絶対隷従 3





 足を下ろさせないよう腕で固定しながら片手でベルトの金具を外すと、それを見ていた彼が蒼白になって身を固くする。

 「そんなに力を入れていると、痛い思いをするのはあなたですよ」

 「……っ…」

 恐怖からか、彼が息をつめたまま小さく首を横に振った。
 この期に及んでもやめろの一言ももらさないのは、声も出ないほどに怯えているからか、それとも一語たりとも僕に聞かせないことが、一欠けらの彼の矜持だからなのか。
 僕にわかるはずもなかったが、ここで止めてやるほど人が好い訳でもない。
 少しでも強張りがとれるよう太股を撫で、萎縮しきった性器にやさしく指を這わせる。
 彼自身の放ったもので未だ濡れている鈴口を包み込みくちくちと弄ると、ふ、と悩ましげな吐息とともにわずかずつ身体から力が抜けていくのがわかった。
 直接的な快感に、否が応にも徐々に弛緩してゆく肢体とは逆に、ゆるく力をもち勃ち上がるそれに丹念に刺激を送り続ける。筋をたどり少し強く圧迫すると、微かに喉が鳴るとともに身体がびくついた。
 感覚を追うことに意識が向き出した彼に気取られぬよう、ゆっくりと臀部に掌をはわせる。タイミングを計らい、呼吸に合わせて収縮するそこに熱を押し当てた。
 はっとした彼がそれを悟るより先に、ぐ、と強く腰を進める。


 「あ ……!!」


 入り込む瞬間は、さすがに彼もはっきりと声を上げた。
 悲鳴を上げるかと思っていたが、痛みがあるだろうに、口を丸く開いたままそれでもそれ以上声はこぼさない。
 白い歯の奥にちらつく赤い舌が誘っているようだ。キスしたい、と焼け付くような衝動がわいてきたが、今度こそ舌を噛み切られかねないので堪えた。
 ソファの背もたれを掴んだ指に、ぐっと力がこもる。
 革に爪が食い込み軋むような音を立てた。
 ぎちぎちと、侵入した異物を拒むように、彼の内壁が埋め込んだ部分を痛いほどに締め上げてくる。

 「息…止めないで。もう先の方は入ってますから、…力を抜いていただければ
  すぐに済みます」

 わずかに上擦った息にこめてそう囁くと、彼は目を見開いたあと、泣きそうに表情をゆがめた。事実、そのすぐあとを追うように目尻からこめかみへ涙がこぼれ、泣きそうな、という形容は当て嵌まらなくなる。
 苦痛からか、それとも望んだわけでもないのに同じ男に凌辱で以って奪い尽くされる屈辱からか、声をたてずに啜り泣く彼の姿態はいっそう憐憫に満ちていて、その頼りない様子にたまらなく欲情した。

 「うッ…、ぅんん!!!」

 予告もなく強く足を上から押さえつけ残りを突き入れようと揺すると、彼は悲鳴になりそこなった、くぐもった声を上げてのけぞった。
 それに構わずに、ぐ、ぐ、と強引に狭い器官に埋め込んでいく。

 ぴったりと余すところなく根元まで飲み込ませるころには、彼も僕もかなり息を弾ませていた。殊に彼の方は、本来の用途にないところに男を受け入れる苦痛とショックに、呼吸もままならないようだ。


 「……動きますよ」

 「……、…ッ!!!」


 ずる、と埋め込んだものを引き抜き、一気に突く。
 大きく背を反らせた肢体が一気に緊縮する。痛みによる反応だろうが、それが僕に齎すものは溶かし尽くすような快楽だ。彼の中はきつく、柔らかく緩んだかと思えばまた強く締め付けてきて、その温かな内壁の感触に気を抜けばすぐにも出してしまいそうに気持ちがよかった。

