので、
  ついいじめてみたくなるんです」

 だそうだが、それを世間ではサドと言うんじゃなかろうか。
 正確に言うと俺は恥ずかしがっているわけではなく心底嫌がっているのだが、そう訴えてみたところでまさに馬耳東風である。

 それこそ最初のうちは古泉の部屋で隠れて抱き合っていたものの、シチュエーションに飽きたのか性欲が有り余っているのか知らないが、最近ではこうして校内でもすぐちょっかいをかけてくるようになった。いや、ちょっかいなんて可愛い表現では追いつかない。もはや新手のDVだ。どこまで助長する気なんだこいつは。

 「その責任の一端はあなたにもあると思いますがね。嫌だとおっしゃるわりに、際どいシチュエーションになればなるほどかわいらしく泣いて下さるでしょう?
 …今だって、ホラ」

 少し冷たい掌がぎゅっと性器にからんだ。


 「もうこんなに反応していらっしゃる癖に」


 確実有罪な物的証拠を提示するかのように小さく囁きながら、耳朶を食んでくる。
 自分の身体なのだから、古泉にわざわざ指摘されるまでもなくそんなことわかっている。
 だから嫌なんだ。

 「…ぅ、…く、…」

 半ば立ち上がったものに絡んだ長い指が、ゆるゆると上下する。
 ちょっと擦られただけで浅ましく先走りをこぼし始める弱い先端に、それを塞き止めるようにぐりっと爪を立てられた。

 「ひぅ…ッ!!」

 痛みに近い感覚に思わず背筋がのけ反る。
 だからこういう、痛いのはいやだと何べん言っても聞きやしない。
 そんな俺をよそに古泉は満足そうに微笑むと、教卓に押し付けていた俺の身体を反転させ、天板に手をつくよう促した。自然と前傾姿勢になり、背後から腰を抱かれる。
 辛うじて腰に引っ掛かっていたズボンを下着ごと膝まで落とされた。
 人気がないとはいえ、いつ誰が来ないとも限らない場所だ。鍵だってかかってない。
 教室で下半身丸出しにして男に抱かれているところなんぞ人目に触れようものなら、平凡なスクールデイズはおろか人生終了のお知らせだ。想像だに絶望が押し寄せてくる。

 「明日も、あなたはここで授業を受けるんですよね」

 あたりまえだろ。
 時期外れのクラス替えでもない限り、三月いっぱいはこの教室だろうよ。

 「興奮しませんか?…例えば、想像してみてください。今が放課後ではなくて、
  授業中で、…クラスメイト皆の前で、こうやって…」

 「……っ!!」

 後ろに先走りをからめた指が押し込まれる。


 「貴方の、いやらしいところを曝しているのだとしたら」


 悪趣味極まりない発想だ。

 どこをどう押したらそんな逞しい妄想が湧いてくるんだか。
 今日はどうしてもうちの教室がいいとか言い出したのは、単にそういう言葉責めがやりたかっただけか。

 教壇から見渡せるいつも騒がしい教室内は、誰もいない今は勿論静まり返っていて、聞こえるのは俺と古泉の呼吸音、そして下半身から聞こえる忌々しい粘性の水音だけだ。
 わかっているのに、古泉がいらんことを言ったせいで俺の愚直なまでの脳は勝手に記憶の中の、いつもの教室の様子をリプレイしてしまう。
 休み時間のざわめきや、笑い声。そして…。

 「ん…っ! や、やだ…」
 「ふふ、…想像したみたいですね」

 出し入れされる指に、感じるところを擦られたわけでもないのにぎゅっと狭くなった内壁が絡みつくのがわかる。
 経験したわけでもないことを想像できるって、脳内のどの作用のせいなんだろうな。
 大方今までに体験した過去の記憶のパーツを継ぎ合わせて妄想を作り出しているんだろうが、こんなところ誰かに見られたら死ぬ。そう思うのに、見られるところを想像して興奮するって、いったい俺の頭はどうなってるんだと問い詰めたい。

 「んん……っ」

 三本目をなんとか飲み込んだところで、指が引き抜かれる。
 代わりと言わんばかりに押しつけられたものの熱さに、ひっと息を飲んだ。


 「ふ…、ぅ、ぁああ…ッ!!」


 ぐっと突き立てられる衝撃に、精一杯押し殺した嬌声を上げる。
 太い先端部分が半ば強引に捩込まれ、揺すりながら残りがすべて埋め込まれるのを、天板に爪を立てて堪えた。

 「は…ッ、ァ、…っう……」

 「少し慣らしただけで、ずいぶん簡単に飲み込めるようになりましたね。
  初めの頃は、あんなに痛いと泣きじゃくってらしたのに」

 意地悪い声音の古泉の囁きに、ぶるりと太腿が震える。
 簡単なわけあるか。
 何べんやられようが自分の身体の中に異物を受け入れる行為なんぞ、慣れるわけがない。
 慣れたのは行為自体ではなく、こうしたらいくらかマシだという苦痛を逃がすための方法くらいだ。

