絶対的プライオリティ 3
「はい、少し遅くなりますので……いえ、そういう訳では。
…ええ、それではお願いします」
古泉の電話している声をぼんやりと聞きながら、俺はうつむいて粘液で汚れた下半身をぬぐっていた。
ぬるついた内股を、古泉が渡してくれたハンカチで拭き取る。
いくら頭に血が上っていたとはいえ、ポケットティッシュのひとつも用意してこないなんて我ながらほとほと間抜けすぎる。
ぱたん、と携帯を畳む音がして、つられるように顔を上げた。
「……すまん、遅刻させて」
約束の十五分はとっくにオーバーしている。
身体の内側にこびりつくように蟠っていたフラストレーションが抜けて、多少頭が冷静になってくると、途端罪悪感に襲われた。
馬鹿じゃないのか、俺は。
衝動にまかせてこんなことして。
俺がこうして呼び止めたりしなけりゃ、古泉がバイトに遅刻することもなかっただろうに。
うなだれて顔をふせると、ふわりと古泉の掌が髪にふれた。
「どうして、謝られるんです」
まるで癇癪持ちの子供に言い含めるように、優しい抑揚の囁きが降ってくる。
古泉はいつでも優しい。面倒をかけられたんだから、少しくらい怒ればいいのに。
むしろ怒ってくれたほうがまだ気が楽になるかもしれない。
「俺のこと、軽蔑したろ」
何等答えになっていない返答をすると、古泉がふ、と息だけで笑った。
「何故、そのように思われるんですか?」
「…だって、………やらしい奴だって思っただろ」
たった三日の禁欲生活が堪えられないなんて。こらえ性がないにも程がある。
俺自身、自分がこんなに情動的になれる人間だなんて思ってもいなかった。
古泉と身体を繋ぐまでは、そっち方面のことには割りかし淡白な方だと思ってたし、溜まれば自分で適当に処理して、それで足らないと感じたこともなかったから。
それなのに、体温を分け合うことを覚えた途端これだ。
そんなの、俺は根がいやらしい、端ない人間だってことだ。
淫乱だと言われたって仕方がない。
「僕は、嬉しかったですよ」
古泉の台詞に、俺は弾かれるように顔を上げた。
いつもの胡散臭い笑顔じゃない、ややはにかむような微笑を浮かべた古泉が、俺の頬に掌で触れる。
「貴方が、こんなふうに強く僕を求めてくださったことが。もしもあなたに無理をさせていたとしたらどうしようと、少なからず不安に思っていたものですから」
「む…無理なんて、…!」
寧ろ、してほしいんだ。
毎日したって足りない。キスして、触れて触れられて、ずっと古泉を感じていたい。
受け入れる痛みも、中に深く埋め込まれるときの苦しいくらいの圧迫感も、それが筆舌に尽くしがたい悦びに変わる瞬間も、それを与えてくれるのが古泉だからほしいんだ。セックスは手段のひとつに過ぎない。
何だか堪らなくなって、首許のシャツを掴み、しな垂れかかるようにして抱きつくと、温かい腕が背中に廻される。ああ、恥ずかしいな俺。こんな甘ったれた仕草が許されるのは可愛い女の子だけだって言うのに。
「明日は金曜ですから、…勿論、僕の部屋に来ていただけますよね」
吐息をふくめて低く囁かれ、ぞくりと快感が背筋を這いのぼる。
ただでさえ腰にくる声をしてる癖に余計なことするなよ。
またしたくなったらどうしてくれるんだ。
真っ赤になっているであろう耳を唇で食まれる。
古泉が笑っているのが、見えなくてもわかった。
「こんなものじゃ全然足らないのは、お互い様ですから。…週末はずっと、ベッドから離しませんのでそのつもりで」
そして週末。
有言実行のその男は、本当に俺が泣いて許しを乞うまで片時も離さなかった。
何回やったか数えられないなんて、我ながら閉口するね。
ベッドの中で、機関からの連絡を着信拒否にして「僕の最優先事項はあなたですから」と微笑む古泉に恥ずかしいような、むず痒いような気分になって、俺は布団に埋まり顔を隠した。
嬉しいさ、勿論。
end
淫乱というか、ただ甘いだけの話になってしまいました/(^O^)\なにこれゲロ甘い!
ちょっと淫乱の勉強して出直してきます
λ...
リクくださった方、ありがとうございました!
update:08/3/10