「ひっ…、ぃ……、…」
震えが止まらない。
気持ち悪い。
頭の中がじわじわと朦朧としてきて思考を奪われていく。
それに比例するように身体の中が、とりわけ古泉にいじくられた部分が爛れるような熱を帯びてきて、ごまかしきれないほどに強まってくるその未知の感覚に、比例するように湧いてくる恐ろしさを紛らわせようと唯一自由になる首を振った。
「効いてきたみたいですね」
突如起こり始めた身体の異変に目を見開くしかない俺とは逆に、古泉はこの上なく愉しげな微笑をうかべ、優しく頬を撫でてくる。
何をしたんだ。
「何って、気持ち良くなるお薬を塗らせて頂いたんですよ。…ココにね」
「ひッあ!ぁ…、あ」
囁かれながらさっきまで指を入れられていたところを擽るようになぞられる。
たったそれだけの刺激で、肢体が電流を流されたみたいに跳ね上がった。
「く…すり、って、何…で」
「言ったでしょう?『あなたのここを女の子みたいに感じるようにしてあげます』って。さすがに慣れないうちは素面で後ろの刺激だけでイくのは無理でしょうから、まずはこちらでの快感を覚えていただいて、それからゆっくり調教してあげますよ」
まるで部室でゲームのさなか蘊蓄を話している時と変わらない表情で古泉が紡ぐ台詞を、俺は段々と霞がかってくる頭で茫然と聞いた。
古泉の言っていることはいくらも理解できなかったが、ただ、おそろしいことをされようとしていることだけは直感的に悟った。かちかちと歯の根が合わないほど震えているのは、薬の効果なのか恐怖からなのか、
それすらも最早解らない。
冷血 3
「や、ぁああ、ッ、ああぁ…、…!!!」
また一本指を捩込まれ、俺は背筋を反らせて泣き叫んだ。
それでもさっきと違うのは、それが苦痛からではなくただ歓喜からだということだ。
責めを再開されていくばくも経たないうちに、あれほどに苛まれていたはずの痛みをまったく感じなくなっていた。古泉の指がぬるぬるとそこを出入りするたび、ただ脳髄を熔かすような激しい快楽が走って、俺は恥も外聞もなく猥らがましい声を上げてその行為をねだった。
「ふぁッ、あぁあ…っこいずみっ、こ、いず…」
「ふふ、涎まで垂らして…そんなにイイ、ですか?」
「あ…イイっ、いい、から…もっと、もっと、して…!!」
抽挿を止められると、すぐに物足りなくなって勝手に腰がよじれる。
中を擦ってほしい。
古泉の指で届く限り奥まで掻き混ぜてほしい。
恐怖と苦痛しか感じなかったその行為を自分から渇望するなんて、俺はどこか壊れてしまったに違いない。一片残った理性的な部分でそう思うと、涙が出そうに悲しくなった。それでも、矜持もなにもなく古泉にすがらずにはいられない。
懇願するように自ら秘部をさらすように脚を持ち上げると、涙で滲んだ視界の端で古泉が満足げに微笑んでいるのが見えた。
深く犯されたかと思うと、入り口の粘膜を浅く抜き出した指で拡げられる。
「ふぁッ、っんんん…!!!」
「指だけで足りるんですか」
「え……」
「もっと奥まで、掻き回してほしいんじゃないんですか」
そうだ。
もっと奥までこんなふうに弄ってもらえたらどんなに気持ちいいだろう。
堕落を誘う悪魔の囁きのような古泉の声に、俺はただ何度も頷いて肯定した。
「じゃあ、今…あなたのココに僕の指が何本入っているか当ててみて下さい。ちゃんと答えられたら、もっと気持ち良くして差し上げます」
「ぁ…、え…?」
数秒かかって台詞の意味をなんとか咀嚼したものの、どうしたらいいのか分からず視線をさ迷わせていると、「触って確認してもいいですよ」と右手右足を拘束していたネクタイが解かれる。
「………」
