「僕のことが好きなら、何をされたって耐えられますよね?」
週末、初めて呼ばれた古泉の部屋で、古泉は俺に向かってそう言うと、
いつものようにやさしく笑った。
冷血
促されるままに寝室に入りベッドのふちに腰掛けると、すぐに古泉のくちびるが
重なってきた。
キスは初めてじゃない。
先週の放課後、俺の方から古泉に気持ちを伝えた時、古泉は返事の代わりに優しくキスをしてくれた。
あの時は、心臓が止まったんじゃないかと思うくらい驚いた。
そして今も、痛いくらい鼓動している胸を押し殺してまぶたを閉じ、古泉にされるがままでいる。すると不意に、
「…、…ッ、う…?」
くちびるを割られ、ぬめったものが捩込まれた。
それが古泉の舌だと認識するより早く、歯列を割り上顎をなぞられる。
「ふッ…、…ゥ、んん…っ」
他人に口内を舐められる味わったことのない感覚に、快感より先に怯えがきて身体を竦めていると、古泉がわずかにくちびるを離した。
「舌、出して下さい」
「え…?」
舌ですよ、と言いながら、古泉が指で強引に俺の口をひらかせてくる。
有無を言わせない古泉の口調に、俺は言いようのない不安を覚えつつ言われるがままにわずかに舌をさし出すと、薄く笑った古泉がそれに吸いついてきた。
「…ふぅうッ、…ッ…ん!」
甘噛みしつつ強く吸われ、痺れるような刺激が脳髄に伝わる。
陶酔からか酸欠からかわからない眩暈に堪えながら、俺は必死に古泉に合わせようとすがりついた。
「はァ…、ぁ…、…」
ちゅ、と音を立てて古泉が離れる。
熱くなった顔を隠すように俯くと、それを許さないかのように古泉の両手が頬を包んだ。
再びくちびるを重ねられ、そのまま後ろに押し倒される。
「ふ…、んぅ、……、ぁ…」
覆いかぶさった古泉が、頬に、首筋に、鎖骨に、順番に口づけていく。
シャツを裾からたくし上げられ、忍び込んだ古泉の冷たい掌が、脇腹を這い上るようにまさぐった。
「っあ!」
ふいに指先で胸の突起を圧しつぶされ、声がもれた。
普段意識したことなどない其処を、古泉の指が強弱をつけて執拗に弄ってくる。
「んッ、…く…、」
「尖ってきましたね」
嬉しそうに言われ、顔が熱くなった。
むずむずとした感覚ははっきりとした快感ではないが、それでも古泉に刺激されて反応している事実が、何かとても恥ずかしいことのように感じた。
「気持ちいいんですか?」
「ッ…、わ、わから、な…」
唐突に、立ち上がった部分にぎゅっと爪を立てられる。
「いッ、痛…っ!」
突然の痛みにびくっと背中をのけ反らせると、爪を立てられた方とは反対側に、ぬるりと舌を這わされる。
「ぅあッ、…あ、こいずみ…ッ、いた…」
ぐりぐりと指と舌で刺激され、痛い、やめてとかぶりを振ると、
「…痛い?じゃあどうしてココが反応してきてるんです?」
笑い混じりに膝で股間を押し上げられる。
古泉に指摘された通り、そこは既に立ち上がり始めていた。
「もしかして、痛い方が感じるんですか?」
「…ッ!や、ち、違…」
かっと頬が熱くなる。
どう違うんです?と言いながら、古泉がさらに膝に力をこめて圧迫してくる。
本能的に恐怖を感じて古泉を見ると、いつもと変わらない表情で、微かに喉を鳴らして笑った。
その含み笑いに嘲笑にも似た響きが含まれているのを感じ取ると、途端にいいようのない羞恥に襲われる。
違う。
こんなのは違う。
「い…、いやだ、古泉…っ!」
せきをきったように古泉の胸を押し返そうと腕を突っぱねると、すぐに両手を搦め捕られシーツに固定された。
「嫌?…誘ってきたのはあなたの方じゃないですか」
「…ッや、やっぱりダメだ、こんなの…ッ」
こんなのは望んでない。
沸き上がりそうになる涙を堪えながら言うと、古泉がくす、と低く笑った。
「僕のことが好きだと言った、あなたのあの言葉は、嘘だったんですか?」
「……ッ、ちが…、そうじゃなくて…」
古泉のことが好きだ。
でも、こんなやり方は嫌だ。
なんだか乱暴で、威圧的で、いつもの古泉じゃないみたいな――――
困惑する俺の視線の先で、くちびるをゆがめた古泉がネクタイを解いた。
「僕のことが好きなんでしょう?…なら、何だって耐えてみせて下さいよ」
update:07/11/13