「………っ」

 アルコールをたっぷり染みこませた真綿を、白い首筋に押しつける。
 そのまま鎖骨の方へとゆっくりピンセットを滑らせていくと、服をはだけて晒された先生の上体が捩れた。
 「冷…た……っ」
 「我慢して」
 くすくすと喉の奥から笑いを零しながら、先に先生が僕に放った台詞をおうむ返しにかえす。
 肌の上に濡れたような痕を残すアルコールは幾許もなく揮発して、肌の表面はすぐに何も無かったように元通りになった。
 それでも先生が僕の傷口にそうしたように、執拗にその皮膚をなんどもたどる。
 「たまにはされる側っていうのもいいんじゃない?」
 からかうようにそう言いながら、ピンセットを露になったままの胸の突起へと移動させた。
 「ンっ………」
 何の前触れのなくいきなり敏感な其処に低温のアルコールを押しつけられ、先生が息をのんで背を仰け反らせる。
 反射的にかえされる、過敏な反応。
 「……冷たかった?それとも、悦かったの?」
 意地悪く微笑みながら問いかければ、先生は答えることを拒むかのようにぐっとくちびるを噛みしめて表情を前髪の中に隠す。
 僕はピンセットを無造作にシーツの上に放ると、顔を伏せて消毒薬の乾ききらない其処にぬるりと舌を這わせた。
 「は、っ……」
 唇で食むようにしてちゅくりと音を立ててねぶり、つよく吸い上げてやれば、条件反射のような微かな喘ぎとともに先生がちいさく身をくねらせる。
 すぐに赫く充血した其処をぺろりと舐め上げてくちびるを離した。
 「苦いね」
 舌の上に残るぴりりとしたアルコールの刺激に、大仰に眉根をよせてみせる。
 そのまま手を下肢に這わせると、先生の身体が目に見えてびくりと跳ねた。
 何度も繰り返してきた筈の行為なのに、それでもかえされる反応は初めてのときとすこしも変わらない。
 僕は口の右端だけを吊り上げて嗤うと、片手でベルトを外し、ジッパーをさげた。
 「腰、あげて」
 閉じ合わせようと力を入れる膝をなんなく割ると、膝裏をすくい上げて腰を浮かさせ下衣を取り去る。
 下半身だけを露にされた無防備な格好に、先生が羞恥からか泣き出しそうな表情を浮かべた。
 そのまま胸につくほど足を持ち上げ押さえつけると、肩でずり上がるようにして身体をシーツにすべらせる。
 「い、たいです……っ」
 後ろ手に縛られていた腕に体重がかかって痛むのか、ちいさく顔をゆがめて呻いた。
 「ああ、ごめん」
 固定していた足を離すと、その身体を反転させてふたたび背後から抱く。
 首と肩で上体を支える不便な姿勢を強いられ、先生は窮屈そうにその喉を鳴らしてシーツに頬を擦りつけた。
 指を自らの口に入れ、濡らす。
 わざと音をたて、付け根までたっぷり唾液を絡ませて抜き出すと、一連の僕の動作を視界の端にとらえていた先生がこれからされるであろう行為を想定してか、わずかに背筋をふるわせた。
 その細腰を掴んで高くあげさせると、足をさらに割りひらく。
 濡れそぼった指を双丘の奥の固く閉ざされた入り口に押し当てると、先生がひっ、と息をつめた。
 構わずに、ずるりと一気に根元まで埋めこむ。
 「うぅ……っ」
 図々しいほどに乱雑なやり様で侵入した指に、柔い襞が悲鳴をあげるように収斂し、からみつくように強く締めつけてくる。
 それでも慣らすようになんども浅く抜き差しすれば、僕の指の感触を記憶している其処はすぐになじんで、人差し指もそえてやればなんなく二本の指を飲みこんだ。
 「う……ん、ん…っ…」
 内部を弄られ不規則に乱れ始めた呼吸に合わせるようにして、かすれた喘ぎがちいさく吐き出される。
 「先生、ココ、好きになったよね。最初はあんなに嫌がってたのに」
 「……、…っ」
 嘲笑するように耳元で囁いてやると、言葉に反応するかのように内壁がひくりと収縮する。
 「わかるんだよ。最近じゃあ前よりこっちの方が感じるでしょ?……特にホラ、ココをこうすると」
 云いながら内部のあるポイントにあたるようにして中指を折り曲げ、つよく擦る。
 「やッ、あ…!」
 途端に先生がびくりと背をしならせて高い声を放った。
 その反応に、僕は微かに声をたてて嗤う。
 「ほら、たまんないって顔してる」
 淫乱だね、センセイ。
 悪辣な言葉で貶めてやると、先生はあっという間に火がついたように身体を昂らせて身悶える。
 それが元々の性質なのか、それとも生徒である僕と背徳の行為に及んでいるという罪悪感からそれを望んでいるのか、手酷い扱いをすればするほど、抵抗することすら忘れたような嬌態をさらしてみせる。
 そうでもされなければ、耐えられない。
 交わした互いの保全のための契約。金曜のルール。
 その秘密を胸に抱えて知らぬ振りをするには重すぎて、それを忘れるために無意識のうちに先生は、罰されることを待っている。
 「ふぁ…っ、あ、ぁ…っ」
 とろけるように熱い粘膜をかき混ぜるように激しく指を動かせば、先生が高くなまめかしい声をはなって腰を揺らめかせた。
 一度も触れていない先生の性器は、繰り返される執拗な内部への愛撫ですでに勃ちあがり、その先端から先走りを滲ませている。
 「凄いね、後ろだけでこんなにさせて」
