やさしく愛して 2













 全身が電流を流されたみたいに緊張した。
 古泉と、それこそ清く正しくの真逆を突っ走るようなどろどろに爛れた付き合いに至るようになって今まで、とても口にできないような、寧ろ口にすれば俺本人のみならず耳にした人間に対する精神的暴力といって過言ではない無体を強いられてきたが、これはない、と思った。これはない。
 今まで経験したアレソレが周回遅れの差をつけてぶっちぎり断トツトップだ。
 過ぎたるは及ばざるが如しって言うじゃないか。仮に古泉の言う『愛しているからこそ気持ちよくなってほしいし、虐めたいとも思うんですよ』という言葉が真実だったとしても、こいつは本当に俺のことが好きなんだろうかと疑問さえ沸いて来るね。

 「や…、うあ、っぁああ…!!」

 嬌声というよりは悲鳴だ。それくらいの衝撃が走った。
 いくら中に入り込んでいる器具を思いっきり締めつけてしまったからと言っても、それにしたって普通じゃない。今まで所謂玩具的なものを入れられたことは幾度となくあったがただ力を入れたくらいじゃこんなことにはならない。

 「ひ…っ、ぃ、…な、なに…し、っ、」
 「凄い……効果覿面ですね。普通は経験があっても訓練しないと快感を得るのは難しいらしいんですが」

 きっと持って生まれた素質なんでしょうね才能と言ってもいいかも知れませんって、そんな局地的な才能あったって嬉しくも何ともない。寧ろ謹んで返上させていただきたい。そしてもっと役立つ才能と交換してくれ。
 エネマグラという器具が前立腺治療に使われるもので、実際に肛門から挿入して使用するものだというのは知っていた。使用法としては間違っちゃいいないが使用目的が思いっきり間違ってるだろこれは。誰だ最初に性的快感を得られるかもとか考えついた奴は!

 「や…、いや、ぁああ、…っ、ア、あ、」

 一度締めつけてしまうとあとはなし崩しで、内壁が別の生き物みたいに勝手にきゅうきゅう収縮してそれに絡みつくのを止めることなんて不可能に近い。その度に、体内に挿入された僅かに腹側へ湾曲した形状のプラスチックの棒が壁を押して前立腺にピンポイントで食い込む。今までにも古泉の指やらアレやらでそこを擦られると堪え難い快感が得られるのを俺の身体はすっかり覚え込んでいた。が、刺激が段違いだ。
 恐らく的確に前立腺を捉えることが出来るよう計算され尽くしているのだろう、まあ元来そういう目的の医療器具なんだから、当然といえば当然だが。微細な神経のたくさん通った箇所、それも防御できないような柔らかい部分に無理やり爪を立てられるような、きつすぎるなんてもんじゃない。苦痛と快感は紙一重、とは言っても、これはもうギリギリ気持ちいいかもなんて域をとっくに通過している。

「いや、っだ、ぁあ、っやめ、ぬ、抜い…、…ぁああ!!」

 何がなんだかわからないまま、身体に力が入る度に走るとんでもない感覚に悲鳴を上げる。お隣りに聞こえるとかそんな配慮をする余裕もない。勝手に声が上がって呼吸が出来ない。息を吸う、それだけの刺激にも後ろに力が加わってしまいまた声が出る。どうしようもなくて横向いたままの体勢で俺はシーツを揉みくちゃにして肢体をのたうたせた。

「う、っ、ぅあ、…ッ、っひ、…っい」

 涙がぶわりと湧いてくる。
 ひっ、としゃくり上げると硬い先端が収縮の度柔らかい粘膜を押し込む。酸欠で苦しいのと、身体の収縮の度に走る苦痛と同じ快感に矜持も何もかなぐり捨てて俺は古泉に哀願した。

「こ、いずみ、…っ、も、許して…、っくる、し…!!」
「苦しい…割には反応なさってますけど」

 くす、と耳元で笑い混じりに指摘され、下腹部に視線を落とせば滲んで歪む視界の端に、屹立しきってだらだらと垂れおちる先走りに塗れた自身が映る。

 「うぇ、ッ…っ、ちが…、…っほんと、にっ、…」

 古泉の手のひらが、身体の上を這う。
 背中から横向きに添うようにして身体を抱きすくめられながら首筋、鎖骨、胸元から乳首、腹、と触れられるたびにびくびくと身体が引き攣る。降りきった指に器具を飲み込んでいる入り口の縁をぐるりと撫でられれば、反射的に思いっきり中を締め上げる結果になり、俺は悲鳴混じりに泣きわめくしかなかった。