 「…っ、は、……ッ、ッ、ァ、…!!」

 強く突き上げるたびにがくがくと揺さぶられながら、彼はといえば苦痛に顔をゆがめてただ必死に呼吸している。黙って、されるがままに揺すられて、悪夢のひとときが一刻も早く去ってくれることを祈っているのだろう。
 性器の裏側あたりを張り出した部分でこすりつけるように動かしてみると、びく、と微かな反応は示すものの、なかなか快楽とは結び付いていないようだった。
 これから教えてあげなくてはならない、そんなことを考えながら奥を突いては引きを繰り返していると、ふとした瞬間、何が引き金になったのか、糸が切れたように彼が肩をしゃくり上げながら、先刻までのように堪えるふうでもなくぼろぼろと涙を零し始めた。


 「ぅ…ッ、う、ぁ…っいや、…もう、嫌です…、
  …いや… …」


 いや、と鳴咽まじりに、切れ切れに訴える彼の瞳はどこかうつろで、およそ正気が薄れて理性でそれを抑えることが出来なくなってきたのだろう。
 汗をかいているのに冷たいままの額を撫でてやる。彼の身体は想像より遥かに具合が良く、いつまでも抱いていたいほどに名残惜しかったが早々に終わらせることにした。
 これ以上嬲るのはあまりに酷だ。

 「…中に、出しますね」

 耳元で囁く。彼は聞こえているのかいないのか判別しがたい表情で泣き続けていたが、構わず奥まで突っ込んだ。


 「ッぅあ……!?」
 

 そのまま一気に彼の体内に逐情する。
 体液を中に注がれる感覚に驚いたのか、彼が目を見開き腰を引こうとした。
 それを無理やり押さえ込んで一滴残らず注ぎ込む。

 「っは……」

 眩暈がする。
 奪って、誰も触れたことのない彼の内側を汚して。そうしたことでまるで、これで彼が全て僕のものになったような錯覚を覚える。

 「……、…っ、…」

 彼は茫然とした様相で息を乱しながら、時折思い出したようにしゃくり上げていた。
 ゆっくりと重なった上体を起こし、半ば立ち上がった状態の彼自身を握りこむと、びくっと細い腰がはねた。

 「や、…やめ、」

 まだ続きをされるのかと、彼が怯えきった表情を隠そうともせずかぶりを振る。

 「あなたがまだでしょう」

 鎖骨のくぼみにくちびるを落としながら、ゆっくりと握りこんだ手を上下させると、力の入っていない両腕がいやがるように肩を押してくる。

 「い、いやです…、嫌、そこ、さ、わらな……、…」

 「このまま一度イくまで抜きませんよ」

 「……、……」

 言葉の内容とは裏腹ににっこりと微笑んでやると、赦されないことを悟ったのか、彼は子供のようにぐずりながらも、僕が施す感覚を追うことに集中し始めた。
 わざと猥雑な音をたてながら擦りあげ、時折悪戯するように中のものを動かしてやる。
 直接性器を刺激すれば上り詰めるのは簡単なようで、彼は苦しそうに眉を寄せながらも、なんとか自らの腹の上に精液を吐き出した。

 「はぁ、…はぁ、……ァ、…」

 よく出来ました、と褒めてやる代わりに、ずるり引き抜き彼の中から出て行くと、彼は一瞬ほっとしたような、何かを喪失したような複雑な表情を浮かべたあと、直ぐにことりと気を失ってしまった。

 理性というペルソナを剥がした彼の素顔が、こんなにも脆く危ういものだとは思わなかった。

 普段の実直で強情な外面は、それを隠す為の虚栄なのだろう。
 そう考えると、誰も知らない彼の秘密を手中にしたような気分になった。
 涙で濡れた頬を撫で、くちびるをたどる。
 彼が完全に正体を無くしていることを確認したあと、僕はそっとその唇に、自らのそれを触れ合わせた。こうして彼に意識がなければキスすらできない、それが今の僕と彼との関係だと自覚しながら。






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次で終わりです(*ノノ)


update:08/3/3



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