「ふっ…、うぅ…っ、も、むり、ですっ…」

 「無理じゃないよ。いつも、ちゃんと入ってるんだから」


 弱々しい腕で僕に絡みつき、先生がちいさくかぶりを振る。


 相変わらず弱まる気配を見せない雨音に混じって、先生の浅い呼吸が嗚咽混じりに車内を満たしている。
 
 耳の横で、先生が爪を立てているシートの背凭れが、
 軋むような音を鳴らした。


  「欲しいなら、自分で入れてみせて」


 ぞんざいに云い放った僕の言葉に、最初、奥手な先生は顔を真っ赤にしてどうすることもできずにいたが、僕が許さないだろうことを悟ったのか、やがて諦めたように息を吐き出すと、おずおずとその腰を浮かせた。


 先生が自ら膝をひらき、後ろ手に尖りきった僕自身を支えながら後孔にあてがう。

 見ているだけで、イきそうになるくらい煽情的な光景。


 ちょっと足を開かせただけでも嫌がり、泣きそうな声を上げていた時とすれば、まるで別人のような進歩のし様だ。

 それでも、先生の内面はまっさらなまま、
 すこしも変わってはいないようだけれど。

 「大丈夫。ゆっくり息を吐いて、力、抜いて」

 「…………、……ん…、…ぅく…っ…」


 ぶるぶると震える足で体重を精いっぱい支え、深く沈みこまないよう加減しながらそろそろと、先生の腰が下ろされる。
 既に先端を呑みこみ終えていた其処は、大した抵抗もなく続く幹を受け入れていく。
 それでも自ら異物を内部に押し込む行為に恐怖を感じるのだろう。半分ほど入った時点で、先生は「もう入りません」と繰り返しながら泣き始めた。

 「仕方ないな」

 後ろに倒れこまないよう背中を支えてやりながら、体重を支えている膝を抜くようにして、先生の身体を僕の上に座り込ませる。

 「ひッ、……!」

 重心が後方にかかったことで、そのままずるりと滑りこむようにして、
 残りの部分が先生の中に収まった。

 衝撃に、薄い背中が痛々しく撓る。


 「はは。ほら、入った」

 「…、あ…っ、……っ」


 一気に限界以上まで呑みこまされ、びくびくと肢体を緊張させたまま先生が、見開いた目からぽろぽろと涙をこぼす。

 笑った顔も幼いけれど、泣き顔はもっと幼い。

 年齢不相応に頼りなげな様子で泣く先生がこのうえなく愛おしくて、僕は優しくその黒髪を撫でてやりながら、何度もその頬にくちびるをよせた。


 「先生、動いて」


 促すように軽く腰を揺さぶってやると、内部がこすれて甘い声が上がる。


 車の中という、違ったシチュエーションに少なからず興奮しているのか、
 長くは持ちそうも無い。

 それは先生も同じなようだけれど。


 触ってもないのに、既にたらたらと蜜を零してシャツを濡らしている先生の性器に
 指を絡める。


 「ん…ッ、……」

 「ほら、こっち、弄っててあげるから。動いて。先生」


 指のはらで裏筋を辿りながらくちくちと幹を撫で上げると、また先端から新たな先走りが吐き出される。もっと深い刺激を自然にほしがるのか、乗じるように先生の内壁が、僕に食いつくように厭らしくうねった。

 溢れ出した粘液が僕の手のひらを汚していく。

 それを咎めるように、わずかに口をひらいた潤んだ先端をなんどか撫でたあと、唐突にぎゅっと爪先をあてがい押し込む。


 途端、ひッと短く 先生の喉が鳴った。


 「ッ!!! 痛、ぁッ… あ …!!!」


 ぐっ、ぐっ、と数度孔を押しつぶすように指を喰いこませる。
 その度に掠れた悲鳴を上げ、ひくひくと従順に反応を返す先生は、痛みを訴えてはいたが、蜜を溢しこそすれ萎える気配はない。


 「ああ。…これ、気持ちいいんだ?先生」


 嘲笑するように、形を保ったままの性器を下から上へ撫で上げる。 


 「ぅ…、ち、違……い、…云わな…ッ」


 涙声で、先生がかぶりを振った。
 小刻みに腰をくねらせるたび、繋がった箇所から粘着質な音がたつ。

 先生の顎から伝い落ちた涙が落ち、白いシャツに染みこんでいくのを見送りながら、僕は再度先生に「動いて」と命令した。


 「……ん、…う、…うっ…」


 緩々と、細い腰が上下に揺すられはじめる。

 窮屈なシートの上ではストロークを大きくすることもままならないのか、かなりもどかしいその動きは、それでも僕に少なくない快感をもたらす。

 向かい合った体勢で、顔を見られるのが恥ずかしいのか、先生は猫背をさらに丸めて俯いたっきりでいた。それでも、表情は髪に隠されて見えなくても、先生が感じていることは全身でわかる。


