サジタリウス
「…ぅ、…っ、……く」
事の最中、決まって彼は声をあげない。
どんなにひどく揺さぶりたてたところで、眉をゆがめ、上気させた顔に苦悶の表情を浮かべても、くちびるだけはきつくかみ締めている。
まるでこれが罰であるかのように。
それはそうだ。
何故なら、これは彼が望んだ結果ではないのだから。
僕は、自らの地位と権力を使って、逆らえない立場の彼をこうして組み敷いている。
陋劣な手段だ。
それでも、そうしてでも彼を手に入れたかった。
そうした僕の感情は、彼のあずかり知るところではないが。
「声、出してください」
彼の悦ぶところを狙って突き上げながら、耳もとで囁く。
予想通り声は彼の喉でかみ殺され聞けることはなかったが、声が上がらずとも、顕著に僕を締めつけてくる中の動きで、彼が感じているのがまぎれもない快感であることは手に取るようにわかる。
最初のころと比べると、彼も容易く後ろで快楽を得られるようになってきた。
それこそ初めのうちは男を受け入れさせられる苦痛に耐え、すすり泣くばかりだったが、今となっては前を刺激せずとも射精にいたることすらある。
初めて後ろの感覚だけで達したときの、普段は少々ストイックすぎるきらいのある彼の、驚愕と恥辱に満ちた表情はなかなかに見物だった。
そんなことを思い返しながら、汗の滲むうなじに舌を這わせる。
デスクにうつ伏せに押しつけた身体の下で、彼が届けに来た書類がぐしゃりと音を立てたが、別段気にはならなかった。
「声を出してください。あと30分は誰も来ないよう指示してあります。秘書官もいません。誰にも聞かれる心配はありませんよ。…だから」
だから、何だというのだろう。
彼が声を上げない理由を僕は知っている。
この望まない情交の間で、それが彼の、精一杯の僕に対する抵抗だからだ。
望んでいないと、こうして大人しく人形のように僕に抱かれるのは、僕が上官であるがゆえの義務感からだと。
それがわからないほど馬鹿ではない。
ぐちゅ、と繋がった部分が猥雑な音を立てる。
奥がひくひくと小刻みに動き、彼がそろそろ限界であることを訴えてくる。
「ねえ」
熱っぽい吐息にのせて囁くと、ぴくりと肩が窄まった。
やや間をおいて、荒い呼吸の狭間で彼が、この部屋に入ってきて初めて口を開いた。
「……それは、命令ですか」
呻くように発せられた言葉に、心の奥が呵責する。
それも今更なことだ。
「…そうですよ、作戦参謀殿」
「………、…」
デスクに爪を立てていた彼の手袋をしたままの手が、ぎゅうっと握り締められる。
後ろから廻した手でゆっくりと彼のくちびるをなぞると、諦めたのか固く結ばれていたそれがするりとほどけた。
彼に気づかれないよう息を吐くと、止めていた動きを再開させる。
軍人にしては細すぎる腰を掴み、一気に奥まで突き入れた。
「ん…… ッ!!」
びくんと背筋が反りあがり、彼の喉が鳴る。
衝撃に耐えるようにぶるぶると太股をふるわせながら、ごくりと口内の唾液を嚥下する。
そのまままたゆっくりと腰を引き、また埋め戻す。
その動作を繰り返すうちに、観念したように段々と彼の口から音がこぼれだした。
「…、……、ん、……、ぁ、…あ、あ…っ…、……ア」
乱れた呼吸の間の、ひかえめな、それでも確実に愉悦を滲ませた声。
あ、あ、と小さく震える声に、次第に嗚咽が混じりだす。
それが、権力で以って意も沿わぬ行為に屈服させられ、あまつさえ色子のように扱われる屈辱からなのか、それとも単に目前に横たわる絶頂の気配からなのか、
それは僕のあずかり知るところではない。
なんちゃって射手座。
作戦参謀殿はすごく声を我慢する子だといいと思います
我慢するんだけど結局喘いでしまい正気に返って凹めばいいよ!
そんなストイックな部下を陥落させるのが愉しい幕僚総長…軍設定って…いいな…
update:08/2/14