暖かくぬめった内壁が、おずおずと指の侵入を許す。

 初めての性交が与えた傷はもうすっかり癒えきってはいたが、それでもたったいちど、僕を受け入れたことがあるだけの其処は処女地とかわらず狭く細い。
 指一本でも、ぎゅうぎゅうと這入りこんだ異物をきつく締めつけてくる内壁に、よくあんな大きさのものが入ったものだと今更ながらに感心した。

 ローションの粘性をかりて、慣らすようになんども指を行き来させる。

 くちゅくちゅと、あからさまな水音が立つのは無論使った潤滑剤の所為だったが、その音がまるで自らの後孔が内部への愛撫に淫らに悦び濡れさせているように錯覚するのか、先生はしきりに眉をしかめ、切なく喉を鳴らして身をくねらせた。

 「……ふ、ぅ…っ、…」

 「もっと、力抜いて。楽にして」

 「……んっ、……」

 床にぺたんと肩をつけて寝そべり、時おり立てさせた膝をふるわせながらも先生は云われた通り、身体から余計な力を抜こうと試みている。
 もっとも、僕が指を休めず襞をいじくるせいで、指のはらが壁をこすり、卑猥なぬるついた音が耳をつくたびに、反射的に下腹部に力が入って思うようには脱力できないようだったが、それでも痛みは感じていないらしく、先生は大人しくされるままだった。

 「ん、…う…、…ぅ…っ…」

 刺激にあわせて内部が収斂する。
 入っている指のかたちさえ感じとれているかのような、過敏なまでの反応。

 さらに指を増やす。

 「…あ…、……っぅ…」

 先生は一瞬苦悶の表情をつくったが、制止はしてこなかった。
 すでに塗りこんだ粘液にまみれぬかるんでいた其処は、さした抵抗もなくぬるりと中指と人差し指を奥まで呑みこむ。

 「痛い?」

 また首が横に振られる。

 「どんな感じ?」

 「はっ…、わ…からな…、……何か…変…です…っ」

 「そう」

 飽きもせず内部を指でまさぐりながら、先生の反応を窺いつつ角度を変える。
 いちど陥落させた身体なら、感じる箇所をさぐりあてるのはそう時間のかかることでもない。指を体内でかるく折り曲げ、腹側の壁を重点的に撫でていると、ほどなく指のはらに感じるしこりに行き当たった。

 「ひっ…!?」

 ぐっと其処を押し上げるようにしてつよく擦ると、目を閉ざしたまま緩やかな感覚を追って身をまかせていた先生が、息をのんで仰け反った。

 「あ……な、なに…?…っや!」

 いちど味わった快楽を身体は忘れないらしく、初めての時より敏感に返ってくる反応は早くて大きい。
 其処をすこし責めたてただけで、ひくんとふるえる性器から滴る蜜が一気に嵩を増す。
 顕著なまでの自身の身体の変調に、先生は信じられないものを見るように目を見開いた。

 「わかる?ココ」

 云いざまにしこりを強く押す。
 「あッ」と短い悲鳴を上げて、先生の腰が大きく跳ねて再び沈んだ。

 「ココ、先生の前立腺。気持ちいいでしょ?触られると」

 「ぜ…………」

 生々しい台詞に耳まで真赤に染めて、先生がまた泣きそうな顔をする。
 笑ってその頬にやさしくくちびるを落とすと、宥めるように囁いてやる。

 「恥ずかしいことじゃないよ。男は皆そういうふうに出来てるんだから。そのうち慣れたら先生、きっとコッチだけでもイけるようになるよ」

 身体を造りかえられることへの恐怖か、僕の言葉に先生は、まるでそれがとても恐ろしいことかのように必死に首を振ってみせる。


 多分もう遅いけど。

 先生の身体は、その頭脳と等しくもの覚えが良いようだから。
 きっとなんどか抱けば、直ぐに此処での快楽を憶えこんで欲しがるようになるだろう。







 「あっ……あ…、…あぅ…っ…」

 三本目の指を挿入しても、先生は嫌がらない。
 大きくくちを開けて僕の指を呑みこんでいる其処を、さらにほぐれるようぐるりと掻き回すようにして責めたてると、時おり指先が先の性感帯をかすめるたび、先生はびくびくと細腰を揺らして高い喘声をはなった。

 「いい? 先生」

 「んん…っ……」

 指を内部でばらばらに蠢かしながら訊いても、先生は鼻から抜ける甘い声をもらすだけで質問に答えようとはしない。
 未だ素直になりきれない先生を尚も追い立てるように、再び指のはらで直接、前立腺を小刻みに押し上げ刺激してやる。

 「ひぁッ……あ!」

 「ねえ。後ろ…気持ちいい?」

 繰り返し言葉を強請って問う。
 続けさまに与えられる愉悦に耐えかねるように、先生は羞恥からか涙を眦に滲ませながらも、今度こそふるえるくちびるでなんとか答えを口にした。

