パラレル・エロ注意。

L→高校の保健医
月→その生徒








保健医





 いつもと変わらぬ白い四角い箱のような部屋。

 消毒薬の匂いに満ちた空気は冷たく静まりかえって、沈殿する粒子が天井から降りそそいでくるような錯覚さえおぼえる。

 どれくらいそうしていたのか長くはないが短くもない時間、僕はデスクに向かい腰掛けた先生の、うつむいた白い項を見つめていた。



 デスクの上に放り出されている、数枚の写真と携帯電話。



 録音再生が止まった画面のまま固まっている携帯の液晶画面に視線を落とし先生の目は、一ミリも動かず瞬きすらしない。

 その照明が消え、省電力モードに切り替わるのとほぼ同時に、僕は口火を切っていた。


 「気に入ってもらえた?」


 どことなく笑いをふくんだ僕の台詞に、先生がのろのろと視線を上げる。
 黒髪のすき間から見上げてくる黒い目を嫌悪と軽蔑に満たして、先生は僕を下からにらみつけてきた。

 「最近の携帯って便利だよね。写真も撮れれば、録音機能までついてる」

 云いながら僕はデスクの写真を一枚、手遊みに指先で拾い上げた。
 携帯のカメラで撮影したものをプリントアウトしたその写真は、被写体の顔かたちから行われている行為まで、はっきり判別できるほど鮮明に映し出されている。

 「上出来だろ?薄暗かったわりにきれいに撮れてる」

 僕の微笑を睥睨したままの先生の視界に入るようにわざと翻してみせると、途端に先生は表情を苦悶にゆがめて居たたまれなく顔をうつむかせた。

 ぱさりと取り上げた写真を他の写真の上に落とすと、代わりにひらきっぱなしの携帯電話を手に取り折りたたむと、そのまま胸ポケットに仕舞う。

 「気に入ったのがあったら焼き増ししてあげるよ。データはこの携帯にちゃんと残してあるから」

 台詞の意図を無言で汲み取った聡い先生が、凍った表情でくちびるを開く。



 「……なにが望みなんです」



 無感動につくられたその声に僕は、
 似つかわしくないほど優しい微笑を浮かべた。









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