5000キリ番リク
パラレル・エロ注意。

L→高校の保健医
月→生徒







保健室編






 白い擦りガラスの扉を音を立てて開くと、いつものように奥のデスクに向かって座っていた人物が顔をあげた。
 「夜神くん」
 扉付近に立つ僕を視認すると驚いたかのようにその目が見開かれ、ボールペンを操っていた手を止めて椅子から立ち上がる。
 手先で軽く払われてひるがえる白い白衣の裾からその人物の顔まで視線をすべらせると、僕は軽く笑みを浮かべて右手をだらりと目の高さまで上げた。
 「手当て、してもらえる?竜崎先生」


 日が西へと傾きはじめた水曜の昼下がり。
 放課まで一時間を切った六限目のこの時間、保健室には先生のほかには誰もいない。
 室内はしんと静まりかえっていて、校庭から聞こえてくる体育の授業中の生徒のまばらな声が時折、やけに大きく響いた。
「ハイ、お願いします」
 椅子に腰掛け先生と向かい合った状態で、右手を掌を上にして先生に突き出す。
 人差し指の腹には一センチほどの浅い切傷が出来ていて、先ほどついたばかりのそれはまだ血が固まらず、滲み出した鮮血が珠のように傷の上に浮いていた。
 「夜神くんが怪我なんて、珍しいですね」
 先生は長く細い器用そうな指先で僕の手を固定すると、ピンセットで摘まんだ小さく千切った脱脂綿で、その血液をそっと押さえるようにして吸いとった。
 「カッターでね、ちょっと余所見したらザックリ」
 笑い混じりにそう言うと、先生が眉根をよせて口をへの字に曲げる。
 「駄目ですよ。刃物を扱うときは気をつけないと」
 そう言い嗜めながら血をぬぐった脱脂綿を横のゴミ箱に捨てると、軽い金属音を立ててステンレス製のトレイの上にピンセットを置いた。
 台の上にいくつか並んだ薬品の中から造作も無く消毒用エタノールの白い瓶を選び出すと、その蓋を捻る。
 先生の指が再びピンセットを取りあげ、あたらしい脱脂綿に中の液体を浸した。
 揮発性のつよいアルコール特有の刺激臭が鼻をつく。
 「しみますよ」
 放していた僕の手を固定しなおしそう言うと、透明な液体をふくんだ真綿を傷にかるく押しあてた。
 途端、ぴりりとした鋭い痛みが指先にはしる。
 「痛い、先生」
 こどものように大げさに声だけで痛がってみせると、先生は視線を治療している手元におとしたまま微かに含み笑いした。
 「我慢してください」
 指先にまっすぐ引かれた赤い線のような小さな生傷の上を、アルコールで濡れた脱脂綿が極力障らないようになんどもたどる。
 戯れに、先生の右手をピンセットごと握って止めた。
 「夜神くん?」
 僕の唐突な行動に、先生がわずかに怪訝そうな表情をうかべて顔をあげる。
 「もういいよ、先生」
 唇を笑みのかたちにゆがませてそう言うと、固定されていた先生の手から右手を抜き出す。
 先生が眉をひそめてピンセットを片手に握ったまま、逃れた僕の手を捕らえに腕を伸ばした。
 「いけません、まだ途中ですよ。きちんと手当てしないと雑菌がはいってしまいます」
 伸ばされたその腕をかいくぐるように右手をひらりと舞わすと、傷のある人差し指をかるく立てて先生の目の前に突きだした。
 不意の動作に目を瞬かせる先生を見つめ、にやにやと不真面目な笑みを浮かべたまま冗談めかして言う。
 「じゃあ先生が舐めて、なおして」
 そのまま指を目の高さから口もとまで下ろしてゆく。指先がくちびるに触れる直前で、先生の掌がやや乱暴にそれを阻んだ。
 「なに言ってるんですか。それこそ雑菌が入ってしまいます。きちんと消毒しないと」