自由になった手首を掴まれ、古泉の掌に誘導されるようにして下腹部まで手を伸ばす。
恐る恐るそこを玩んでいる古泉の手を伝うようにして指を這わせると、
「……ッ!!」
古泉の指を貪欲に飲み込んでいるそこは歪に口を大きくひらいていて。
その不自然さに急に羞恥と背徳心が湧いてきて、ぼろぼろと勝手に涙があふれてくる。
「何本、入ってますか?」
「っひ、…っく、…ッ…、う………」
「答えてください」
命令の意図を含んだ声で言われながら指をぐっと押し込まれ、堪らず俺は喉をさらして喘いだ。
「指は何本、入ってますか?」
「ぅあッ、…っさ、ん、三本…!!」
鳴咽しながらなんとかそう吐き出すと、古泉はうれしそうに「よくできました」と俺の目尻に舌を這わせながら、ずるりと指を抜き出した。
「ぁ、………」
「ご褒美に、何も考えられなくなるくらい気持ち良くしてあげますよ」
虚ろな目で、のしかかってくる古泉を見つめる。
ぐっと両足を抱え上げられたかと思うと、古泉は俺の視線を確認しながら、見せつけるかのようにゆっくりとした動作で恐ろしいほどに滾りきったものを押しあててきた。
知らないはずの行為に悦んでいるかのように、入り口がひくひくと蠢く。
「力を抜いていてください」と囁かれたものの、最早ろくに命令を聞かない手足はぐったりと脱力していて力を入れるほうが難しい。そんなことを思っていると、ぐっと其処を圧し開くように力が加えられる。
「ひぃ…っぁああーーーー!!!」
狭いそこをわり開き張り出した先端がもぐりこんだかと思うと、一気に指では届かないような奥まで質量をもった熱の塊に貫かれ、俺は悲鳴を上げて肢体を弓なりに反らせた。
「っかは、……あ…、あ…、……」
呼吸すらできないほど、爪先から頭頂まで感じたこともないような悦楽が走って身体をびくびくと震わせていると、古泉の手が今まで一度もふれていなかった俺の性器を、悪戯するような手つきで撫で上げた。
はじめて与えられる直接性感にむすびつく刺激に、びくっと腰がはねる。
「んあ…ッ!!」
「ふふ、…入れただけでイっちゃいましたね」
「え……」
のろのろと目を開け下に視線を向けると、べったりと白濁色の粘液に塗れた腹部と、濡れそぼりたらたらと残滓を垂らしながら、尚も硬度を保ったままの自身が目に入る。
「……!!、…ふ…、ぇ…、嘘…っ」
「まさか初めてでホントに前の刺激なしで達って頂けるとは思いませんでしたよ」
とんだ淫乱ですね、と嘲笑うように揶揄され、羞恥とショックでまた大粒の涙が湧き出てくる。
「泣くのはまだ早いですよ。…善がって頂くのはこれからですから」
脚を抱え直され、ゆるく腰を引かれたあと、再び一気に突き戻される。
「やッ、やぁああ…!!!、…ひぃ…っ」
目の前が明滅する。
二度、三度と立て続けに突き立てられ、許容を越えた苦痛に近い快楽に頭が真っ白に染まる。思考もすでにまともに立ち行かず、古泉によって与えられる愉悦に取り縋るように、意識が完全に事切れるまでの長くない間、俺は壊れたスピーカーのように、何度も古泉の名前を呼び続けた。
「……う、……」
少し温い水が口の中に入ってきて、泥の中から這い出るように意識が浮上した。
少量でも水を与えられたことではじめて自分がどんなに渇いていたか実感して、その注ぎ込まれた液体を俺は迷わず嚥下する。
ゆっくりと目を開くと、見知らぬ天井を背景に古泉が微笑を浮かべて俺を見ていた。
「こいず、み」
ひどく掠れた声が、渇いた唇からこぼれた。
意識がはっきりしてきた途端、重力に逆らえないほど鉛と化した身体と、事切れるまでに古泉にされた行為を自覚する。記憶が断片的でところどころ曖昧なのは、時折意識を飛ばしていたからだろう。
