慾情urge





 彼はどうも快楽に耐性がないらしい。


 元々こと性欲に関しては淡白なたちであるらしく、付き合い出して数カ月、僕が半ば強引に押し切るようにして性交渉を持つようになってからも、彼から求めて来たことは一度たりとてない。
 しかも、どうにも中でいかされる感覚が好きになれないらしく、一度挿入して達してしまうと、通常の射精より深い絶頂にそれだけでぐったりとなってしまって、大概そのまま引きずられるようにして眠ってしまうことが殆どだ。
 射精に至ると眠気が来るのは男の本能的な部分だから仕方ないとはいえ、彼は若干程度がすぎる。何しろ、僕が達するまで彼に意識がある方が珍しいくらいだからだ。
 僕にしてみれば、一度逐情したくらいで彼への慾望が抑えられるはずもなく、もっともっとその躯を堪能していたいと思うのだが、意識のない彼を無理に抱いたところで自慰と何等変わりがない虚しい行為だ。むしろ、「セックスは疲れるから嫌だ」とごねる彼が、渋々ながらも僕を受け入れてくれることに感謝すべきだろう。
 それでも、一度でいい。
 手加減も容赦もせず彼の内部を蹂躙して、悦楽に泣く彼を思うさま支配したい。

 そう僕が考えてしまうのも、無理からぬことだ。








 「ん、…っく、あ、…あ、」

 いつも通り、シーツの上で組み敷いた彼をゆっくりと揺さ振ると、控えめな声を上げてほそい腰がゆれる。
 前戯もそこそこに、後ろがローションでほぐれると直ぐに、僕は彼の中に挿入した。
 一度いくともうその疲労に耐えられないほど快楽に弱い身体の癖して、彼はとても感じ易い。あまりしつこく愛撫すると簡単に上りつめてしまうから、達してしまわない程度の刺激を見極めるというのも、中々難しい作業だ。
 前立腺を狙ったわけでもないのに、慣らすように腰を動かすとそれだけで彼が「あっ」と鼻にかかった喘ぎを漏らした。

 いつもだったらこのまま、彼が達するまで優しく律動してやるところだが、
 今日はそうしない。

 「……、こいずみ…?」

 動かない僕を、彼が訝しげに見上げた。
 その視線を端目に捉えつつ、僕はベッドボードをさぐると用意していたものを取り出した。

 シリコン製のリングだ。

 それが何であるのかわかりかねている彼の、既に勃ち上がっている性器の根本にきつめに装着してやる。そうされてようやく、彼は道具の意図を察したようだった。

 「な…!なに、して」
 「だって、こうでもしないと貴方、すぐにいってしまうでしょう」

 そういってリングの上からぎゅっと握り込むと、彼が痛みに声を上げた。

 「や…だ!!こんなのっ…変なこと、するな…!」

 外せ、と足をばたつかせる彼を押さえ込むと、膝裏を掴んで両脚を抱え上げる。
 怯えたような視線が僕を見上げる。
 それもそうだろう。そう多くもないがこうして彼を抱く時、僕は彼の怖がることは決してしなかったし、少しでも嫌がるそぶりを見せれば直ぐに止めていた。


 でも、今日は駄目ですよ。


 優しく微笑みかけると、額にかかった短い髪をかきあげるようにして撫でてやる。

 「今日は僕が先にいくまでいかないで下さいね」
 「え…」

 事態を飲み込めていない彼を無視して、予告なく注挿を開始した。

 「ひッ!?…や、ああッ、や、こ、いずみッ…」

 いつもとは全然違うやり方だ。
 彼の足を胸につくほど折り曲げ固定し、乱暴に近いほど激しく腰を打ちつける。
 彼は突然の刺激に目を白黒させながら、肢体をびくつかせた。

 「いやぁッ…っやだ、痛、…っぁああ!!」

 強すぎる、とかぶりを振って涙を零し出す。
 その言葉も無視して、ぎりぎりまで引き抜き奥の奥まで突き刺す激しいストロークを繰り返すと、そのたびにがくがくと大きく揺さ振られる彼が喉を反らせて息をつまらせる。
 中が戸惑うような動きで、常より強く不規則に僕を締め上げてきて気持ちがいい。
 快楽からというよりは、怯えで締まっているんだろう。

