二週間前と同じ、放課後の静まった校舎内。


 先生も僕も黙ったままでいるから、この化学準備室もまるで此処だけ時間が止まっているかのように静かだ。
 空気の流れさえ目に見えるような、冷えた心地良い静寂。



 そっと細い肩を手のひらで撫で上げると、びくんと首がすくまった。
 構わずに抱きよせその頼りない首筋に顔を埋めると、頬に感じる体温が先よりも高くなったように思える。

 「…………っ」

 頷いてはみたものの、この先に待つ行為に未だ怯えは残るようで、先生の身体は固く強張ったままだった。

 リノリウム製の床に気休め程度に敷いた僕のジャケットの上に座ったまま、うつむいている先生の表情は、また前髪に隠されて見えない。
 身をよせると、ほんのすこしだけ、その身体が小刻みにふるえているのがわかった。

 「………っん、…」

 くちびるを埋めた首筋を、きつく吸い上げる。
 微かにもれた先生の吐息を耳もとに感じながら、柔い皮膚を甘噛みするように口づけると、先生の手がぎゅっと僕のシャツに掴まってきた。

 二週間前につけた痕は既に消え去っていたその場所に、新たに鬱血の痕が残ったのを確認すると、その赤く色をふくんだ肌を舌でたどる。
 手なり舌なり、僕の身体のどこかが先生に触れるたびにいちいち身体を揺るがす先生の耳もとに、くちびるをよせて囁いた。

 「こわい?」

 「………………」

 先生は答えない。
 答えずに、先にそうしたように両手で僕の首を引き寄せると、すがりつくように抱きついてくる。
 どこか幼稚さをもったその仕草に、僕は笑って「先生が好きだよ」と呟いた。












 「ふ、……ぁっ…」

 胸の朱い突起を舌でかるく嬲ると、噛みしめられていた先生のくちびるがほどけた。
 そのまま唾液を絡めて口に含む。
 そのぬるい刺激にびくっと背を反らせると、先生は両手を交差させて僕の視線を避けるようにその顔を覆い隠した。

 「隠さないでよ。先生の顔、見たい」

 引き剥がそうと腕を掴んでも、首を振って頑なに解こうとしない。

 「だ、駄目です……きっと、おかしな顔を…してます…」

 その声がふるえていてあまりに余裕がないのが可愛くて、そのまましたいようにさせた。

 緩やかな快楽を感じるたび、先生の怯えに強張った身体はすこしづつ力が抜けていく。

 しどけなく床に身を横たわらせ、白衣のあわせを開いただけでも泣きそうな声を上げたくちびるは、今はわずかに唾液に濡れて、色をつけたように赤い。

 「やが、夜神くん…っ」

 ベルトに手をかけたところで、先生が上擦った声で僕を呼んだ。

 「何? 先生」

 相変わらず顔はその腕に隠されたままだ。

 「わ、私は……どうしたら、…どうすれば、いいんですか…?」

 「……何もしなくていいよ。力抜いて…任せてくれてれば、良いから」

 されるがままになっているのがよほど羞恥を煽るのか、「でも…」と不安げな声を出す先生の耳もとに、「もう黙って」と吐息を吹き込む。

 そのまま手早く下衣を抜き去ると、ほそい喉から切なげな泣き声が漏れた。

 「足、開いて? 先生…」

 かたく閉じ合わせられたままの膝に掌をかけ、幼子に云い含めるようにやさしく促す。
 顔の上で交差している腕からのぞく頬は目にみえて紅潮していて、極度の緊張と羞恥が見てとれた。きっと胸に耳をあてれば、そのなかの心臓はうるさいほどに鼓動しているのだろう。

 おずおずと、力が緩められた脚をそっと割りひらく。
 露わになったまっしろな内股にくちびるをつけると、先生の胸が不規則に上下し始めた。

 二週間前にはこんなじっくり見たり、緩やかに追いつめるようなやり方はしなかった。
 恥ずかしいんだろうな、とぼんやり嬉しく思いつつ、その柔らかい肌を舌でなぶる。

 「あ…ッ!?」

 そのまま行き着いた先生の性器にもぺろりと舌を這わせると、驚いたような声を上げて先生が上体を起き上がらせた。
 それよりも早く、わずかに反応を示していたソレを口内に取り込む。

 「やッ、やだ…!やがみ、夜神くん…っ!!」

 なにをされているのか視認した先生が、動揺と羞恥の入り混じった高い声を放った。
 咄嗟に引き剥がそうと僕の髪に手をやるのに構わず、舌を圧しあて口の中で動かすと、その腰がびくりと大きく跳ねる。

 「あ、…ッ……ッ!!」

 はじめて味わう口淫に声も出ないのか、しろい喉を引きつらせ、
 先生の背筋が弓なりに仰け反った。

 僕の頭を押さえていた手は一瞬で力が抜け、がくがくとふるえて今はなんの抵抗にもなっていない。
 反射的に逃げようとする腰を両腕で押さえ込むと、尚も深く根元までのみ込み、唾液を絡めてくちびるで愛撫する。呼吸して口をひらくたび、ぴちゃりと卑猥な水音がたった。