 もぐらせた指先を絶えず動かしながら揶揄すると、先生は弱々しく首を振りながらせつなくないた。
 どんなに嫌がってみせても、泣いてみせても、散々後孔での快楽を憶えこんだ先生の身体は刺激されれば従順なほどに浅ましく反応する。
 すっかり溶けた内壁をたどり、浅い位置で入り口を押し開くように指をひらくと、また別の感じる弱点にあたったのか先生が「あ、あっ」と短い悲鳴のような嬌声をあげた。
 内道がうねるように大きく痙攣する。
 それに乗じるように、限界まで張りつめたモノからはたらたらと止め処なく透明な滴があふれ出ては茎を伝い落ち、内股を濡らしていた。
 確実な愛撫を求めて痛いほどに脈打っているそれに気づいていながら、それでもあえて其処にはふれず、執拗なほどに後口の奥を指でまさぐり責め立てる。
 先生がひきつれるような息を漏らし、大きく腰を揺らした。
 唾液に濡れた唇でやがみくん、と舌足らずに僕の名前を呼ぶ。
 「……さわって…くだ、さ……」
 「触ってるよ」
 わざと答えをはぐらかしながら、指先で襞を引っ掻くように擦った。
 「あ……ッ」
 先生の、立てさせていた膝ががくんと落ちる。
 それでも達せるほどの快感ではないのか、先生がちがうと必死に首を横に振った。
 その耳元に顔を寄せると、耳殻にくち、と舌を挿しいれる。
 「こっちだけでも気持ち良さそうじゃない」
 「……っ、…お、ねがい……しま……」
 シーツに顔を埋めるようにして、震える声で先生が哀願しはじめる。
 ただ身体の中で渦巻く欲望と快楽を吐き出すことだけを求め、こうなってしまえば抵抗することなどもう先生の頭の中には欠片だって残っていないだろう。
 「仕方ないな」
 優しく微笑んでそう呟くと、ようやっと性器を掌で包むようにして触れる。
 「あ……っ」
 待ち侘びた其処への愛撫に、先生が薄い背をふるわせながらまた一段音程の高まった声を放った。
 すこし握り込んで扱きたてただけで、あっという間に先生は追い詰められて限界を訴えるように忙しない喘ぎを漏らす。
 「や、あ……あ、あっ」
 射精が近いことを、発せられる嬌声や内壁の収縮する感覚から悟る。
 「駄目だよ。まだ出しちゃ」
 無理、と訴えるかのようにひどく乱れて身悶える先生の耳元で、命令の意図をふくんだ強い口調で告げる。
 「駄目、我慢して」
 そう言って根元に指を絡ませ、達せないようつよく力をこめて握ると、先生が「ひっ」と大きく上体をたわませて四肢を強張らせた。
 そうしたまま後孔からずるりと指を抜き出すと、代わりに完全に屹立した自身をあてがい、びくびくとひどい収斂を繰り返す其処に強引に押し入る。
 「や、…ッ、嫌、あぁ…っ…」
 襞をひらかれる強烈な感覚に、先生がシーツに爪先を滑らせるようにして身体を逃がした。
 それを許さず腰を固定すると、わざと緩慢に纏わりついてくる粘膜を引き剥がして押し開き、埋め込んでいく。
 放埓を塞き止められたまま許容量を超えた悦楽を与えられ、先生はせきを切ったようにとうとうその目から涙を滴らせた。
 「我慢させられて辛い?凄い、締めつけてる……先生」
 快感に酔った、掠れた声で囁く。
 「ひ、っ…、…っ」
 わざと軽く腰を突き上げると、先生がひきつれるような声を上げて身を捩った。
 内壁が過剰なほどに反応し、収縮する。
 過ぎた快楽に翻弄され、ただがくがくと膝をふるわせて嗚咽をあげる先生の耳元に唇をよせた。
 「イきたい?」
 答える余裕も無いのか、質問にただなんども首を縦に振ってみせる。
 「じゃあそう言って」
 空いている手で繋がった部分をなぞるように撫でながら意地悪く言葉を催促すると、先生は時折しゃくりあげながらも、震えるくちびるでなんとかその台詞を口にした。
 「……っ、かせて、くだ、さ……ッ…」
 「よく出来ました」
 子供を褒めるような口調でにっこりとそう告げると、ようやく握り込んでいた性器から手を離す。
 「ひぁ…っ……!!」
 腰を大きくグラインドさせてつよく奥を穿つと、途端、先生は悲鳴のようななき声をあげて吐精した。
 全身をびくりびくりと不規則に戦慄かせながら、滴ったどろりとした粘液をシーツに飛び散らせる。
 その放埓の余韻が引く暇もまたず、ベッドに沈みそうになる身体を強引に引き起こすと、繋がったまま自分の膝に坐らせて背後から抱きしめた。
 「シーツ、汚しちゃったね」
 手を拘束されているうえ、絶頂を迎えたばかりで上手く力の入らない先生の身体は、支えていた手を離せばそのまま沈んで、自然と奥深くまで僕をくわえこむかたちになる。
 「…ふ…っ、うぅ……っ」
 ぽろぽろと頬を垂れ落ちる先生の涙を舐めとりながら、「ああ、また泣かしちゃった」とわざと沈痛な声をつくって呟いた。
 固く閉ざされた目尻に吸いつくと、ゆるく下から腰を突き上げる。

 「ごめんね。先生見てると、どうしても歯止めが利かなくなる」

 再び開始された強い律動に、揺さぶられるままに身を任せている先生の口からかすかな吐息が零れた。

 
 



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