至近放置編





 か細い、啜り泣く声が室内に響いている。

 いくらか耳に慣れた彼の声だ。
 初めて逢ったときのような、少し低めの張りのあるあの声はもう暫く聞いていない。
 それは彼がまともに言葉を発することがめっきり少なくなり、最近では、その口から出る音の殆どが快楽を歌う喘声であったり、苦痛を訴える声であったりするからだ。
 それは、今この状況でも変わらない。
 最初は嫌だとわめき立てていたものが、段々と許して、という懇願に変わり今では、殆ど言葉としての意味を持たない喘ぎだけが鳴咽の間にこぼれるだけになった。

 やれやれ、漸く静かになってきた。

 僕は短くため息をつきながらも、ひたすら膝の上で広げた書類を目読し続けた。サイドボードの上には既に目を通したファイル類が積み重なっている。

 「……、………こい、ずみ…」

 無理やり声を上げすぎたからか、掠れた泣き声が小さく名前を呼ぶ。
 何とかして僕の注意を引こうと苦心しているようだったが、頭から無視をして決して彼の方へ視線を寄越してはやらない。
 僕がここへやって来てからすでに時間はかれこれ一時間近くなろうとしていた。
 微動だにしない僕に、彼は哀れっぽさを増した声で再び、古泉、と呼んだ。
 とうとう堪えられないようすで、それでも僕の機嫌を損ねまいと声を最小限に抑え、しゃくり上げる。手にしていた書類を下ろし顔を上げると、すぐ脇のベッドの上に肢体を横たわらせている彼が目に入った。
 僕が漸く視線を向けたことで、既に涙に濡れていた顔がくしゃりと歪む。

「古泉…!、……、っおねが、…もう、……!!」

 そうとう苦しいのだろう、呼吸を不自然に詰まらせながら身体をよじらせる。
 散々のたうってぐしゃぐしゃに乱したシーツの上で、彼は申し訳程度に腕にシャツを引っ掛けた殆ど全裸の状態で、背中を丸めてふるえていた。
 惜し気もなく晒された白い脚の間からは、毒々しい蛍光色をした細いコードが伸びている。小さく規則的にくぐもって聞こえる機械音の出所だ。
 コードの先は彼の狭い蕾におしこまれていて、楕円形の振動体が彼の内部に存在する悦いところを刺激できるよう位置を調整してある。長いコードがまるで尻尾のようにみえて、彼にとてもよく似合っている。
 ベッドヘッドと彼の首につけられた首輪とを繋ぐ鎖と相俟って、本当にかわいらしいペットかなにかのようだ。彼の今の境遇を思えばあながち、その表現は間違っていないのだが。

 「もう、なんですか?」
 「……っ、ぅ、もう…っ無理、…お願………とめて…」

 まだ後ろを開発してやるようになって間もない。
 いくら快楽を得ることに関しては飲み込みの早い彼とはいえ、玩具をくわえこまされたくらいでは決定的な楔とはなりえないらしい。じりじりと真綿で絞めるような刺激に、彼は切ない鳴き声を上げながら助けを乞うた。完全に勃ち上がりきった性器の先端は濡れそぼって、たらたらとだらしなく蜜をあふれさせている。
 しどけなく桜色に上気した肌が艶っぽい。

 「おや、随分気持ちよくなっていらっしゃるようですが。
  止めても宜しいんですか?」
 「おね、が………、…早く、…と、め……」

 彼が、ひっ、と不規則に息を引き込みながらシーツに顔をこすりつける。
 両腕は粗相をしないよう、念のために背中で縛り上げてあった。
 両手を使えず獣のように突っ伏し、シーツを揉みくちゃにしながらももじもじとねだるように身体を揺する彼は、とてもいやらしくて可愛いらしい。

 「止めるだけでいいんですか?他に、どうしてほしいんです?」
 「…っいき、たい……っ、も、我慢できな……ぁあ…!」

 ようやく希望を叶えてもらえると思ったのか、彼が縋りつくような媚びた目で、必死にいきたい、と訴えてくる。普段、どうしても羞恥心や矜持を捨てきれない彼は、相当責め立てて正気が飛ぶほど追い詰めなければここまで素直にはならない。しかし、一時間もこんな生殺しみたいな状況が続いていては無理もないことなのだろう。


 「いいですよ。あと十五分もすれば持ってきた仕事も終わりますから」


 そうしたらいかせて差し上げます、と、ニッコリと微笑みながら言うと、彼は信じられないという驚愕の表情でこちらを見上げた。ああ、堪らない。

 「いい子に待っていられたら、楽にしてあげますよ」

 そう言い放ったっきり、再び椅子にもたれて書類に視線を落とすと、結局耐え続けなくてはいけないことを悟ったのだろう、名前を呼ぶ声は止み、ややもあってひかえめに啜り泣く声がまた空気を震わせはじめた。








放置プレイもおいしいですが、そばにいて何もしないって言うのもいいです\(^0^)/
というかわたしの射手座萌えはどこへ向かっているんでしょうか



update:08/6/18



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