作戦参謀の調教 2





 強張る指で留め具を外し、ファスナーを下ろしていく。
 うつむいていれば視界に入らないというのに、男の視線が俺の挙動に絡みついてくるのが手にとるようにわかった。
 上着から袖を抜き、脱ぎ去ったそれをどうしようか逡巡したあとそのまま床に落とした。
 軽い布擦れの音が、いやに室内に響いて聞こえる。
 脱げというからには、全部脱がなくてはならないんだろう。
 手袋を外すと、軍服の下の白いインナーをぎこちない手つきで捲くり上げる。
 この上ない羞恥を感じた。
 本来軍務が行われるべき無機質に調った、無駄のない造りの執務室で、俺を知らないと言う恋人と同じ顔をした他人の前で、脅迫めいた絶対命令の下こんなストリップまがいのことをしている。これを屈辱と言わずに何を言うのだろう。
 ハイネックのインナーを脱げば、その下には身を覆うものはないも纏っていない。
 裸の上半身をさらした状態で、とても目の前の男と視線を合わせる気にはなれずうつむいたままでいると、

 「下も、脱いでください」

 「………っ、」

 穏やかな、それでいて有無を言わさぬ強さを含んだ声を浴びせられる。
 ひどい眩暈に襲われたときのように視界がぐらついた。
 駄目だ、落ち着け。
 俺は一度大きく息を吸い込むと、意を決して手をベルトにかけた。
 それでも馬鹿みたいに手が震えてしまって、うまくバックルを外すことができない。
 些か往生していると、ふう、と大仰なため息の音が聞こえて、思わず俺は肩をびくつかせた。

 「これでは日が暮れてしまいますね」

 その台詞を吐くや否や、デスクにもたれかかったまま傍観の姿勢をとっていた男が不意に動いた。はっとする間もなく距離を詰められ、腕を掴まれる。

 「あ……!」

 ぐい、と強く引かれたかと思うと、次の瞬間には眼前にデスクの天板が迫っていた。
 頭こそ打たなかったものの、派手な勢いで上体を机上に押し付けられる。衝撃で何かが倒れ床に落ちる音が響いた。
 見た目と違って馬鹿に力があるところまで、俺の知る古泉と同じらしい。
 身じろごうにも上から押さえられた身体はびくともしない。

 「う、……っ」

 弾みでぶつけた腰がひどく痛んだが、それに捕われている暇はなかった。
 俺を拘束している身体が傾ぎ、覆いかぶさってくる。
 裸の背中に軍服の固い布地がふれた。

 「………っ!!!」

 腹とデスクの僅かな隙間に手が入り込み、引き寄せるように撫で上げられる。
 手袋をしたままの掌がやや乱暴に、肌の上を這う感覚に怖気が走る。
 はい上がった手が胸元を探り、指先で中心の突起にふれられると身体が勝手にびくついた。喉をついて出そうになる悲鳴を、何とか声になる前に噛み殺す。

 「…えらく敏感ですね。初めてではなさそうですが、
  どうなんです?」

 嘲るような囁きで耳元をなぶられ、噛み締めたくちびるの隙間から、く、と小さく声がもれた。
 少し掠れた、滲むような色気のある耳に馴染んだ声。
 嫌だ。そんな声で喋るな。
 せめてもの抵抗でおかしな声だけは上げまいとをしっかりと口を閉じていると、それが勘に障ったのか、わずかに芯を持ち始めた乳頭を爪先で強く摘み上げられた。

 「いッ、あ……!!!」

 鋭い痛みに、堪らず首をのけ反らせて嬌声を放つ。
 肢体をびくつかせると反応に満足したのか、低く喉を鳴らしながら耳朶を舐め上げられた。

 「う、っ………」

 耳の穴に舌先をねじこまれ、くちくちと聴覚から犯される。
 デスクについた手指に力を込めて堪えていると、下肢に伸びてきた腕がベルトにかかる。

 「………!!!」

 やめろ、と上がりそうになる声をなんとか耐えた。
 そんな俺に気付いているのかいないのか、覆いかぶさったまま男の手が衣服の中に侵入する。ゆるく反応を示していたそれに、手のひらが触れた。

 「や、………」

 手袋越しにわずかに体温の滲んだ掌に包み込まれる感触に、ぎゅっと目を閉じる。
 目尻がわずかに濡れていくのがわかった。
 うつぶせで顔が見られないのは幸いだ。
 急所を握られ身体をかたくしていると、ゆるくそこを扱かれ始める。

 「…っふ……、…!」

 直接的な刺激に、それがどんなに屈辱の下でも意に沿わない行為でも、身体は与えられる感覚に従順だ。反応してしまう。それがたまらなく悔しかった。

 「……濡れて、きましたね」

 わざと羞恥を煽るような言い方で指摘される。
 実際、わずかにそこからは先端から滲み出た粘液が音を立て始めていたから否定はしようがない。ということは、濡れ始めたそこを弄っている奴の手も汚しているということだ。 敏感な粘膜に、手袋の渇いた布目が擦れる感触はもうない。
 情けなさで頭が沸騰しそうだ。

 「ん…、……ぅ、!」

 亀頭をくりくりと弄られ、びくんと腰が跳ねた。
 わずかにやり口は違うものの、俺の弱いところを的確に探り当て暴き立てる勘の良さはどこかの誰かと同様だ。わずかでも反応を返せば執拗にそこを責め立ててくる。

 「ん、んん……、ぐ、…!」

 じわじわと、否応なしに腰にたまる快楽に、生理的な涙が視界を曇らせる。

 「そろそろいきそうですか」

 まるでつまらない常套句を吐き出すように問われ、俺は弱々しく首を振った。
 それは虚栄だ。実際、気を抜けばすぐにも出してしまいそうなほど高ぶっていた。油断すると口をついて出そうになるあられもない声を抑えることで精一杯だ。

 「答えてくださいよ」

 「……っふ、く、……、…」

 筋をもったいぶった手つきで撫で上げられ、ふあ、と上がりそうになった甘ったれた声を天板についていた手で口を覆い殺すと、強情ですね、と低く囁かれる。

 「このまま衣服を汚されたいならそれでも構いませんよ」

 「……!!!」

 はっとして顔を上げる前に、ゆるくなぞりあげていた愛撫が豹変する。
 ぐちゅ、とわざと湿った音をたてながら、痛いくらいに力をこめられ揉むように扱き立てる動きに、掌で殺し切れないくぐもった悲鳴が口をついた。

 「あ、…っあ!……や、…やめ、」

 強制的に追い立て昇らせるやり方に、首を振ってささやかな抗いをみせると、弾みで目尻にたまった涙がぽた、とデスクにおちる。
 くす、と笑いになりそこなった吐息が耳元を擽った。

 「いってください」

 「ふ…、ぁ、んっ…んんん…!!!」

 同時に尿道を押し潰すように圧され、痛みに近い感覚になすすべもなく、引きずられるようにして俺はそのままぶるりと身を震わせて放埒していた。
 漣のように満ちては引く愉悦に、搾りきるような手の動きにされるまま、鳴咽のような声を漏らしながらたまりきったものを吐き出す。

 「う…、……」

 脳髄を焼く快感が倦怠感にすりかわっていく感覚に翻弄されながら、身体の力をずるずると抜く。
 頭の片隅に一瞬、この男ではない古泉を裏切ってしまったようなえもいわれぬ罪悪感が浮かんだが、それも次第に霞がかる思考に飲まれ薄れていった。






----------------------------------




参謀、まだ序の口です\(^0^)/

update:08/4/6



3へ→