 「うっ……きもち、ぃい…です…っ」

 「よかった」

 どろどろと溶け落ちた其処を、陰茎でするように三本の指を突き立て責める。

 「あ! あ ぁ……ッ…」

 異物をくわえこみながら白い太股を引き攣らせ、身も世もない悲鳴を上げる先生の胸元に顔をよせ、尖りきった突起をなめ舐り吸いつく。受ける刺激を反映して、触れてもいない先生の性器からはしとどに先走りが垂れ、腹を濡らしていた。

 「やっ、やぁっ……も、抜いて……っ」

 ひっ、ひっ、と喉を鳴らして忙しなく呼吸しつつ先生が哀願してくる。
 無理に続ければまた泣き出しそうな気配に、僕は愛撫を止めてその顔をのぞきこんだ。

 「もう、いいの?……入れるよ?」

 こくこくと半ば自棄に頷いてみせる先生に、僕は微かに息を吐くと、確かめるようにいりぐちを指でひらいたあと、ゆっくりと其れを抜き去った。
 できればもうすこし慣らしたかったが、大丈夫だろう。

 「ん……っ」

 伴う排泄感にぶるりと身体を戦慄かせたあと、失った圧迫感にほっと脱力する先生の両足を捉え、膝裏をとって抱え上げた。


 「!」


 細く白い脚を肩に抱えるようにして上体を倒す。
 仰向けに寝そべった先生の肢体に覆いかぶさるようにして、その顔の真横に手をつくと、後孔のいりぐちに触れた熱いものに無意識にか、先生が怯えた目をして僕を見上げた。

 二週間前に味わった、挿入される痛みを否応に思い出したのだろう。

 またすこし強張り始める先生の身体を優しくさすりながら、さらに顔をよせる。
 確認するように、また訊いた。

 「こわい?」

 黒淵の双眸が、瞬きとともに揺らいだ。
 涙の露をふくんだ睫毛が、わずかにふるえて伏せられる。



 「………ゆっくり…、して、ください…」















 「う、あぁッ……い、痛…っ……いた…」

 無理にいりぐちを押し拡げられる痛みに、
 先生がぼろぼろと涙をこぼしながら呻いた。

 薄い背を大きく仰け反らせ、喉を無防備にさらして喘ぐ先生の耳もとに「力、抜いて」と囁いてやる。

 「息、止めないで。ゆっくりでいいから……っ先生、締めすぎ…」

 本来受け入れるために造られていない器官に、異物を迎えいれる苦痛に翻弄されながらも、先生はなんとか云われたとおりに浅く、忙しないながらも呼吸をして挿入に協力しようとしてはいるようだったが、慣れない行為にうまく力が抜けずに、きつく締めつけてくる其処はなかなか緩みをみせない。

 先生も痛いだろうが、はっきり言って入れてる僕もかなり痛い。

 ようやく自身を半分ほどもぐりこませた状態で一旦動きを止め、乾く間もなく新しい滴で頬を濡らしている先生の髪を、宥めすかすように撫でてやる。

 「痛い…?やっぱりやめる?」

 窺うように訊くと、息を引き入れしゃくりあげながらも首を力なく横に振る。

 「い…いやです……やめな、……っ…」

 「……そう」

 気休め程度に髪を撫でていた手で膝裏をすくい上げる。
 腰を浮かすほどに高く脚を抱えなおすと、「すこし我慢して」と吐息だけで囁いた。

 そのまま体重をかけ、ぐっと力をこめて内部に押し入る。

 「ひあ ぁ……ッ!!」

 悲痛な悲鳴とともに、ずるりと狭い内壁が僕を奥に呑み込んだ。



 二度目に味わう先生の身体のなか。


 熱くとろけるように纏わりつく、きつい先生の内部。
 繋がっている、と思うだけで快感が脊髄を伝わって思考を焼き切る。

 二週間前より、先生自身がのぞんで僕を受け入れているという事実のぶんだけ、感じる悦楽は比べものにならない。

 すこし揺さぶって根元まで全部埋めこむと、僕は大きく、長く息を吐いた。


 「動くよ」
 「やっ…、ま、待って…っ」


 慌てて制止してくる先生の言葉を無視し、緩やかに腰を揺らし始める。

 襞を熱いものでこすりあげられる強い感覚に内壁が反射的に収縮し、堪らず先生は首を振って甲高い泣き声を上げた。

 「あ、あぁ…ッ…!!」

 いちどぎりぎりまで抜き去ったソレを、再び奥まで埋めやる。
 すこしずつ速度をはやめて抽挿するたび、結合部からはぐちゅりと肉の擦れあう卑猥な音が響いた。それが居たたまれないのか、先生が眉根をよせて濡れたくちびるを噛む。
 幼くみえるその仕草が、この上なく扇情的で愛おしい。



