腕の囲いの中で、狼狽するように先生が身を捩らせる。

 構わずに黒髪にかくされた耳裏に口づけ、肩口に顔をうずめると、
 華奢な身体がぴくん、と揺れた。


 「……っだ、駄目です……車の中 なんて…。
 だ、誰に見られるか……」

 「大丈夫だよ。雨だし。薄暗いし。窓もすこし曇ってるし、見えないよ」


 ましてや普段から人通りの無い道の路傍ともなれば、誰かに見つかったならそれは相当運がなかったということだ。リスクなら、むしろ校内のほうが高い。


 それでもやはり抵抗があるのか、先生はしきりに外を気にして、雨粒の伝う窓の向こうに視線を流している。


 「ね。ちょっとだけ」

 「…夜神くんは…いつもそう云って、嘘ばっかりじゃないですか…」


 半眼になってわざと、ふてくされたような声を出す。
 はっきり否とは云わないのは、芯から嫌がってはいない証拠だ。

 喉の奥でかみ殺したような笑いをこぼしつつ、肩口から首筋、喉もとへとくちびるをすべらせると、それに合わせるかのように先生は微かに息を漏らし、白く細い首を無防備にさらした。


 「………ふ、……」


 シャツのボタンをいくつか外し、露わになった鎖骨の窪みにも口づける。
 痕がつくほどにきつく吸いつくと、不意の鋭い刺激にちいさく声が上がり、さ迷った手指が耐え入るようにシートの淵に掴まる。

 くちびるで、肌のうえに緩やかな愛撫を繰り返しながら、片手で邪魔なシートベルトを外す。そのまま手のひらをあて、肩からなだらかな胸元へとシャツ越しにゆっくりと撫で下ろした。


 「あ、……」


 わずかに掌にふれた小さなしこりを、指のはらで押しつぶす。

 途端、びくりと先生の肢体が、目に見えて緊張する。

 すこし触れただけで、其処は布地越しにもわかるほどふっくらと充血して、わざと引っかけるように爪弾いてやると、先生は過剰なほどに身体をびくつかせ、精いっぱいに押し殺した声を漏らした。

 外から聞こえる物音もなく、雨音だけがしずかにこだましている中、狭い車内では、先生が声をあげればいつもより際立って聞こえる。それが恥ずかしいのだろう。
 くちびるを噛みしめて、必死に声を出すまいとしている。


 「舐めてほしい? それとも、もっと?」


 意地悪くうつむいた顔を覗きこみながら云うと、
 先生は頬を上気させて眉根をよせた。


 「ずるい云い方、…しないでください」


 拗ねて睨みつけてみたところで、潤んだ目ではあまり効果はない。

 僕はかすかに笑い混じりの息をこぼすと、運転席に乗り出していた身体を、自分のシートに戻した。サイドのレバーを引き、わずかに座席を倒す。

 訝しげにこちらを見ている先生に手を差し出し、
 いつものように微笑んだ。





 「おいで。……先生」














 掴まえた腕を引いてやると、先生は素直に云うことを聞いた。

 脇をかかえ運転席から引っ張り出すと、その驚くほど軽い身体を胸の中に抱きとめる。
 足を引き寄せることなくシートに残したまま先生は、一瞬複雑そうな視線を僕に向けたあと、合意をしめすように僕の首に両手を絡めてきた。