 「ちゃんとイイところにあたってる?」


 わざと意地悪く、耳に吹き込むようにして訊ねると、
 ぴくんと肩がすくまり、連動して内部が締まる。

 「あ…っ、ぅ、…っ」


 ぎこちなく、稚拙な技巧。


 それでも、先生が僕の上に跨っているという視覚だけで
 それは十二分に劣情を煽る。


 すぐ目の前の、シャツの襟からのぞく細い鎖骨に口づけ、くちびるでなぞるようにして這い上がる。辿り着いた華奢な首筋に舌を這わせると、そのままきつく吸い上げた。

 途端、先生が嫌がるように身じろぐ。

 
 「あ…、だ、駄目です…夜神くん…、駄目…ッ」

 「何が駄目?」

 「見えるところには、痕…つけちゃ…」


 半ば口癖のようになっている、先生のその台詞。
 制止を無視すると、僕は逃れようとする肩を押さえつけ再びくちびるをよせた。


 「夜神く…!」

 「いいよ。見せてやれば」


 云いざまに、先と同じ箇所にまたきつく吸いつく。
 痛みに近い鋭い刺激に、先生が耳の横でちいさく息を飲んだ。


 「……あ…」


 しばらく舐ったあと、ゆっくりとくちびるをはなす。

 襟では隠れない高い場所に、赤く、花びらのような痕がくっきりと残ったのを確認すると、僕は満足して微笑んだ。


 「先生は、僕のものって印だ」


 なんどか濡れた睫毛を瞬かせて、先生が困ったような顔をする。
 頬が赤みを増したから、ホントは嫌がってなんかいないことを、僕は知ってる。

 首筋を、こするように手のひらを這わせながら、
 ようやく聞き取れるほどのか細い声が呟いた。


 「…馬鹿ですね」

 「馬鹿だよ」


 おうむ返しに返事しながら、止まっていた手を再開させる。

 「あ、や…っ、待っ…」

 くちくちと、粘液をかき回すような音を立てながら弱い先端をなぶると、引き攣れた嬌声を放ちながら先生の腕が僕の肩にしがみつく。前を責める手は休めることなく、背中を支えていた片手を下げ、僕を咥えこんでいる箇所を労わるように撫でた。


 「んんっ…、……っ」


 内壁が、またもの欲しそうに蠢く。


 「イかせて、先生」

 「………ッ」


 そう耳もとで甘く囁くと、ぶるりと細やかな肩がふるえた。

 ややあって、再び上下に腰を揺らめかせ、ぬるぬると抽挿を始める。
 かなり切羽詰ったところまで昂っているのだろう、奥がひくひくと小刻みに収斂し、吸いつくように締めつけてくる感覚に眩暈さえする。
  
 ん、ん、と喉を鳴らしながらくちびるを噛みしめて。

 一生懸命に僕を感じさせようと腰を振っている。


 「可愛い」


 喉もとになんどもくちびるを落としながら囁く。

 先生の律動に合わせて、とろとろと溢れる蜜が垂れ落ちる茎を上下に扱きたててやると、噛んだくちびるがほどけて、泣き声混じりの掠れた声が上がった。


 「や…ッぁ…っ、駄、目です…、も、弄っちゃ…っ」


 必死にしがみつき、爪を立てながら いきそうです、と呼吸の端で訴えてくる。
 そんな先生の痴態に、僕自身も一気に射精感が高まる。


 「いいよ、イって」

 「駄目ですッ、よ、汚します……制服…ッ」


 こんな状態でそんなことが気にかかる先生が、ひどく先生らしくて思わず笑いがこみ上げてくる。


 「大丈夫だから。我慢しないで、出して。先生」


 やさしく促しても、先生は頑なに首を横に振る。
 それでも、腰の揺れは止まらない。
 境界線を越えた快楽の波に、射精を抑えようとする先生の手を阻むと、先にしてやったように先端に強く指先を立てた。

 びくん、と、大きく全身が緊張する。


 「いやっ、だ、駄目…、あ、ああぁ…───ッ!!!」


 包んだ指の隙間から、とろりと白い暖かな粘液が溢れ、伝いおちていく。

 肢体の痙攣にあわせて、なんども吐き出される精液が収まってきたところで、更に絞り出すように根元からぎゅっと扱き上げてやると、先生はひッ、と高く喉を鳴らして身体を強張らせたあと、糸が切れたようにどさりと僕の腕におちた。


 不規則に全身を引き攣らせながら、僕の手の中に残滓を吐き出す。



 先生の熱く汗ばんだ身体を腕に感じながら同時に、
 僕もまた、先生の中に放出していた。









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