 「うっ…、う…、ん……っ」

 内部をさぐるように角度を変えながら抜き差しすると、先生の腰がわずかに揺らめいた。
 時おり艶めいた喘声をこぼす口からは、もう痛みを訴える言葉は出てこない。

 強請るように、無意識にも拙く腰を使い始めた先生の耳もとで囁いてやる。

 「気持ちよくなってきた?」

 「……っ、……」

 揺さぶられるままに身をまかせながら、言葉も吐けずにただなんども首を振る先生を、やや乱暴に突き上げ奥を穿った。

 「ふぁ……っ」

 固く勃ち上がったまま放っていた先生の性器に指をからめる。
 手のひらで握りこみながら敏感な先端を爪先で弄ると、びくっとその腰が退けた。

 上体を伸ばし、涙でぐちゃぐちゃになった先生の可愛い顔にくちづける。
 頬を辿り、薄くひらきっぱなしのくちびるを舐め上げると、その耳朶に息がかかるほどの距離に近づき呟いた。


 「──好きだって云って」


 その言葉に、閉じていた先生の双眸がはんぶん開かれる。

 「そしたらイかせてあげるから。……先生。
 聞かせて。聞きたい。──云って?僕のこと、好きだって」


 わかりきっていた。先生が僕を本当に好きかどうかなんて。

 先生は好きでもない人間に、しかも生徒である男に好き好んで抱かれるような人間ではないし、今までだって先生の反応を見ていれば、その言動に嘘があるかどうかくらい容易に推し量れる。


 それでも、ただ訊いてみたかった。

 わかっているのに訊いてみたいだなんて、馬鹿らしいと思うだろうか。





 「…すき……です」





 熱を帯びた吐息をふくんだ囁きが、僕の頬をかすめた。


 「…やがみくんが………すき…です…、っ
 ……す、好きじゃなきゃ…こ、んなこと、させませ……ッあ!…」


 先生が云い終わらないうちに、衝動にまかせて強引に突き上げ奥を犯す。
 同時に手のひらで包んでいた先生自身を、根元から先端までつよく扱きたてた。


 「あ …──ッ!!」


 ひと際高く鳴いたかと思うと、先生の肢体が一気に強張った。
 そのまま四肢を引き攣らせ、あっけなく絶頂を迎える。

 びくん、びくん、と大きく全身を痙攣させながら、性器からあふれた白濁とした粘液で自らの腹を濡らしていく。同時に奥で繋がっている深くくわえこんだ僕を、その内壁が不規則に収縮して締め上げ、放埓を促した。
 ぐっと奥歯を噛みしめ、寸でのところで限界をやりすごすと、達したばかりの先生を休ませることなく抽挿を再開し、殊更激しく揺さぶる。

 「ふぁっ…、あっ……も、もうっ…むり、です……っ」

 やめて、と涙をこぼしてかぶりを振る先生の、淫蕩に赤く染まった肌と余韻を引きずる淫らがましい姿態に、逃がしたはずの快楽の波がまた直ぐに呼びもどされる。

 目の裏で光彩が走った。

 感じたことのない強烈な感覚に翳む視界の端で、半分だらしなく開いていた先生のくちびるが、なにかうつろに言葉を紡ぐさまがうつる。



 「──…が…、………好き…」



 「────ッ」

 その囁きを拾い上げ理解した瞬間、堪えきれずに僕も限界を迎えた。
 先生の身体を押さえつけぐっと奥まで突き入れると、そのまま先生の中で射精する。

 「ぁ……っ…」

 慾情のままに迸るものを最奥に向かって放った瞬間、先生がびくんと身体を揺るがし目を見開いた。構わずそのまま立て続けに二・三度吐精する。

 まるで壁にあびせられた飛沫を呑みこむかのように、とけた内道が小刻みな痙攣を起こす。総毛立つような感覚の中、ひく、と喉をひきつらせながら先生は、完全に蕩けきった表情をうかべて天井を仰いだ。


 たまらない。


 中で出した瞬間の、先生の淫らな表情。

 誰の目にも触れない先生のきれいな桃色の内壁を、しろい精液が絡まり汚すさまが脳裏に容易に想像でき、背筋を這いのぼるようなぞくぞくとした征服感に、出したばかりにも関わらず僕の中でまた淫慾が燻りだす。


 射精直後で荒く息をつく僕の顔に、同じく呼吸を乱したままの先生の白い手が伸びた。
 柔らかくくすぐるように手指が頬を辿り、髪をやさしく撫ぜてくる。

 例えようも無い充足感に、眩暈がして僕はそのまま先生の胸に額を預けた。




 「ねえ、先生。…もういちど云って?」

 「やがみくん……?」


 いちどだけじゃなく、何度でも。
 先生の言葉が聞きたい。


 せがまれるまま微かに笑んだくちびるから、掠れた呟きがこぼれた。




 「…………好きです……夜神くん…」









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