 大人しく、僕の膝のうえに納まった先生の下衣を脱がし、片足だけ引き抜くと、向かい合わせるようにして膝を跨がせる。

 恥ずかしいのか、先生は猫背の背中をさらに丸めて、僕の肩にすがりついたっきり顔をあげようとはしない。


 多少窮屈な態勢になるのは仕方がない。
 その細い背中に手を廻し、やさしく抱きしめる。


 「……っ!」


 空いた片手で脊椎を伝い下り、行き着いた先のちいさないりぐちを撫でる。
 おびえるようにひくん、と収縮する其処は、潤いもなく未だ固く閉じきったままで居る。


 「いい?」


 確認するように、首にしがみついている先生の耳もとで囁くと、ややためらいがちに、小さく首が縦に振られた。

 了承を得て、一旦指を唾液で濡らしたあと再びいりぐちに触れる。
 慣らすように襞を撫でたあと、力をこめて指先を内部に押し入らせた。


 「ぅん……っ!」


 ぬめった熱い内壁が、這入りこんだ異物にきつく絡みついてくる。

 いちど根元まで埋めこませると、中を緩めようと小刻みに、ゆっくりと抽挿を開始した。
 段々と、先生の呼吸が不揃いに、引き攣れたものに変わる。




 もう何度も、受け入れているはずなのに。
 それでもいつだって、先生は処女みたいな反応を僕に返す。




 「…う、…っん、……ん…」


 それでも三日と空けず散々僕を受け入れている其処は、すこし弄るだけで自ら準備するように口を開きはじめてくる。

 きゅうきゅうと締めつけてくる狭い内壁が潤い、わずかに緩みをみせたところで
 早々に二本目を押し込んだ。 


 「あぅ…っ」


 ぶるりと、切なく眉根をよせて、
 先生の肢体が身震いする。

 ゆっくりと中指と人差し指を揃えて抜き差しすると、空気をはらんでくちくちと、ぬるついた肉のこすれあう音がたった。
 狭い車内でいつもよりも大きく、リアルに聞こえるその厭らしい水音に、先生が泣きそうな声音で喉を鳴らして、ぎゅっと僕にしがみついてくる。


 「ふあ…っ、あ、……ぁっ、ん!」


 的確に、感じるポイントにあたるようにすると、幾分もどかしげだった先生の喘声が高く、余裕のないものに変わり始めた。弛緩と緊張に合わせて中がひくひくと収斂し、さらなる刺激をねだるかのように、しらず細い腰が揺らめきだす。

 性感が、加速してきた証拠。

 開かせた膝がかたかたと震え、体重を支えることが難しくなってきたのか先生は、それでも必死に腰を落とすまいと、僕の肩にまわした両手に力をこめる。


 「もう一本、増やすよ」


 耳もとで囁くと、先生が強張るようにぴくりと背中を反応させる。

 一瞬間を置いたあと、教えたとおりに、僕がやりやすいようゆっくりと、
 震える息を吐き出した。


 「ん…ぅ…っ!」


 ぐっと襞を押し開き、三本目を挿入する。
 健気に大きく口をひらいて異物を奥まで迎え入れる其処は、呑みこまされた容量が増したことで、先よりもはげしく収縮し、淫猥なほどに脈打っている。
 浅く忙しなく吐き出される先生の吐息が、首筋にあたってとても熱い。


 「先生、顔、あげて」

 「………………」

 「先生」


 もう一度せんせい、と呼びかけると、ようやく肩口に埋まったきりだった
 先生の顔が上がった。


 すっかり上気して、ふるえて、涙目で。
 幼く頼りない表情をして。


 さっきまでこの車を運転していた先生とは思えない様相。
 僕の一番、可愛い先生。


 「先生、キスして」


 至近距離で強請ると、先生の長い睫毛がなんどか震えた。
 恥ずかしそうに目を伏せながら、それでも素直に云うことを聞いてそろそろと、ためらいがちにそのくちびるを、僕の其れに触れ合わせてきた。

 子どもっぽいくちづけ。

 それでも淫靡で濃密な空気に、どちらからともなく舌を絡めはじめる。


 「んっ…、……ふ…」


 攫ったすこし小さな舌をきつく吸いたててやると、ぴくんと全身が反応する。
 それに連動して、僕の指をくわえ込んだままの後孔も、さらに奥へと引き込むようにうねり収縮を繰り返す。

 口づけたまま、ずるりと全ての指を抜き出した。


 「…………っ」


 うしなった圧迫感に、途端、先生の肢体がぶるっと震え、そして弛緩する。
 くちびるを離し、細い身体を腰を引き寄せるようにして抱き込むと、真赤な顔で息を荒げている先生にたずねた。




 「ほしい?」








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