 「ひうッ…、や、やだぁあっ!…、ぅぐっ、…っこい、ず…!!」

 嬌声に鳴咽が混じり始める。
 こんな泣かし方をしたのは初めてだ。そう思うと、嗜虐心がぞくぞくと背筋を這いのぼった。
 僕の肩を押し返そうとしてくる手を搦め捕ると、ひとまとめにしてシーツに押し付ける。 こうやって動きを拘束したこともないから、彼はいよいよ顔を青ざめさせて眦を濡らした。

 「う…、っなん、でッ、…っく、ぁ、ああッ!!」

 根本まで飲み込ませ、奥を掻き回してやると、無防備に喉がさらされる。
 爪先がぎゅうっと丸まって、逃がしきれない快楽を訴えてくる。
 接合部がぐちゅぐちゅと猥雑な音を立て、僕は彼にも繋がった部分が見えるようさらに腰を持ち上げた。すべてを僕にさらけ出す恥ずかしい体位に、彼の頬が真っ赤に染まる。

 「…見えます? 貴方いつも、こんなにいやらしく僕を飲み込んでるんですよ」
 「……ッ!!ばかっ…古泉ッ」

 彼が羞恥に顔を歪め、怒ったようにそっぽを向いた。
 だがそれも、中に点在する覚え込ませた性感帯を狙って突けば、すぐに快楽を滲ませる表情に変わる。

 「ふぁ…、っあ、ぁあッ、ん、んぁ…ぁああ…!」

 奔流をせき止められ、尿道に滴を滲ませつつひくひくとふるえる先端を指の腹でえぐると、身体が跳ね中がきつく締まる。

 「ひッ!!、やぁ…、い、痛…っこいずみ…!!」

 高ぶって、さらに硬さを増した性器の根本のリングが食い込んで痛いのだろう。
 彼がもう外して、と哀願しつつかぶりを振った。

 「ふふ、…僕がいくまで、もう少し我慢して下さい」
 「やぁあッ、む、無理っ…、むりだっ…ぁあ!!」

 悲痛さを混じらせた彼の訴えを棄却すると、乱暴に中をえぐる。
 何度も何度も前立腺を狙って腰を動かすと、彼は目を見開いてぼろぼろ泣いた。
 リングが無ければとっくに限界を迎えて達している頃だ。
 ましてこんなふうに手加減もせず激しい刺激を送り込むセックスはしたことがないから、彼にはもはや未知の領域だろう。
 さて、限界を越えた彼をさらに責め苛むとどうなるのか。

 「ぅああッ、や、やぁあっ、も、やだぁああ…!!」

 いつものように声も殺すことも忘れたのか、奥を突くたび彼が背筋を反らせて泣きわめく。それを黙らせるようにさらに激しく挿入すると、彼は不自然に息をつまらせながらびくびくと大腿を引き攣らせた。
 中も痙攣するような激しい収縮を繰り返している。
 感じたことのない締め付け方に射精感が一気に高まり、僕は低く呻くとぐっと彼の奥まで自身を埋め込んだ。


 「…ッ出しますよ」
 「……!!!」


 予告して、思いきり中に射精した。
 彼のはじめて見る部類の恥態に興奮していたからか、かなりの量の精液が彼の奥まった内壁を汚す。
 彼はそれを、声もたてずに身を強張らせてされるがままに受け止めた。

 「っ…ふ、……」

 すべて出し終えて、心地いい倦怠感に包まれながら彼のこめかみにキスすると、彼が小さく鳴咽しながら身をよじらせる。

 「…っ今、いったんだろ…、はやく、抜けよ…ッ」
 「ふふ…まだですよ」
 「え…、っあ!……や、やだっ」

 彼が顔を真っ赤にして慌てだす。
 それもそうだ。一度出した程度で収まるはずもなく、僕は彼の中に居座ったままあっという間に硬度を取り戻しつつあった。
 にっこり笑って再び注挿する。

