Dance with a vampire
「ひ、…」
きつく噛み締めた歯列の隙間から引き攣った声が漏れる。
口をほどけばあられもない、という表現がぴったりくるような情けない声が出るのが嫌だ。そうして俺が必死に唇を閉じようとするのが古泉にしてみればおもしろくないようで、そういう頑なな態度を取ると大抵、それまでより責めを手酷くされる。
そして今回も案の定、ぐち、と弱い部分を押し込むように強く突き立てられ、苦痛混じりの快感が腰骨のあたりからから脊髄を通過し、思考するスペースを熔かしていく。
「う、……んん…!!」
「強情ですね」
それでも何とか声を堪えていると、舌打ちと共にシーツに這いつくばっていた上体を、ぐい、と持ち上げられ、膝の上に乗せられる。
既に力を入れることもままならない肢体は古泉の思惑通りに操られ、背中を古泉の胸に預け座り込むかたちになる。自然、重力に従って古泉を飲み込む結果になり、深すぎる結合にまたぶわりと涙が浮いた。
「あ、…」
身体をよじる間もなく、項に古泉のくちびるが触れる。首筋へと連なる柔い部分を消毒するようにべろり、とひと舐めされ、駄目だと声になるかならないか、ほぼ同一のタイミングでぷつん、と皮膚が破られる感触と鋭い痛みが走った。
「やっ、…あ!」
じゅる、と強く吸われる。
痙攣するみたいに大きく震えると、く、と可笑しそうに古泉が喉で笑った。
そのままさらに牙を深く食い込まされる。そうされても痛みは一瞬で、すぐに痺れるような愉悦に取って代わる。溢れ出る血液が肌を舐めるように一筋、鎖骨から胸へと垂れ落ちるむず痒い感覚さえ、感じた。
「声…聞かせてくださいよ」
尚もくちびるを噛み締めたままでいると、焦れたように古泉が催促してくる。
それに首を頑として横に振る。
喘ぎじみた変な声は極力上げたくない。男の矜持にかけて。
「強情」
「ん、…っ」
噛み締めた唇をこじ開けるように、古泉の指が捩込まれる。
なんてことしやがる。噛むぞ。と胸のうちで思っても実行できるだけの勇気はあるはずもなく、結局は歯列をむりやりに割られ、それが、ぬるりと咥内へと這入り込んだ。
「ふ…、…」
舌や上顎を撫でられると弱くて吐息混じりに小さく、鼻から抜けるような声が漏れる。
そうして一瞬出来た隙をついて、ぐん、と大きく揺すられ奥を突き上げられる。
と、同時にうなじの傷口を舌でこじられきつく吸い上げられた。
「う、あ、ぁああ…っ、…!!」
とうとうこらえきれずに悲鳴の混じった嬌声を上げる。
甘ったれた、感じてますと言わんばかりの声に、このまま舌を噛んで死ねそうなほどの羞恥に襲われる。
「……っ、…」
つう、と唾液に濡れたくちびるを撫でられる。
鎖骨に溜まった血を掬いとった指をまた口へと捩込まれ、錆っぽい味が咥内に広がる。 何が愉しいのかくすくすと笑いながら、古泉が「美味しいでしょう」と囁いた。
自分の血なんぞ何がうまいものか。
「僕には何よりのご馳走ですよ。…だから、ね」
もっと下さい、いいでしょう、と、甘い甘い声で囁かれて、陥落しない人間はきっといないのだと自分に言い聞かせて、
どこまでも堕ちていくままに蠱惑的な紅い目をした吸血鬼に全てを明け渡した。
絵チャで書いた吸血鬼古泉をお送りしました
update:09/10/19