黴臭くほこりっぽい資料室で、僕は先生の身体を壁に向かって押しつけた。

 「こんなところ、イヤです…ッ」

 そう訴えて散々抵抗していた先生も、なんども深く口付けたまま身体中を撫でてやれば、酸欠からかやがておとなしくされるようになっていった。
 昼間だというのに、窓のないこの部屋は日暮れのように薄暗い。
 おぼろげに輪郭を捉えるような視界の中で、僕はやさしく先生を背後から抱きしめた。
 ひく、と不安げに細い肩を揺らす先生の耳元で、「大丈夫、すぐに終わらせるから」と吐息だけで囁く。

 もとよりこうするつもりでこの資料室へついてきた訳では無かったが、掻き抱いた先生の身体から白衣越しに伝わってくる体温や、唇を埋めた黒髪の微かな匂いに、もう逃がしてあげられる余裕もないほどに、僕は高揚した自身を持て余していた。

 前に回した片手で、手際よくシャツのボタンを幾つか外すと、その中にするりと掌を這わせ入れる。
 こうなってしまえばもう逃げる手立ても無く、むしろ行為を早く済ませるためには協力するしかないと悟ったのか、先生は観念したように身体から抵抗する力を抜いて、素直に僕の愛撫を受け入れ始めた。

 「…ん……」

 朱い突起を掠めるように指先で撫で上げると、先生の喉が切なく鳴る。
 こんな状況でも、やっぱり感度は良好だ。

 素直な反応をみせる身体に嬉しくなって、その耳朶を舐め、舌を耳殻にまで挿しこむと、先生はぴくんと首をすくめて熱っぽい息を漏らした。
 上体への愛撫もそこそこに、即座に下肢へと手をかける。
 「先生、足、あげて」
 手早くベルトを外し、着衣を脱がせる間も、先生は本意ではないことを示すかのように掠れた唸り声をあげたが、別段抵抗するようなことはしなかった。
 下衣だけを取り去った状態で、再び先生を背中から抱きしめる。
 腹部から太股にかけ掌で撫で下ろし、そうしてたどり着いた、わずかばかり反応を示している先生の性器にゆるりと指を絡めていく。
 「…ぁ……」
 これからはじまる悦楽を既に知っている先生の身体が、それを想像してか目に見えて緊張した。
 「センセイ」
 可愛い、と囁きながら扱き上げるように愛撫する手を慣らし、速めていくと、頭を擡げた性器の先端から透明な先走りが滲んできて指を湿らせた。
 「ふ、…う……っ…」
 不規則に乱れる吐息に混じって、押し殺した喘声が赤いくちびるから零れる。
 すこし弄っただけですぐに硬くはり詰め熱をもった其処は、掌をうごかすたびにくちゅくちゅと粘液が擦れる淫らな音を立てている。
 先端を揉みこむようにしてややつよく刺激してやれば、先生は「あッ」と短い悲鳴を上げてがくんと膝から崩ずおれた。
 「おっと」
 埃で汚れた床に膝をつきそうになる先生の身体を、空いていた片手で支える。
 上体を壁に押しつけ、下肢に這わせている手で腰を引き寄せるようにして座り込めないよう固定すると、快感から小刻みに身体を揺らす先生の耳もとにくちびるを寄せた。
 「なんか早いね。溜まってた?
 …先生テスト前後で忙しくって、最近してなかったもんね」
 「ん…、あ…っ…」
 のん気な声で囁きながら、ゆっくりとなぞり上げるように根元から先端まで扱きあげると、その緩慢な刺激に、先生は鼻にかかった喘ぎを漏らして腰をもじらせた。
 またとろりと蜜をはきだす性器から手を離すと、そのまま浅く引き攣れた呼吸を繰り返しているくちびるの隙間に、割りこむようにして濡れた指を押し入れた。
 「ん…、っ…」
 「舐めて」
 中指と人差し指の二本を、付け根まで口内に押し込む。
 喉まで犯さんばかりに指を伸ばすと、先生は苦しげに眉根をよせ、咽せそうになりながらもぬるりと指に舌を這わせてきた。
 「……、ん……」
 こぼれる唾液を啜り上げるようにちゅっ、と音を立てながら、従順に僕の指をしゃぶる先生のその卑猥な構図に、またひとつ、じわりと興奮が昂っていくのを感じる。
 「もういいよ」
 充分に唾液が絡んだのを見計らって、ずるりと指を抜き出すと、先生は潤んだ目を瞬かせてちいさく息を漏らした。
 膝を割るようにして足を開かせ、膝まで垂れた白衣の裾を捲り上げ、先生の唾液で湿った指をその狭間に沿わせるようにして入り口に触れる。
 ひくん、とつまる息に合わせて収斂する其処を、なんどか慣らすように撫でたあと、指先をくぐらせるようにして内部に押し入ってゆく。
 「あ、あ……っ…」
 中指を根元まで埋め込ませただけでも感じるのか、しばらくぶりの後腔への刺激に、先生は身体を慄かせて腰を逃がそうとする。
 「動かないでよ。弄りにくい」
 片手で細い腰を掴んで固定し、なおも背中に密着するようにして抱きしめる。
 閉じかけた膝をさらに大きくひらかせ、咥えこませた指を其処に慣らすように蠢かせると、先生は肩を震わせて嗚咽にも似たなき声を漏らし始めた。
 「ひ、う……っ」
 「手、ついて。先生」
 壁に両手を突っぱねるようにつけさせ、自然、前傾姿勢になる先生の腰を突き出させるように促すと、その無防備な格好に羞恥をおぼえるのか、先生が泣きそうな声で呻いた。
 無意識に逃れようと身を捩じらせる先生を嗜めるように、内にもぐらせている指を曲げ、引っ掻くように動かす。
 「! あ……ッ」
 「動いちゃ駄目だって。…して欲しいんだろ」
 余裕もなく、がくがくと膝を揺らし始める先生に構わず、僕の指に絡むように溶け出した熱い粘膜を弄ぶ。
 浅く引き抜き、強く擦りたて再び埋めこむという動きをなんどか繰り返すと、そのたびに先生の其処はぐちゅりと濡れた音を立てて、はしたなく飲みこんだ指を締めつけてくる。

