ATTENTION! このハナシは宅配業者松田×竜崎先生という、トンでもパラレルな内容となっております。 強●です。その上松田が「え…松田!?コレ!?」てくらい黒いです。 「竜崎先生の相手は月以外ありえない」 「黒い松田なんて松田じゃない」 「●姦なんてひどすぎる」 と仰っしゃるお方はお読みにならない方がヨロシイかもしれません…。 「鬼畜さいこう」 「黒松L万歳」 「おまえのエロなどたかがしれている」 と仰っしゃる豪気なおじょうさんは、準備完了の方から下ドウゾ! 榛葉 インターフォンを押し、中にいる誰とも知らぬ他人宛ての荷物を渡す。 温度の感じられないそのやりとりも、僕にとってはなんの感慨もなかったし、それ以上のなにかを望むこともなかった。 ただ、彼を除いては。 この気持ちが恋とか愛とかなどとと云うのなら、一番に笑うのは僕自身だろう。 だから、 いまの僕はどうかしているとしか、思えない。 インターフォン 何処も同じに見える似たような造りのマンションの長い廊下。 それでも突き当り、一番端から二番目、なんどかこうして訪れたことのある502のプレートの掛かった部屋だけは、少なからず僕にとって特別な意味を持っていた。 いや、部屋自体というよりは、その中に在るはずの人物に。 何千回と繰り返してきた手順のひとつとして、僕は備え付けのインターフォンを押し、いつも通り次に云うべき台詞と必要な事項を頭の中に用意して、中からの返答を待つ。 いつもなら、まずほどなく受話器越しに相手が出るのだが、今日は違った。 部屋の中からなにか慌てているような物音が聞こえたかと思うと、玄関先に走り寄ってきた誰かがガチャガチャと忙しなくチェーンを外し、サムターン式の鍵を開けた。 「やがみくん…!?」 ばたん、と乱暴にドアが開いたかと思うと、中から黒髪の青年が飛び出してきた。 その勢いに驚き、圧されるように僅かに身体を後ろに退く。彼は僕の顔を見上げると、大きな黒い瞳を見開いて、なんどかその瞼を瞬かせた。 「あ……。……す、みません」 人違いをしたらしい彼は、目に見えて落胆したような色をその顔に浮かべると、ばつが悪そうにすこしうつむいた。 「あ、あの……お荷物、お届けに上がったんですが…」 なんだか言い出しにくい雰囲気が漂う中、僕は手にしている小包を示してなんとかそう切り出す。彼はそれを見るなり、ああ、とつまらなそうに声を上げた。 「いつかの宅配屋さんですね。その節は失礼しました。どうぞ」 「はあ」 裸足のまま廊下に出てきていた彼が、ドアを開け促すままに、タイル敷きの靴脱ぎ場に足を踏み入れる。彼が「印鑑を持って来ますから」と抑揚の少ない声で云いながら部屋の奥へ踵をかえすのと同時に、僕の背後でぱたん、と控えめな音をたててドアが閉まった。 これまでに、この部屋へ荷物を届けに来たことは数度あったが、こうして玄関とは云え中へ入ったのはこれが初めてだった。 物の無い玄関、長くない廊下の奥に見えるリビングも見るに色が少なく整然としていて、其処に生活している彼自身の纏う、どこかストイックな雰囲気を如実に反映している。 住所と名前と電話番号。 配達する荷物の伝票に記載されている個人情報以外、なにも知らない他人であるはずの彼の、なにかしらプライベートな部分に触れたような気になって、僕はしずかに密やかな胸の高揚を覚えながら彼を待っていた。 ほどなくして、彼は印鑑を手に戻ってきた。 「ここに、お願いします」と所定欄を指差しながら、ふと、距離が近くなった彼の貌に目をやる。 白い肌。薄い桜色のくちびる。すべらかな頬のライン。 きれいだという感想がぴったりくるような精緻な構造の容貌でありながら、こうして意識してみなければなかなか其れがうつくしいということに気がつかないのは、彼から発せられる近寄りがたい空気や、外部からの干渉を防衛するように向けられる無表情がそうさせている所為だろうか。 痩せた頼りない身体を、今日は薄手のセーターとジーンズで覆っている。 彼のサイズではないのか、だぶついたアイボリーカラーのセーターは大きく首周りが開いていて、細やかに伸びた鎖骨が艶めかしくも露わだった。 不意にその下の、以前訪れた時その身に纏っていた白衣から覗いた肌が思い出される。 同じ男でありながら、えもいわれぬ馨しい色気をもった謎多き他人である青年を、僕はいつしか、たまに配達で訪れる家の受取人以上の特別な感情で持って感知している自身に気がついていた。 すくなくとも、彼宛ての荷物がやってくるのを心待ちにするほどには。 伝票を受け取った繊細な指はほそく、長い。 長い黒髪の隙間に隠されているように覗いている黒い双眸の、伏せられた睫毛の長さにどきりとする。