鬼畜38.2℃





「風邪でしょうね」


 体温計を見ながら古泉が言った。
 38.2度。立派な発熱状態だ。

 「季節の変わり目ですからね…幸い明日から二連休ですし、ゆっくり休んで下さい」

 休みの日に病気で寝込むことほど損した気分になるものはないなどと考えてしまうのは俺だけではないはずだ。

 金曜の夜。

 家には日曜まで外泊することを届け出済だ。
 そうして古泉の家まで来てるということは、つまりはそういうつもりであったのであって。

 「……わるい」

 溜息しつつ小声で謝ると、古泉がきょとんとした表情をした。
 そしてニコリと微笑する。

 「何も謝ることなんてありませんよ」

 それよりも早く良くなってください、と首許の毛布を直しながら言う。ああくそ、こういうときに変にやさしいところを見せられると駄目だ。


 ここは古泉の部屋で。
 古泉の匂いがするベッドで。
 目の前には古泉が居て。
 正直、それで我慢できるほど老成しているわけでもない。何せ若い身体だ。

 最後にしたのが先週の水曜。
 それまで三日と空けずに抱き合ってる。
 溜まっていないはずがない。


 「…はぁ」


 ため息をついて枕に頬を擦りつける。

 やっと二人きりの週末だってのに。
 たまにそういう気分なときに限ってうまくいかないもんなんだ。

 やたらに沈んでいる俺を見て、古泉が小首を傾げる。
 胡乱気な面持ちでベッドのふちに乗り出すと、俺の顔を覗き込むように顔を近づけてきた。

 「…もしかして、したいんですか?」
 「………そのつもりでなきゃ今日ここにいないだろ」
 「それは……そうですけど」

 なんでそこで苦笑するんだ。

 まるで俺が堪え性のない奴みたいじゃないか。
 なんだか急に恥ずかしくなってきて、俺は慌てて顔を隠すようにうつ伏せた。
 唸るように、ごく小さな声で呟く。


 「…俺がお前としたいと思ってたら悪いかよ」





 後からして思えば、フラグ成立はここだったんだろうな。





 「……そういえば」

 おもむろに古泉が口を開く。

 「…? なんだ?」
 「熱があるときにヤルとかなりイイって話を聞いたことがあるんですが、知ってますか?」
 「………いや」

 …嫌な予感がする。

 「じゃあ、折角ですからこの機会に本当かどうか実践してみるというのはどうでしょう」

 「……ちょっと待て!」

 寝転んだままの俺に古泉の上半身が覆いかぶさり影になる。
 お前まさか、ホントに今からやるつもりか!?

 驚愕の視線を投げかけると、古泉はいつも通りの微笑を浮かべながら「勿論です」と言った。
 ヤバイ、この目は鬼畜モードだ…。

 「珍しくあなたがソノ気なんですから。…ね」
 「っま…待て!古泉!さっきのは言葉のアヤだ!」

 どんなに溜まっていたとしても、病で体力を消耗しているときにやるのは自爆行為以外の何物でもない。
 布団をはいでのしかかってくる古泉に、俺は警官に短銃を突き付けられた犯人のように両手を上げて白旗を上げた。そんなことしたってまったく効果はないが。

 「た…、頼むから、せめてもう少し熱が下がってからにしてくれ」
 「もう遅いですよ。こんな真っ赤な顔で、潤んだ目であんなこと言われて、手を出さずにいられる程僕は耐性強くありません」

 だからって病人に重労働を強いていい理由にはならんぞ!

 力の限り叫びたかったが、残念なことに喉は痛いわちょっと動くだけでも頭がぐらぐらして眩暈がするわで抵抗もままならない。
 あっという間に古泉に下半身から衣服を剥ぎ取られた。

 「う、…ッ」

 寒い、と文句をつける暇もなくスウェットを捲くり上げられ、あらわになった胸にキスされる。乳首を含まれ、舌で転がされるとそれだけで快感を摘み上げてしまう身体が忌ま忌ましい。
 というか、仮にも恋人が発熱で苦しんでいるんだ。
 普通は心配して看病するなりそっと寝かせておくなりするもんだろ。なのになんでお前は病人を裸に剥いてんだ。


 「終わったら看病して差し上げますよ」


 な、殴りたい…。

















 「やッ、いや、だ…って、こいず…」
 「熱いですね」


 そりゃ当たり前だ。熱があるんだから。

 苦しくなったらやめますから、と今更なことを言ってはいるが、絶対口先だけに決まってるんだ。スイッチが入ったら最後、俺が泣こうが喚こうがこいつは止めない。

 「ふっ、ぅ…、ッぅあ」

 大腿をまさぐっていた掌が性器にかかる。
 まだ反応を示していないそれを柔らかく揉みこまれ、鼻から抜けるような喘ぎがもれる。 久しぶりに受ける古泉の愛撫に、気持ちとは裏腹にあっけなく身体は高ぶっていく。
 男なんて悲しいほど単純だ。
 ただでさえ熱いのに、これ以上熱を上げてどうすんだか。

