パラレル・エロ注意。







高校教師〜放課後編




 「先生が、好きだ。抱きたい」


 そうはっきりと告げると、腕で囲い込んだ細い身体がびくりと揺れた。
 「……や、夜神くん…?」
 長い黒髪の隙間から、窺い見るように黒い目が上目遣いに見上げてくる。
 事態が飲み込めていないと云わんばかりに戸惑いをうつしだしているその表情に、僕は大きくため息をついてうつむいた。
 「やっぱりわかってなかった」
 先生の肩口に顔を埋めてがっくりとうなだれたままの僕に、先生がおろおろと狼狽るような声を出した。
 「夜神くん?……あの…?」
 「………先生、僕はたしかまえにも先生に好きだって言ったよね。なんべんも」
 言葉を一字一句強く区切るようにして発音すると、先生が叱られた子供のように肩を縮こませた。
 化学室の白い壁に背中を押し付けられ、両脇を腕で囲まれ、逃げ道を分断されて見下ろされている状況に、居心地悪そうに身を捩りながら顔をうつむかせる。
 「あ、あれは……ただ単に生徒として、私を慕ってくれているものだと、ばかり……」
 そう口の中で呟く声は頼りなく、小さく擦れてようやく耳に届いた。
 その返答に呆れたように、再び僕は長く息を吐き出す。
 「あれだけ何度も言うってことはソレ以上の意味があるとは考えなかった?」
 「……………あの……」
 床に目をおとしたまま口ごもる先生の耳元に無造作に唇をよせると、わざと呼吸にのせて囁いた。
 「僕は先生のこと、ずっと恋愛対象として見てたよ。キスしたい、抱きたいってずっと思ってた」
 「…………!」
 露骨な言葉にかあっと顔を赤らめて視線を泳がせる先生の顔を覗き込むと、唇の端を歪める。
 「幻滅した?」
 「そ、そんなこと…!」
 弾かれるように顔を上げた先生の肩を掴むと、更にその身体を壁に押しつけるようにして殆ど乱暴にくちびるを塞いだ。
 「ん………!!」
 先生が大きく目を見開いて全身を硬直させる。
 少し離してその薄いくちびるを軽く啄ばみ、ぺろりと舐め上げると再びふかく重ね合わせた。
 舌先であっという間に唇を割りひらくと、ざらりと舌で口腔を蹂躙する。
 「うぅ……!」
 呻きとともに微かに漏れた吐息をも飲みこむようにきつく舌を吸い上げると、軽く音を立てて唇をはなした。つう、とわずかな隙間に唾液が糸をひく。
 「………………っ」
 その嚥下しきれずに唇から零れた、どちらのものとも知れない混ざり合った唾液を舌で舐めとると、先生が真っ赤な顔をして口もとを掌で覆った。
 起こった突然の出来事に涙目になったまま、ほとんど泣きそうな表情で僕を見上げてくる。
 「先生を慕っているだけの生徒なら、こんなことしないでしょ」
 意地悪く微笑んで押さえつけた肩から手を離す。
 途端に先生は軸を失ったようにずるずると壁をつたって座り込んだ。
 リノリウム製の床に、白衣の裾が汚れるのにも構わずへたりこんだ先生に合わせるようにかがみ込むと、その目を覗き込みつとめて優しい声音で告げる。
「本気だって、わかってもらえた?」

 困惑しきっている先生の黒い目に、僕自身がうつって揺れた。

 
 



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