 「や…っあ…、あ…、…あ……」

 ざらりと舌で裏筋をなんども撫でると、戦慄く先生のくちびるから陶然とした喘ぎがこぼれる。一寸抵抗をみせただけで大人しくなってしまった先生は、与えられる鮮烈な感覚を受け入れるのが精一杯で、羞恥もなにもとんでしまっているのだろう。
 感じている快楽に頭が追いつけていないのか、恍惚とした表情で天井を仰ぎ、浅く肩で呼吸している。

 かたく張り詰めた性器がびくんとふるえ、あっけなく限界が迫っていることを訴えた。

 「ひっ……、っ」

 あふれる先走りの蜜を搾り取るようにきつく吸い上げたあと、わざと音を立ててくちゅりと口から抜き出すと、強張っていた細い脚から力が抜かれ、がくりと床に落ちた。

 茫然と乱れた息をついている先生の足をぐっと持ち上げる。
 膝を折り曲げ、胸につくほど押し上げると、未だ余韻をひく快楽に意識が翳みかかっている先生が正気を戻すまえに、その奥まった場所にくちびるをよせた。

 「あ……?」

 窄みをなぞるように舌を這わせたところで、そのぬらりとした感触に先生が声を上げた。
 構わずに口に溜めた先走りを塗りこむように舐め弄る。

 「……っやだぁ!!やめ、やめて……やが…」

 鈍った頭で状況を理解した先生が、せきを切ったように暴れ始めるのを押さえ込みながら、更に後孔への愛撫を続ける。くちびるを押しつけ、唾液を絡ませてそのいりぐちを吸い上げると、ひきつるように細腰が揺れた。

 「ひ…あ……ッお願いですから……やめて…っきたな、……!」

 「汚くないよ。可愛い」

 忙しなく呼吸しながら必死に懇願してくる先生の制止を無視して、ぴちゃぴちゃと溶かすように襞を舐める。なじんだところを見計らって、内部へ舌をもぐらせた。

 「嫌…ぁ!!」

 途端、悲痛な声を上げて腰を逃がそうとするのを、一旦舌を退いて窘める。

 「じっとしてて。先生に、怪我させたくないだけだから」

 「………っ」

 わずかに抵抗が止んだのを確認すると、僕は再び舌を埋めこんだ。

 「ッうぅー…っ」

 内壁に舌があたる異様な感覚に、先生が眉をたまわせて呻く。かたく閉じられたその目からは、とうとう透明な涙が滴り始めていた。

 舌を尖らせ、限界まで挿しいれると中にも唾液を送り込むように蠢かし刺激する。
 ひくん、ひくんと戸惑うように時折収斂し、舌を締めつけてくる其処をほぐすことに集中していると、抵抗を抑えてされるままでいた先生の肩が、不規則に震えだした。
 舌を退かせ、顔を上げる。

 「…ひっ…、…ぅ…、…っ」

 見れば、先生はぼろぼろと大粒の涙をこぼしてすすり泣いていた。
 幼い顔で子どものように声を押し殺してしゃくりあげる先生の髪を撫で、「そんなに嫌?」と訊ねると、声も出さずになんども華奢な首を頷かせる。

 「……仕方ないな」


 できれば使いたくなかったんだけど。


 僕は短く息を吐いて先生の下に敷いたジャケットを探ると、内ポケットに仕舞ってあった目的のものを取り出した。

 「………?…なんですか?それ……」

 小包装になっているソレの口を開け、中身を手のひらに取り出している僕を不思議そうに見ていた先生が、涙声で小首を傾げた。

 「ん? ローション」

 空になったその袋を先生に手渡してやる。

 「!!?」

 そのパッケージを見た先生は、その正体が何なのか察してか、途端に目を見開いて耳朶まで真赤になった。

 「が、学校になんて物……!!!」


 つっこむところはソコじゃないと思うけどなあ…。


 「備えあればって云うでしょ。実際、役に立ったじゃない」

 半眼で云いながらローションで濡らした指で後孔をなぞる。まだ何か言いたげだった先生も、そうされれば仕方なそさうに口をつぐんで僕の手に身を任せた。
 ぴくんと反応し、収縮する其処を軽く力をこめて押すと、ぬめりに乗じてなんなく中指が呑みこまれる。

 「…ふ……っ」

 「痛い?」

 首がちいさく横に振られた。
 それでも感じているのが快楽ではないのは、しかめられた眉と強張った手指から容易によみとれる。僕は後ろに指を挿しいれたまま上体を伸ばし、まだ少しふるえている先生のこめかみにそっと口づけた。
 そのまま耳朶まで下ろしたくちびるで、「力抜いてて」と吐息混じりに囁く。


 「気持ちよく、してあげるから」






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