同時に、いやというほど味わわされた恐怖や苦痛も蘇ってくる。
「そんなに怯えなくても、今日はもう何もしませんよ」
考えていたことが顔に出ていたのか、古泉が吹き出すように笑いながら手にしていた500mlのペットボトルを手渡した。
「喉、渇いているでしょう?…あんなにたくさん出したんですから」
「………ッ!!」
含みをもたせた言葉に、かっと頬に血が上る。
あのあと、幾度も失神しては無理やり引き戻され、散々に後ろを責め立てられた。
「前の刺激でいくことは許しません」と宣言したとおり、古泉は性器には一度戯れにふれたきり二度と触ってはくれず、手ひどい仕打ちに子供のように泣きじゃくりながらそれでも何度も射精にいたった。
でもそれは、妙な薬の力だ。
俺自身のせいじゃない。
そう頭ではわかっていても、こんないやらしいことをされて、初めてなのに善がって泣いて悦んだ。そのことが堪らなくショックだった。
ゆっくりと身体を起こすと、あられもないところがずきりと痛む。
古泉をずっと受け入れていたそこは、未だに中に異物が入っているかのような感覚がして、泣きたくなるのを唇を噛んでこらえる。
古泉のことが好きだ。
それでも、こんな形でこんな関係にいたるなんて。
そんなのは望んでなかった。
ふいに伸びてきた古泉の指が、かみ締めたくちびるを解くようになでてくる。
優しいその指使いにすらびくつく俺を見て、また古泉が笑う。
「もう八時を過ぎたところですから…今日は、泊まって行かれるでしょう?幸い明日は土曜ですし。お家には連絡しておきますね」
その言葉に、力なく首を横に振る。
「いい…、…俺、帰る、から」
これ以上古泉の部屋に、古泉のそばに居たくなかった。
ひどく痛む身体に鞭打ってベッドから這い出ようとすると、
「駄目ですよ。今日は泊まっていって下さい」
やんわりと差し止められ、ベッドに戻される。
戸惑いを覚え古泉を見上げると、いつも通りの微笑みで「せっかく二連休、一緒にいられるんですから」と囁かれた言葉に含みを感じ取り、俺は目を見開いた。
「い、やだ…、帰る、も…もう、しない…!!!」
厭々をするように首を振り身を捩じらせる。なんとかベッドから出ようとすると、古泉の手が乱暴に肩を掴みそのまま力任せにベッドに引き倒された。
表情は笑んだまま痛いほどに押し付ける手に力を込められ、再び湧いてくる恐怖に俺は抵抗を忘れて身を竦ませた。
「言ったでしょう。ゆっくり調教してあげますって。…とりあえず、二連休が明ける頃には今のようにしたくない、なんて聞き分けのない台詞は吐けないようにしてあげましょうね」
ぞっとするような、底冷えする双眸から目をそらすことさえできなくて、俺はただ怯えて身体を強張らせたまま古泉を見上げていた。
「とはいえ、僕は別にあなたを監禁したりはしませんから、安心してください。あなたを閉じ込めたりしませんし、鍵もいつでも開けておきます。逃げたかったら逃げてもいいですよ。…ただし」
逃げられるものなら、ですけどね。
古泉がゆっくりと俺の上から身を引く。
それと同時に、あふれた涙が目じりからこめかみを伝った。
食事にしましょうか、と殊更に明るく告げる古泉の声をどこか遠くで聞きながら、これからいずれ再び始まるであろう苦痛の時間と、また酷い目に遭わされるとわかっていながら逃れられないであろう自分自身に絶望する。
それでも、俺は古泉を好きだから。
きっと逃げられない。
end
キョンくん・地獄の三日間短期集中調教、みたいな…(みたいな、じゃねええ)
あの手この手で責められて完全に古泉専用の従順なドMになってしまえばいいと心からそう思っちゃいます/(^o^)\
update:08/1/9