竜崎先生を、初めて抱いた日。

 先生と所謂『そういう』関係になった日から、二週間が過ぎた。



 あの夜の別れ際、「先生のこと恋人だと思っていいの?」と念を押して訪ねる僕に、先生はうつむいたままの赤らんだ顔を、遠慮がちにちいさく頷かせた。
 その返答に嘘はないのだろうが、あれから二週間。
 僕は先生と、生徒としてのわずかな会話以外、ほとんど話すことも出来ずにいた。





セカンド





 意図的に、先生は僕を避けている。


 まず、目を合わさない。
 授業中ですら極力僕の席の方を向こうとはしないし、偶然視線が合ったとしても、さもそれが苦痛といわんばかりの顔で、そそくさとよそを向いて流す。
 話しかけても、曖昧な言葉を適当にならべてさっさと行ってしまうし、授業の質問をしても、質問には的確に答えてくれるものの、話題がそれ以外の話に移行しようとすれば、たちまち会話を強制終了させて逃げてしまう。
 最初は無理もないことかと溜息をつく程度に考えていたが、それが十日以上も続くとなると、さすがに溜息では済まなくなってくる。

 ──もしかして、嫌われているんだろうか?

 関係の結び方からして、そんな不吉な考えが頭を横行する心当たりは充分だった。
 なにしろ、結果両想いだったとは云え、半ば強姦まがいに先生を抱いたのだ。
 強引で乱暴なやり方だったと思うし、痛かったろうし辛かっただろうとも思う。
 性交自体、もしかしたら殆ど経験のない先生にとっては、思い出し難い最悪の初体験となってしまったことは多分、間違いない。

 それでも、先生は僕の恋人になってくれると云ったのだ。

 ここ最近の先生の態度からするとなんだか自信が無くなってくるが、
 確かにあの時そう云った。
 やさしくて優柔不断な先生は、断りきれずについ頷いてしまったのかも知れないというネガティブな考えも脳裏にはりついていたが、いずれにしても本人に意向を確認してはっきりさせるしか他にない。
 僕らしくもなく、考えあぐねた末のひどく当たり前の結論だったが、更に僕らしくないことに、出た結論を未だ実行に移すことが出来ずに数日が経過しようとしていた。
 念願叶ってただの受け持ちの生徒から恋人に格上げされ、
 さっそく降りかかってきた問題に、溜息ばかりが口をつく。



 恋人同士になったのに、なる前より他人行儀な二週間。
 先生と僕の間に、進展はなにひとつなかった。







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