白衣の裾を払い、シャツを捲り上げる。
 露になったその下の白い肌に掌を這わせると、先生は息を詰めて身体を強張らせた。
 「夜神くん……やめて、ください…っ」
 懇願するように先生がか細い声を震わせる。
 「やめない」
 言い放つと、その首筋をつよく吸い上げた。
 ちくりとした痛みにも似た感覚に、小さな呻きとともに先生の肩がすくめられる。
 白く薄い皮膚に赤い花弁のような痕がついたことを確認すると、それを舌でぺろりと舐め上げた。
 「……お願いですから、……もう…」
 余裕のなくなった制止の声を無視し、喉を唇で探りながら脇腹から手指を這いあげていく。
 胸の突起に行き当たり、それを軽く指で挟むようにして弄ぶと先生がふっ、と短く息を漏らした。
 少し刺激しただけですぐに反応を返すそれを押しつぶすように捏ねると、そこへの愛撫を嫌がるように上体が捩れる。
 「……っ、や……」
 「感じるの?」
 そう問いかけると、否定するかのように先生は唇を引き結び、首を振った。長い前髪がその目元を覆い隠す。
 「ふうん」
 まあいいけど、と気の無い返事を返し、シャツを喉元まで一気に捲ると、既に赤く色づいているそれに舌を這わせた。
 「ン、………っ」
 唇に含み、唾液を絡めて舐め上げると、先生がわずかに喉を鳴らした。
 抵抗を示すように身体は強張らせたままだったが、その口からは先までのような制止の言葉は吐き出されない。
 口を開けばおかしな声が漏れそうになるのか、先生は何かに耐えるかのようにぎゅっと目を閉じ、唇をきつく噛み締めたままでいた。
 痛いほどに赤く充血したそれを唇で執拗に愛撫しながら、下肢に手をかける。
 片手でベルトを外し、ジッパーを下げると、素早くその中へ手を滑りこませた。
 「あ!」
 直接性器に触れると、噛んでいた唇が解かれその口から声が漏れる。
 そのまま握りこむようにして撫で上げると、すぐに萎えたままでいたそれが手のひらに反応を示してきた。
 「……や、っ…」
 閉じ合わせようとする脚を再び強引に膝で割りひらくと、そのまま脚を絡めて固定する。
 硬度を持ち始めたそれを少しつよく扱くように愛撫すると、浅く潜まった呼吸のリズムが不規則に乱れ始めた。
 耳元に唇をよせて恋人にするような声で囁く。
 「気持ちいい?」
 その肩がひくりとすくめられ、投げかけた質問に先と同じく首を横に振ってみせる。
 上辺ではどんなに否定しても、すでに快感を感じ始めていることは火を見るより明らかだ。
 男同士であれば尚更、何処をどうすれば感じるかなんてことは容易く理解できる。
 掌を動かすたびに頭をもたげていく性器に比例して、先生の口からはうわごとのように「嫌、嫌」と拒絶の言葉が繰り返された。
 「こっちは嫌だなんて言ってないよ」
 言いながら根元から先端まで形を教えるかのようにゆっくりと擦りあげると、先生が小さく鼻にかかった喘ぎを漏らす。
 すでに先走りが滲み出した先端に触れると、くちゅりとあからさまに粘着質な水音が立った。
 「ホラ、ね」
 「…………っ」
 羞恥からか先生の顔が朱に染まり、その目に僅かに涙が滲む。
 居たたまれないように唇を噛んで目を背けるその様は、えもいわれぬぞくりとくるような淫靡さをはらんでいた。
 いたずらに嗜虐心をそそられ、泪をこぼし続ける敏感な先端に戯れに爪をたてる。
 「あっ……ぅ…!」
 痛みに近い強い感覚に、先生は背を仰け反らせて艶めいた声を上げた。
 縛められたままの両手首が軋む。
 自分の下で快楽に乱れる先生のなまめかしい痴態。
 幾度となく想像したその光景も、現実となってみれば空想など及びもつかないほど淫猥で扇情的だ。
 脳髄がしびれるような興奮を覚えて、僕は口内に溜まった唾を嚥下した。
 そのまま掌を動かすリズムをはやめていくと、否が応に昂る性感に追い詰められてか先生が泣き声にも似た高い喘ぎをこぼし始めた。
 そろそろか。
 たらたらと透明な雫を溢れさせるそれから、限界が近いことを感じ取る。
 「イきそう?」
 揶揄するように囁くと、それに応えるかのようにまた先端からとぷりと滴があふれ出た。
 「は、……っ…」
 答えはない。
 抵抗も制止することも忘れたように、先生はただ忙しなく乱れた呼吸を繰り返している。
 その狭間にも、熱にうかされたうわごとのようにせつない声をあげた。
 「……も、…放し……」
 「限界?」
 もういちど問いかけなおすと、先生は逡巡したあと半ば自棄に首を縦に振る。
 切羽詰ったその様に、僕は口の端を上げた。
 「いいよ、イって」
 耳元で優しく呟いてやる。先生が嫌々をするようにその黒髪を振り乱した。
 「手を…はなして……ください…っ」
 やはり他人の手でイかされることに抵抗があるのか、ままならない息の下で必死に懇願してくる。
 「駄目」
 そう言い放つと慰撫する手を強める。
 深まった刺激に先生はひきつれるような声を漏らすと、腰を逃がすように身体を教台にずり上げた。
 「駄目…です…っ、もう…っ…」
 殆ど泣き声まじりに限界を訴える。
 「出していいよ。……このまま」
 言いながら、つよく先端を擦りたてると、がくんと先生の膝が大きく震えた。
 その耳元に唇をよせる。

 「イけよ。……先生」

 低く囁くとそれが引き金になったかのように、先生が「ひっ…」と喉を鳴らしてあっけなく吐精した。
 びくびくと身体を痙攣させながら白濁とした体液が吐き出される。
 掌に収まりきらなかった分が指を伝ってぱたりと何滴か床に垂れ落ちた。
 溜め込んだ放埓を終え、先生の身体がくたりと力を無くして机に沈み込む。

 その肩に顔を埋めると、僕は柔く歯を立てた。


 
 



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