 可愛く無垢な先生の、一番素直でいやらしい部分。

 探り当てた前立腺のしこりを指のはらで押し上げ刺激すると、びくん、と背をしならせてひと際大きな反応を見せた先生が、狼狽するように切羽詰った声をあげた。
 「や…っそこ、は…、ア…ッ」
 「ココ?」
 再び同じ動きを指にたどらせる。
 途端、先生は身を強張らせてひッ、と息を飲み、裏返りそうになる声で弱々しく「駄目です」と制止してきた。

 そんなふうにされたら、容赦できるわけがない。

 「だ、め……いやっ、ああ!」
 わざと弱い箇所にあたるようにして、いっそう激しく内壁の襞をこすりあげると、先生は完全に泣き声の入り混じった甲高い嬌声を放って身悶えた。
 抱きしめ、抱え込むようにして先生の上体を支えていた手を離し、後孔への散々な愛撫で限界まで張り詰めた性器に指を絡める。
 すでにぬるりとした半透明の粘液でぬめった其処。
 すこし握りこんでやっただけで甘く喉を鳴らす先生が、身体を慄かせ前に廻された僕の腕を掴み、懇願するような声を絞り出す。
 「駄目、です…っ、も、もう……」
 「これ以上されたらイっちゃう?」
 耳元で意地悪い言葉を選んで次句を次いでやると、先生は潤んだ目元を真っ赤に染めて、ぎこちなく首を頷かせた。
 「可愛い」
 囁きながら白いうなじに舌を這わせると、それだけの刺激でも感じるのか、後孔にふかく埋め込んだままの指に内壁がひくりと吸いついてくる。


 そうしたところで、昼休みの終了を告げる予鈴が響いた。


 「……あ、……授ぎょ…」
 快楽に酔った頭の廻らない呂律で呟きながら、先生がのろのろと首だけで僕を振り向く。
 「やがみくん…、授業……」
 「先生はこの後空き時間でしょ」
 「でも、夜神くんは……」
 生徒である男に背後から抱きしめられ、どろどろに溶けおちた後口と自身を絡めとられた状態で吐き出される先生の、状況にそぐわない生真面目な台詞が可笑しくて思わず口もとが緩む。
 「いいの?授業に出ても」
 「…………」
 直接其処に訊ねるかのように、体内で指をばらつかせて動かすと、いちいち従順な収縮に合わせて先生の呼吸がまた不自然に引き攣れる。
 「やめてもいいなら、行くけど授業」
 「……っ、……」

 「どうする?"竜崎センセイ"」

 我ながら底意地の悪い、卑怯な質問だとは思う。
 先生の理性と本能では答えが相反していることを知っていながら、それでもその口に云わせてみたい。

 うつむき、黙ったまま困惑して視線を泳がせている先生を焦らすように、抱きしめていた身体をすこし離してみる。
 「抜く?」
 「やっ……!」
 ずる、と僅かに指を浅い位置まで退かせると、先生がびくんと身を捩じらせ、弾かれるようにその顔をあげた。
 まるで引き止めるように、内部がひどく指に絡みつく。
 「お返事は?……先生」
 浅ましく濡れた音を立てる淫惑な肉壁を、指先で弄ぶように嬲りながら、意地悪く答えを要求する。
 ゆるくも確実に性感を追い詰めていくそのやり方に、先生はせつなげに眉をたわませながらも、とうとう誘惑に負けてきつく噛んでいたくちびるをほどいた。

 「や、やめ……ないで…、……して、くださ…っ」

 消え入りそうに呟いてうつむいたその顔が、僕には見えないと思っているのだろう。
 壁脇に立てかけられたロール式の資料のガラスケースに映った先生は、ぎゅっと固く目を閉じ、欲望に堕落した自らへの嫌悪と恥辱、そしてそれを遥かに上回る更なる享楽への期待に歪み、えもいわれぬほどに淫靡で扇情的だった。
 自傷じみた笑みがこぼれる。
 先生以上に、僕が限界だ。持ちそうもない。

 「あ……ッ」
 予告無しにずる、と指を抜き出すと、伴う排泄感に先生が息をつめ、ぶるりと痛々しく背を震わせた。
 「夜神く……?」
 不安げな声で僕を呼ぶ先生の腰を引き寄せ、細い足を大きく割る。
 「大丈夫……してあげるから、力抜いて」
 指先でひらいた、すっかり赤く熟れきった其処に昂った自身を押しつけると、先生はその熱い感触に怯えるかのように身体を緊張させたものの、云われたとおり、僕が挿入しやすいようにぎこちなくも余計な力を抜いた。
 
 「好きなの、あげるよ」

 囁いて、自らの凶器で押し入った其処の熱くぬめった内襞と、先生の喉から絞り出される悲鳴じみた嬌声に酷い眩暈を覚えながらも僕は、
 誰も知らない先生の最深部を、犯した。






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