 「一度やってみたかったんですよね。抜かずに立て続けっていうの」
 「ひッ…、無理…もうむり、ぃ…ッ!!」

 中出ししたもので滑りがよくなり、いつもより強い締め付けにも関わらずより深くまで楽に犯せる。ぐちゅっと淫音を立てながら僕を飲み込んでいる肉襞の縁から、精液とローションと彼の腸液がまざったものがわずかずつ溢れ出し、とんでもなく卑猥な構図だ。

 「ゃあっ!っあ、っぁあ!っひ、ぁああ!!」

 喉が枯れてしまいそうな、激しい嬌声が搾り出される。
 いちどもいかされていない彼の性器が、痛々しく尿道をひくつかせながら律動に合わせて揺れた。

 「やだぁッ、も、いきた…いきた、いっ…こいずみ…!!」
 「駄目ですよ。一回いっちゃうと貴方、もう我慢できないんですから」
 「やだぁああ…!!」

 子供のように嫌々をしながらしゃくり上げる。
 こんなふうに理性を飛ばして乱れる彼ははじめてだ。
 泣きながら感じている彼の媚態が可愛く猥らで、もっともっと虐めて、泣かせて追い詰めてしまいたい衝動に駆られる。
 長いこと擦って充血しきった肉壁を、さらにいたぶるように痛いほど激しくこすり立ててやると、彼がいっそ痛嘆なほどの悲鳴を上げてのけ反った。

 「ひぃッ、やぁ…やらぁあああ!!!」

 荒い呼吸と喘声でひらきっぱなしの口の端から垂れた涎を舐めとる。
 注挿のたびにびくっびくっと緊張する彼の肢体が、小刻みにふるえはじめた。目の焦点もあやしくなってきていて、そろそろ臨界点らしい。

 「ひッ…!?」

 目を見開いた彼が、かちかちと歯を鳴らす。

 「や、や…、あ…!?っやだ、や…何…かくるッ…!!」

 突然に、正体のわからないものに怯えるように必死に首を振りながら、彼が肢体をくねらせる。暴れる手足を押さえ付けながら尚もしつこく前立腺のあたりを苛めてやると、


 「ひあッ…ぁああ!!嫌、くる、来っ……
  やだぁあぁああ!!!」


 絶叫したかと思うと、彼の身体が折れそうなほど限界まで反った。
 びくん、びくん、と大きく脈動する肢体を押さえ付ける。
 内道がぎゅうっと搾り取るように収縮して、僕は目が眩むような刺激に奥歯を噛んで堪えた。激しい反応に射精したのかと思ったが、彼の性器はリングが戒めたままで精液を吐き出してはいない。

 「はッ…、はぁっ、…は…、ぁあ…、…」

 彼自身、何が起こったのかわからないと言った表情でうつろな眼差しを
 天井に向けている。

 すごい。
 ドライオーガズムか。

 感じ易いとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
 前立腺での快楽を覚え始めたばかりなのにドライに至るなんて、もともとの素質がないと無理な話だ。

 「まさか射精せずにいっちゃうなんて…淫乱なんですね、貴方の身体は」
 「や…、っち、違…!!」
 「違わないでしょう?現に今、お尻の刺激だけでいったじゃないですか」

 わざと意地悪い言葉を選ぶと、彼が鳴咽しながら力無くかぶりを振る。

 「本当は、僕にこんな淫乱な身体だと知られたくなくて…
  セックスが嫌いだなんて言ってたんでしょう」
 「う…ッ、ちが…」

 いやらしいですね、と耳元で吹き込んでやると、また肢体がびくびくと引き攣りだす。
 達したといっても射精が伴っていないから、身体は満足していない。また簡単に煽られ立ち上る悦楽の波に、彼が信じられないといったふうに視線をさ迷わせる。

 「ふふ、…このまま射精なしで何回イケるか、試してみましょうか?」


 腰を揺らめかせながら優しく微笑んでやると、彼は僕の宣告に言葉も出ないのか、くちびるをわななかせながら見開いた目から大粒の涙をこぼした。






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古泉の口からシリコンとか出ると超絶★エロワードにしか聞こえません


update:07/11/17



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