 「んっ…、ぅ、あ、あ、…あっ…」

 動いていいとも悪いとも言わないうちに、古泉が小刻みに腰をゆさぶってくる。
 ぎちぎちと狭い内道をこすりたてられる感覚に眩暈がした。


 「ああ…ほら、いいものがありましたよ」


 古泉が、不意にいたずらを思いついた子供のような無邪気な声を上げる。
 教卓の下の引き出しを探っていた奴の手に握られていたのは、何の変哲もない事務用品のクリップだった。あれだ、書類なんかを束ねるのに使う。

 そんなものどうする気だ。
 激しく嫌な予感がするんだが。

 そんな意図も込めて恐る恐る首を捻じ曲げ背後の古泉を振り返ると、奴は俺の肌蹴たシャツから手を忍び込ませ、これ以上ない優しげな微笑で以って、


 「こっちも寂しいでしょう?」


 あろうことか、今までほったらかされていた乳首にそれを挟みつけやがった。


 「ひッ、いぁあ゛あ…!!!」


 鋭い痛みにびくっと一気に身体が緊縮する。
 そのはずみで中の古泉も思いっきり締めつけてしまって、中に埋め込まれた楔の形や、それがどのくらい自分の奥まで到達しているのかがリアルに読み取れそうだった。
 当然ながらそういう用途の道具でもないそれは、敏感な部分に使われるにはばねがきつすぎて、千切れてしまいそうなほど痛い。

 「いッ、痛い…いた、いっ、取って、…古泉ッ…!!!」

 ぼろっとこぼれた涙が頬をつたう。
 必死にかぶりを振って取ってくれ、と懇願しても、古泉は涼しい顔で、


 「痛くされるのがお好きなあなたですから、すぐに悦くなりますよ」


 言いくるめるように囁かれ、徐に止められていた抽挿を再開される。
 だから痛いのは好きじゃないと何度言ったらわかるんだ!

 「やッ、あ…! ッあ、あぁあ…、ん!」
 
 自分の声とは信じたくないような喘声が、とめどなく口をつく。覚えこまされた中の感じるところを容赦なく突き上げられて、目の前がちかちかと白く点滅した。
 ひどい痛みを訴えていたクリップが食い込んだ部分がじんじんと熱を持ってきて、突き上げられる快感と相俟って、それが本当に痛覚なのか境目が曖昧になってくる。
 古泉がおかしなことばかりしてくるせいで、俺の感覚機能まで狂ってしまっているに違いない。
 淫液をふきこぼす性器に指が絡む。直接刺激されればあとは弱い。
 掌で包まれ擦りたてられる、解放を赦す古泉の合図に一気に駆け上る射精感に、俺はなすすべもなく身体をふるわせた。



 「も、いく、い、く…ぅ…やぁああ…!!!!」











 射精する瞬間、古泉がわざと包み込んでいた手を離しやがった所為で、ことが済んだあとの教卓の下は目も当てられない惨状だった。 

 「どうするんだよ…これ」

 ぬるついた液体がべったりと付着した教卓の脚や床を見て、俺は大いに嘆息した。
 明日から俺は岡部の顔をまともに見られなくなること請け合いだ。
 いたってまともな常識的精神の持ち主である俺にしてみれば、教室の備品をぶっかけて汚しましたなんて、罪悪感で授業中も前を向けないぞ。


 「ふふ、恥ずかしさでうろたえるあなたが見られないのは至極残念ではありますが…。でもまあ、これで、授業中も僕のこと思い出して下さいますよね」


 まさか最初からそれが目的だったとか言うなよ。


 身づくろいながら古泉がさわやかな笑顔にそぐわない台詞を吐く。
 きっちりブレザーのボタンまで留めれば、さっきまでのねちっこい愛撫を繰り出していた人間と同一とはとても思えない優等生の出来上がりだ。
 俺はずきずきと鈍痛を訴える腰をさすりながら、再びため息をついた。

 「鬼畜で変態なんて目も当てられんぞ」

 「いやだなあ。何度も申し上げているとおり、あなたがあんまり可愛らしすぎるのがいけないんですよ。そのせいで僕は抑制が利かなくなって、ついいじめてしまいたくなるんですから」

 じゃあ何か。全部俺の所為だっていうのか。
 半眼になって呟くと、少しばかり苦笑した古泉がなだめるように抱きしめて、瞼に口付けてきた。




 「すべては貴方への愛ゆえ、ですよ」











 つまるところ一番始末に終えないのは、
 表向きは謎の転校生で超能力者、その中身はとんでもない鬼畜で変態だとわかっているのに、それでもこいつから離れられない俺自身だ。

 残念なことに自覚がある。忌々しい。






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鬼畜同盟さまに謙譲した作品です。
なんかこう、ラブラブな鬼畜にしたかったんですが←
その結果がクリップで乳首調教なのかといわれたらぐうの音も出ません(´・ω・`)
この話には絵チャで公約した続きがあるのでそのうち書きたいです


update:08/2/16



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