「やめてくださ……夜神くん!」
 掴んでいた手首を捻りあげると空いていた片手で肩を押しやり、そのままの勢いでその身体を手近にあった教台の上に倒した。
 振動で脇に乱雑に並べられていたビーカーや試験管が、いくつか音を立てて倒れる。
 「痛……」
 その殆ど力任せの行為に、先生が眉を顰めて眼を瞬かせた。
 起き上がろうとするその身体を更に力をこめて机に縫いとめる。
 先生が抗議するような目で僕を上目遣いに見上げた。
 「……なにか気に障ったのでしたら、謝ります。ですから、………放してください」
 「嫌だ」
 振り払おうと力が込められるその右手を、それを上回る力で押さえつける。
 「夜神くん、冗談は……!」
 「冗談でこんなことすると思う?」
 言いながら先生に圧し掛かり顔を近づけると、先生は気圧されたように少し視線をさ迷わせた。
 その目には明らかに狼狽と不安の色が滲み出ている。
 「油断し過ぎだよ、先生。言っただろ。僕の「好き」はこういうことだって。先生を抱きたいんだって」
 「……駄目です。夜神くん、これ以上は……」
 「どうして?先生が教師で僕は生徒だから?それとも僕が嫌いだから?」
 目を探るように合わせて問うと、先生が一瞬返答に詰まった。
 「……生徒だからです」
 幾分の間をあけて低く返されたその答えに、僕は嘲るように息だけで嗤う。
 「そういうところが甘いよ先生は。本当に嫌なんだったらもっと手厳しく突っぱねればいい。「嫌いだ、触られるのも御免だ」って」
 そう言うと、先生は困ったように眉根をよせてくちびるを噛んだ。
 「そんな事……」
 「……先生はお優しいね」
 口元だけで微笑を形づくると、僕はわずかに上体を浮かせて先生を見下ろした。
 「先生から見たら子供なのかも知れないけど、僕も充分男だよ」
 「!」
 膝を割り、脚を絡めるようにして腰を押しつけると、僕が昂りはじめていることにに気づいたのか先生がかっと頬を赤らめる。
 その顔を覗き込むようにして視線を絡めとり、唇の端を吊り上げた。
 「先生も男なら分かるだろ?……いまさら止める気は無いって」
 「……………っ」
 いよいよ僕が本気であることを悟ったのか、先生が先よりも力を込めて身を捩り始めた。
 「や…っ…い、やです…!」
 辛うじて自由になる左手で僕の肩を押しやろうとしてくる。
 その手首を容易く捕らえると、押さえ込んでいた右手とひとまとめに頭上に捻りあげ、左手一本でそれを固定した。
 体重をかけて圧し掛かれば、すぐに先生の身体は完全に動きを封じられる。
 僕は唇を歪めたまま、先生を見下ろした。
 密着した箇所からその体温が布越しに伝わってくる。
 逃げられないことを悟ったのか、先生は抵抗する力を緩めて僕から顔を背けた。
 「は……放して、ください…」
 不安に畏怖が混じりはじめたのか、語尾が微かに震えている。
 顔を下ろしてその細い首筋に唇を這わせると、びくりと目に見えて先生の肩が跳ねた。
 唇が触れた瞬間、全身が緊張して強張る。
 そのまま耳朶までなぞり上げると、吐息を吹き込むようにして囁いた。

 
 「諦めてよ、先生。乱暴にはしたくない」


 
 



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