 「ッやら、あぁ…、も、いや、うごかさな…、ああ…!!」 
 「僕が動かしてるんじゃないですよ。貴方が締めつけてるんでしょう」

 触れていない、と証明するかのように、両手を腹部に回してくる。
 ぞくぞくと悪寒にも似た感覚が、腰骨にまで響く。身体の内側の深い部分に許容量をとっくにオーバーし与えられる刺激に、射精感ともつかない得体の知れない何かが込み上げるようにせりあがってくる。

 「ぁ…ぁあ、だめ、…い、いやだ、何か、い…、───っ!!」

 咄嗟に古泉に口をタオルで塞がれなければ、多分断末魔かなにかと思われておかしくない声が上がっていたと思う。
 びくん、びくん、と身体が大きく痙攣する。目は開けている筈なのに視界が真っ白で網膜は何も映さない。脳裏で火花が散るような気がした。
 これまでにも後ろだけで達したことがないわけではない。
 でも今まで経験したそれとはまるで別物だ。

 「ふうぅ、…、うー…っ、…うぅ…、…」
 「凄い……ホントに出さずにいっちゃいましたね」

 タオルを口元から外しながら感慨深そうに呟く古泉を罵倒する余裕もなく、はあはあと獣みたいな落ち着かない呼吸をしながら視線を落とせば、俺のそれはがちがちに勃ちあがったまま精液を吐き出している様子はなかった。

 「う、…、…な、何、だよ、…これ、っ…」
 「ドライオーガズムというらしいですよ。射精を伴わない絶頂ですね。感覚的には女性のそれと類似しているそうですが…どうなんでしょうね」

 古泉のくだらない講釈もろくに耳に入ってこない。
 それよりも絶頂を迎えたにも関わらずじりじりとした体の奥の埋火が、収まるどころか身体が収縮を繰り返すたびに尚も煽られていくのに狼狽した。

 「嘘…だろ」

 確かに今イった感覚はあったのに、また身体の奥から溢れ出すようにこみあげてくる。まるで絶え間無い漣だ。いや、そんな生易しいもんじゃない。足元から掬い全てを押し流しさらいつくす津波みたいな暴力的な快楽。まさかまたあの感覚に襲われるのか、と思い至ると、途端に恐怖を覚えた。

 「う、い、嫌っ、だ…、こいず、……も…抜いて、」

 頼むから取ってくれ、と震える情けない声で哀願したところで、古泉にしてみれば一片の憐憫すら感じないらしい。にっこりと完璧な微笑を浮かべると、




 「大丈夫、…イけなくなったら抜いて上げますよ」



 俺に死刑宣告を下した。















 結局それから延々と責められて、イってもイっても終わらない快楽に泣いて泣いて哀願し続けた。
 前立腺を直接抉られ続ける拷問に、恥も外聞もなくぐちゃぐちゃになるまで泣きじゃくって、失神しかけたのも一度や二度じゃない。
 射精の伴わない絶頂はずっと熱が膨張していくばかりで際限がなく、俺をひたすらに苛み苦しめた。いったいこの行為のどこに愛があるというのか。分かる奴がいたら是非教えて欲しい。
 結局は半死半生まで追い詰められて、呂律も怪しい舌で、射精したい、させてください、と、平常ならば学校の屋上からダイブしたくなるようなおねだりを強いられ、それで漸く古泉が性器に触れてくれ、中から強く感じる場所を押し上げられつつ前を責められる感覚に爪先から頭頂まで神経がいかれそうな快感に襲われ気絶したその後は覚えていない。

 気がついたら横に古泉がいて嬉しそうに髪を撫でていて、開口一番笑顔で「凄かったですね。またしましょうね」と宣った。


 マジで別れる。之決定。







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エネマはむずかしいです玉★砕
修行して出なおそうとおもいます



update:09/09/28



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