 「風邪の時は汗をかくのが一番ですよ」

 安静にして激しい運動は厳禁という項もあるがな。
 心の中で毒づく。罵ってやりたい気持ちは満載だが、それを外に出すだけの気力も体力もない。

 「あッ、…く」

 いきなり会陰部に冷たい感触が来て、びくっとのけ反った。
 目を開けると、ローションのボトルを傾けながらニッコリと笑いかけてくる古泉と目が合う。まさに悪魔の微笑だ。

 「…んん!、ッ…あ、…や、嫌」

 すぐにぬめった指が入口を割って侵す。
 前立腺を触られたわけでもないのに背筋がぞくぞくして、きゅうと入ってきた異物を締め付けてしまう。熱があると敏感になるって、まさかマジなのか?

 「いつもよりきついですね…」

 そんな感想は要らん。
 俺がろくな抵抗も出来ずぐったりとしているのをいいことに、古泉の指が好き勝手に内壁を犯す。くちくち嫌な音がして、中をしたたかに擦られる。
 俺はその責苦にせいぜい嫌だと声を上げることしかできない。

 ずる、と指が抜き去られた。

 「うぁッ…、…、」

 足を抱え上げられる。
 それから古泉がどうするかなんて、嫌というほど繰り返されてきたことだ。
 だからといって、今あんなもの入れられようものなら、それこそ生命に関わる。

 「う…ッ、…い…やだ、古泉…、」

 入れるのは嫌だ、と力無くかぶりを振ると、古泉が一瞬動きを止めた。
 直ぐにふわりと微笑みが浮かんで、濡れたまぶたにキスされる。

 「本当に可愛い人ですね。…そういうやり方は男を煽るだけだと、あなたは覚えた方がいい」

 心配です、といいながら、容赦なく先端を押し入らせてくる。
 お前は俺の嫌は本気の嫌なんだってことを覚えてくれ!

 「ひ、…やぁッ、あ!…ぁぐ…っ、…!!」

 悲鳴を上げてのけ反る俺を端目に、古泉がぐいぐい奥まで突っ込んでくる。
 熱のせいだろうか、壁を熱いものが擦るたび、ざわざわと神経を逆なでするような激しい刺激が走る。こんなに無理やりにされて、痛くて苦しいはずなのに。
 やばい。気持ちいい…。

 「はッ、はぁ…、っあ…、っ、」
 「凄い、あなたの中…、いつもより熱くて」

 溶けそうです、と吐息で囁かれ、その刺激にまた内壁が収縮したのがわかる。
 慣らすように揺すったあと、古泉らしからぬ性急さで腰がぶつかるほど乱暴に注挿を開始された。

 「や、あ!…っあ、ぅあ、…、ぁ…」

 もはや何も考えられない。
 体内が沸騰しそうなほど熱い。駄目だ。これ以上やったら死ぬ。

 自分が何を口走っているのかも自覚できずに俺は古泉の首にすがりつくと、突き上げられるままに泣き声を上げ、白濁を吐き出すと同時に意識を失った。





















 「…、ぅ…っ」


 ナカの粘液を指で掻き出されている感覚で気がついた。

 どうせならもう少し失神してりゃ良かった。
 散々こすられて敏感になったそこは、例え後始末の為でも触られれば反応してしまうからだ。知ってか知らずか古泉が笑いを零した。畜生。
 指の先まで鉛のように重い。
 無茶な運動をさせられたせいで熱は確実に上がったようだ。
 頭がぐるぐるして平行感覚すら危うくなってきた。

 「……風邪長引いたら…お前のせいだからな」

 すっかり俺のスウェットを元通りにした古泉に、精一杯の罵詈を吐く。
 とりあえず回復したら一発は殴らないと溜飲が下がらん。


 「大丈夫。…週末つきっきりで看病して差し上げますよ」


 鬼畜変態な本性にそぐわない優しい微笑みで、古泉が額にキスを落とした。




















 二連休たっぷりベッドの中で過ごした俺は、月曜の朝には全快していた。


 休みの間、古泉は前言通りずっと俺につきっきりだった。
 もちろんそれだけで済むはずも無くトラウマになりそうな治療が看病の一環に含まれていたが、どんな所業だったかは俺の矜持の為にここでは伏せておこう。
 とにかく体調が思わしくない時には古泉に近寄ってはいけない。
 甚大な代償を払って得た教訓だ。



 一発グーで殴ったくらいで許してやるんだから、ほとほと甘いな。俺も。








入れる直前で嫌がるキョンが書いてて死ぬほど楽しかったです
発熱バンザイ\(^O^)/


update:07/11/9



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