「約束は、約束だよね?」

 にっこりと微笑んでそう云うと、半眼になってこれ以上ない怪訝そうな表情で先生は下から僕を見上げてくる。

 「……………夜神くん……」

 「ん?」

 何か物申したげに口を開いたり閉じたりして逡巡したあと、云っても結果が覆るでもないことを悟ったのか、先生は大きくため息をついて首を俯かせた。


 「わかってます。…約束は、約束ですから」








お泊り編








 『もし僕が化学でトップの成績取ったら、さ来週の土日は
 先生の家に泊まっていい?』


 竜崎先生とそう約束した今回のテスト。
 その結果が、今日返ってきた。

 結果はもちろん、云うまでもない。

 もともと一定以上の点数を取らないことにのみ気を遣っていた化学だから、実力テストとは云え首位の成績を収めるのは容易いことだ。
 この結果にさすがの先生も僕の魂胆に気がついたのか、100点近い点数の刻まれた採点済みのテスト用紙を渡しながら、苦虫を噛み潰したような顔を僕に向けた。

 なんにしたって、約束は約束。

 先生はあれで一度口にしたことは覆せない頑固なところがあるから、いまさら反故にすることなんて出来ないのを僕はよく知ってる。


 週末ずっと、先生と居られる。
 そう考えるだけで、ばかみたいに浮かれた気分になる。


 存外子どもじみたところが残っている自分自身に閉口しつつも、
 僕はやがてやってくる週末を心待ちにしていた。









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