不可視の檻の内側 3 「ふぁ…、あ…、あ……」 ぐち、と粘液を掻き交ぜるあからさまな水音が立つたびに、彼は苦しげに呼吸しながら小さく喘ぐ。 時折思い出したかのようにかぶりを振るのは、与えられる暴力に等しい感覚の前になんとか堕ちまいとしているからだろう。 それでも、手酷い蹂躙の結果異物を受け入れることに慣れきってしまった其処を、無遠慮な指が出入りするたび段々と彼の肢体からは余分な力が抜けて、今ではぐったりとこちらに背中を預ける形になっている。 「ひ、ぃ……、ああ、あ…」 「いい加減、質問に答える気になりませんか」 がくがくと小刻みに爪先を震わせる彼の耳元で話し掛けると、昂りが加速するばかりの敏感な肢体ではそれすら刺激になるのか、あ、と甘やかな音が開きっぱなしのくちびるからこぼれた。それでも質問に対する返事をする気配はない。 「やれやれ。今日は参謀殿はご機嫌斜めらしいな」 確かにいくらか従順な時なら、そろそろ折れている頃合だ。 ちょっといじめてみるか、と暢気な調子で言いながら、奴が押し込んだ指を何かしら内部で動かす気配があった。 「ふぁああ、…ッあ゛!!?」 途端、一段と高くなった悲鳴を上げて、腕の中の身体がびくんと弾かれたような大きくのけ反る。 おそらく、前立腺にふれているのだろう。 後孔の軟らかな粘膜ごしにやや奥まった位置にあるそこを責め立ててやると、どんなに意地を張っているときでも彼はたちまち素直になって、泣いて許しを請うようになる。 男の生理機能として前立腺を刺激されれば感じるというのは知識としてあったが、どう考えても彼の反応は過剰だ。もともと敏感な身体な上、そういう素質があるのだろう。 そうなると、まったく彼という存在は、男に嬲られるためにあるような身体をしているものだ。 「いや、ぁああ! あ!…っそこ、やめ、ぇ…、あ゛!」 ぐ、ぐ、と小刻みに中を押し上げられるたび、彼は狂ったように泣き喚いて暴れる。 つい先ほどまで古泉司令に抱かれていた間もおそらく、散々そこを責め立てられていたのだろう。立て続けに加えられる強すぎる快楽は、もはや彼にとっては苦痛でしかない。 とうとう耐え切れなくなったのか、呼吸も覚束ないほどに泣きじゃくりながら、横向けた顔をもたれた俺の肩口に埋めるようにしてごめんなさい、と譫言のように繰り返しはじめた。まるで猫か何かが甘えてみせる仕種のようで、可愛いものだ。 「強情も過ぎると可愛いげがありませんよ」 「ひッ、…ぃ…、ごめん、なさ、…ぁああ…!!」 ぶるりと腰をふるわせながら、どろ、と僅かに濁りをもった透明に近い粘液が、完全に上を向いた彼の先端から吐き出される。精液すら搾られ尽くされてもう出すものがないのだろう。まったく勢いのない、まるで漏らすようにこぼれたそれは涙のように幹を伝って彼の白い皮膚を舐めた。 絶頂が近いのだろう、いや、いや、と切羽詰まった声を上げながらもほしがるように細い腰が揺れている。前立腺を虐めたらあっという間に達してしまうことの方が多いが、いま射精してしまっては体力が追い付かないだろう。 「や…、ぁあ!!?」 扱いてやればすぐにも弾けてしまいそうな彼の性器に手を伸ばし、管をふさぐ為にその根元を強く握ると、彼は痛みに驚いたように声を上げた。 「い、痛…っああ!! や、手… はな、……」 「質問にまだ答えてませんね」 びく、と彼の肩がすくまった。 こうなってしまえば、こちらの思惑通りにしなければ梃子でも解放して貰えないだろうことぐらいは学習しているらしい。 つ、ともう片手を胸元にすべらせる。 多少筋肉が落ちたものの程よく引き締まった、しなやかな胸を彩る桜色の突起に指を触れさせると、彼は大袈裟なまでに身体をはねさせた。 その拍子にちりん、と涼やかな金属音が鳴る。 開発の限りを尽くされている彼の肢体は、こことて例外ではない。 可愛らしい小さな両方の乳首に取り付けられているのは、きっと司令の好みなのだろう、プラチナ製のチェーンピアスだ。 柔らかな皮膚に通されたそれは傍目にはとても痛々しく映るが、触れたところで既に彼にとっては快楽としか変換されないらしい。ぐり、と押し潰すように少し強くこねてやると、後ろや性器に触れたときとはまた違った、甘い声で鳴く。 「ふあ……ん、…んん…」 「はは、よっぽど胸いじられるのが悦いんだな。ひくついてる」 わざと達しないよう内側への愛撫を緩いものに変えながら、奴が茶化すように言った。 乳首に連なる銀色の冴えた光を弾く細いチェーンを指先で持ち上げる。わざと、彼に見せ付けるようにそれを引っ張り上げていくと、 「ひ、や、やだ…ぁ、引っ張るの、駄目、だめ…ッ」 いやいやをするように首を振る彼に構わず、ぐっと強く引いた。 「や ぁああああ゛!!!!」 びくびくっと背筋をわななかせながら彼が絶叫する。 拍子で目尻に溜まった涙が飛び散り、落ちたそれは俺のシャツに染みて消えた。 「そろそろいい子にする気になりましたか」 「あ…、あ…、……」 「さっきの質問、答えられますよね?」 まだ答えられなければ答えたくなるようにして差し上げますが、と、もう片方のチェーンピアスを手にとると、彼は子供が駄々をこねるみたいに泣きながら首を横に振った。 「…っやだぁあ…、もう、やだ、言う、言うから…ぁ…!!」 「ではどうぞ」 指先で、彼によく似合う華奢なチェーンを弄ぶ。 実際これがつけられたところを見てはいないが、きっと怖がりな彼のことだ、半狂乱で泣きながら嫌がったのだろうと想像すると微笑ましくて笑いがこみ上げてくる。 こんなところに、しかも二箇所も隷属の証を刻み付ける司令の彼への執着も、普通ではない。 怯えた呼吸を繰り返していた彼が、やがて顔をうつむかせたまま小声で呟いた。 「…っ、………く、くち、で……」 「口で?」 優しく促すと、躊躇うように、ごくり、と白い喉が上下した。 「口で、…しろって、言われ、た……」 「フェラチオをしたんですか?」 直接的な言葉を選んで囁くと、彼はひく、としゃくり上げながらも頷いた。 あとはいつも通りのルートを通ったのだろう、気絶するまで後ろを責められて、何度達したかは覚えていないと、かなりの時間を要したものの、彼は問われるままになんとか答えを舌にのせた。 質問に答えている間も時折いたぶるように内部の指を動かされて、そのたび泣き声を上げながら肢体をびくつかせる。バスルーム内は空調がきいていたが、裸のままで少し冷えて来た肩を暖めるように抱きしめてやる。。 勿論、これで終わらせてやる気は毛頭ない。 「それでは次に古泉司令がいらっしゃったときにちゃんと上手にできるよう、 おさらいしておかないといけませんね」 ---------------------------------- update:09/08/30 |