 からかうような僕の態度にすこし機嫌を損ねたのか、怒ったようにその口調が刺々しさを帯びる。
 ふたたび捕まえた僕の手先の傷口に、先生がピンセットの先端の脱脂綿を押しつける作業を再開させた。
 「いちおう、絆創膏貼っておきましょうか」
 「………………」
 ふと、うつむき加減に傾いたその顔にいたずらに手を伸ばす。
 そろりとその白い頬に指の背でかすめるように触れると、先生は表情は変えないまま、ぴくりとわずかに肩を震わせた。
 そのまま無言で作業を続けている先生の喉もとまで、ゆっくりと指をすべらせていく。
 きっちりとボタンが一番上まで留められたシャツの襟に指をかけたところで、先生が声を上げた。
 「やめてください」
 手指の動きがつむぎだす空気に僕のかすかに湧いて出た意図を感じ取ったのか、制止するその声は先までとは違い、凍えるように冷たく固い。
 「なにを?」
 口の端を吊り上げたままとぼけて指を動かす。
 二番目のボタンを外したところで、先生の腕がばしんと勢いよく僕の手を払いのけた。
 「!」
 反動で手を引っ込め、目をまるくして乱暴に打ちつけられた手の甲と先生の顔を交互に見やる。
 先生はその黒く長い前髪の隙間から、睨むような鋭い視線をこちらに寄越してきた。
 その剣呑な様子に、自然と先よりも酷薄な笑みが浮かぶ。
 「へェ……」
 抵抗するんだ、と喉の奥で可笑しそうに嗤うと、先生の肩がひくりとちいさく揺れた。
 片手でいくつかボタンの外されたシャツの襟をかきあわせるように押さえ、その顔をうつむかせる。
 「……今日は、約束の日ではない筈です。約束の……金曜以外は、そういう目的でこの部屋には近寄らないと……」
 「だから?」
 唇だけで微笑んでその顔を覗きこむと、先生が気圧されたように僅かに後退った。
 視線が狼狽するように泳ぐ。
 「なに、怯えてんの」
 ほそい腕を乱暴につかんで引き寄せる。
「それとも、期待してる?」
 反射的に顔を背けようとするのを許さず、片手でその顎を捉え無理やりくちびるを塞いだ。
 「ん………!」
 歯を閉じ合わせて舌の侵入を拒もうとする先生の、顎の付け根を押さえて力づくで口をひらかせる。
 荒っぽく噛みつくようにその口内を蹂躙し、逃げる舌をからめとり強く吸い上げると、先生が抗議するように僕の肩にぐっと爪をたてた。
 水音を跳ねさせて唇をはなすと、わずかに拘束する力を緩める。
 途端、先生は僕の肩を押しやって突き放し、逃げるように椅子から立ち上がった。
 赤らんだ顔で息をつきながら僕を睨みつけてくる先生に、なおも冷淡な笑みを向けて言う。
 「いつ覚えたの。抵抗の仕方なんて………ねェ、先生」
 数メートルも無い距離を徐々につめてゆく。
 僕の横をすり抜けて逃れようとする先生の退路を塞ぐと、容易くその腕をとらえた。
 強く暴れる身体をそのまま背後から腕の中に巻き込んで拘束すると、先生が身を強張らせて「いや」とか細い声を引き絞る。
 その声音は語尾が微かにふるえ、今にも泣き出しそうな人間のそれに似ていた。
 僕の腕から逃れようと身体を丸めるようにして前方に重心を倒す先生を、半ば引きずるようにして移動する。
 一番窓際の白いカーテンを勢いよく開き、その中に存在する古びたパイプベッドに腕の中の身体を放るようにして乱暴に押し倒した。
 衝撃で、スプリングが嫌な金属音を立てて軋む。
 圧し掛かるようにして上から見下ろせば、乱れた黒髪の隙間からのぞく怯えた瞳に僕自身がうつりこんだ。
 
 
 



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