気のせいか、瞼や目尻が、わずかに赤く腫れているようにみえた。 もしかして、泣いていたんだろうか? そうぼんやりと推測が及ぶと同時に、殆ど無意識に言葉を紡いでいた。 「誰か、待ってるんですか?」 「え?」 印鑑を押そうとしていた彼が手を止め、はたと僕を見上げた。 彼の訝しげな表情にようやく、僕は自分がなにを口走ったのかを理解すると、半ば慌てて語意を後繕うように言葉を次いだ。 「いや、どなたかとお間違えのようだったから…」 「………ああ、…いえ、別に。……いいんです。来ないでしょうから……多分」 やはり誰かを待っていたのか、彼はさもつまらないことを話すかのように視線を下げ、低まった声で吐きすてるように云った。 つまらなそう、無表情、ともとれるその温かみのない表情は、裏をかえせば来ないだろうという待ち人に対する落胆と失傷のあらわれのようにもとれる。そう考えれば、彼の感情の読み取りにくい深い瞳も、何処かなんらかの哀しみを帯びているようにもみえた。 「大事な人、なんですか?」 「……………」 彼はなにも答えず、顔を俯かせくちびるを吸いこむようにして軽く噛んだ。 そのどこか幼稚さをふくんだ仕草に、揺らいだ彼の心が一瞬透けてみえたような気がして、またどきりと胸が鳴った。 「喧嘩でもしたとか?」 透けた部分がもっと奥まったところまで見えやしないかと欲が出て、しつこく食い下がり訊きたがるように問いかけると、うつむいた彼を軽く覗きこんで首を傾がせていた僕の顔めがけて、鋭い眦が向けられる。 「……関係ないでしょう。あなたには」 心情を消した冷たい目で上目遣いに睨まれ、ぴしゃりと言い放たれる。 温度のない他人だった彼が、プライベートな部分に触れるほどに体温をもっていくような気がして、もっと深まった彼の事情を知りたいと感じていた僕は、つれない彼の態度に、彼に対する興味に水を差されたような単純な失望をおぼえ、白けた視線を投げた。 「それはまあ」 ──つまらない。 「そうなんですけどね」 頑ななまでに必要以上にその心を悟らせようとしない彼の表層は、それが元からの性質から来るものなのか、それとも違った自身の本質を隠すための虚栄なのか、それすらも赤の他人に近い僕には推し量ることすら出来ない。 当然のことだ。 彼にとって、僕はただの誰かから届く荷物を運ぶだけのために存在する人間であって、親交をはかるとか、理解しようとするとか、そういう対象ではまずありえないし、まして僕にも体温があるとか、彼に少なからず好意を抱いているなどどいうことは更に彼には想像だってしない不必要な事象だ。 僕が黙りきったのを確認するかのように彼は一瞥をくれたあと、無言で伝票の云われた場所に押印した。 真赤な朱肉で色づいた『竜崎』の文字。 その鮮やかな朱色に、いつだったか、彼の代わりにこれを押した人物が連想され脳裏によぎる。 茶髪の、二十になるかならぬかの年頃の、端整な美貌のしなやかな青年。 そしてドアが閉まる一寸前、その青年に対して一瞬だけ見せた、彼の棘のない柔らかな表情。 あれはあなたの本質ですか? 彼にはいつも、あんな表情をしてみせているんですか? 「ごくろうさまでした」 僕の不躾な態度が機嫌を損ねたのか、伝票を差し出す彼は常よりも無感情にみえる。 その表情とあまりにも記憶された一瞬の暖かな表情とがかけ離れていて、僕は訳もなく、焦燥と羨望の入り混じった、どろどろとした感情が胸を満たすのを感じていた。 同時に沸き起こったのは単純な、好奇心。 知りたい。彼を。 理由の分からない、喘息の発作のように唐突に首を擡げた強い衝動を、僕はどこか他人ごとのように眺めているようだった。信じられないという思いもした。 それでも不思議と、思い当たるこれから自身が取ろうとしている行動を、止めようという気は起こらない。 そうさせるだけのなにかが、この部屋と彼にはあった。 「……?まだ、なにか?」 荷物を受け渡すための全ての通過儀礼が終わったにも拘らず、玄関先に立ちすくんだまま動かない僕に焦れたのか、彼は荷物を抱えたまま小首を傾げ、苛立つように不審がった声で問いかけてきた。 その可愛い顔に微笑をひとつかえすと、僕は後ろ手にドアのサムターンに指をかけた。 ゆっくり廻すとカチリと高い金属音が鳴り、鍵が嵌る。 どうかしている。 「え……」 彼が驚いた表情を浮かべて僕を見上げるより早く、僕の腕は彼の身体を抱き寄せていた。 弾みで彼の手から滑り落ちた小包がタイル敷きの床に当たり、鈍い音を立てる。 体温を感じない他人であるはずの彼の身体は抱きしめればことの他温かく、その腕に確かな感触をかんじた瞬間、意識の中でなにかがブラックアウトした。 そう、 どうかしているんだ。僕は。 → |