不可視の檻の内側 4





 質問に答えられたご褒美に、と一度扱いていかせてやると、あとはもう彼はすっかり従順に扱い易くなった。

 おさらいしましょうか、とバスルームの床に膝をつかせ、四つん這いになった彼の口に怒張を押し当てると、最初こそ泣き声を上げて嫌がるそぶりをみせたものの、すぐに素直に口を開いてそれを迎え入れた。
 正直、彼の舌はかなり具合がいいと思う。
 とは言え、最初は男のものなど咥えたことがあるはずもない彼の口淫はお世辞にも巧いとは言えたものではなかったが、最近では泣くばかりでろくに舌も使えなかった頃とはまるで比較にならないほど上手になった。
 奥まで突っ込むとすぐにえづいて噎せていたものだが、今は自分から深く飲み込んで喉まで使ってくる。まったく、この強情で意地っ張りな彼をいったいどんな方法で仕込んでいるのか、そのコツを是非司令に伺ってみたい。

 「ん、んん……ッく、ふ……は」

 どちらにしても二人満足させなければ赦されないなら、すでに真っ赤に熟れ切った下の穴を交互に使われるよりは、まだ口で奉仕したほうがましだと考えているのだろう。
 髪に手を絡めて促せば、じゅる、と猥雑な音を立てながら頭を上下させる。

 「もっとちゃんと、舌使って下さい」
 「うう゛!ッ……ん、……んぐ、…」

 わざとタイミングを外してぐっと突き込んでやると、苦しげに呻きながらも彼は健気に舌を動かす。
 くちびるで締めつけられ、扱かれながら軟らかな舌で裏筋を擦られると、ぞくぞくと堪らない愉悦が背中を襲う。直接的な刺激だけじゃない。彼の、悩ましげにひそめられた清涼な眉や涙の浮かんだ目、何より時折こちらの反応を窺うようにちらりと上目使いに見上げられるのが、どうしようもない嗜虐欲を煽り立ててくる。

 「ふっ、…ふぅ、……ン」

 ちゅぷ、と音を立てて先端に吸い付き、届かない部分は手で刺激してくる。
 たいしたものだ。

 「ちぇ、お前ばっか愉しんでんなよ」
 「っん、んん゛……!!?」

 ふて腐れた声を出しながら、奴が彼の腰を持ち上げ再び後孔にふれた。

 「こっち、もう使っていいだろ」
 「好きにしろよ」

 問い掛けに返事をしたのは信じられない、と目を見開く彼本人ではなく、俺だ。

 「や…ぁぐ! んん、 ん…!!!」

 制止しようと口を離そうとした彼の後頭部をぐっと押し付ける。
 それでも嫌々と必死に逃れようとする彼を乱暴に押さえ込むと、奴は楽しそうに笑って、取り出した自らのそれを入口に押し当てた。

 「んんん!んー…!!!」
 「心配しなくても、どろどろに溶けてるからすぐに入りますよ、参謀」

 おどけた調子で言いながら、奴がぐっと腰を進めた。

 「ひぐ…っ、ぅ、ううんんん…!!!」
 「おっと…、歯を立てないで下さいね」

 悲痛な叫びすら、口の中いっぱいに押し込まれたものでくぐもって消える。
 びくびくと肢体が引き攣るのに合わせてひくつく喉や舌が不規則にあたって気持ちがいい。相当な衝撃があるだろうに、それでも含まされたものを噛んだりはしないのは、無意識に染み付いた司令の調教の結果なのだろう。

 「ふッ……ぅ、うう、…っ、ッ」
 「っ…は、相変わらずすげえ、身体…」

 強引に揺すりながら中に埋め込むと、奴は大きく息をついた。
 当の彼はと言えば、上と下の穴に同時に突っ込まれた状況に、呼吸すら自由にならずにただ身体をふるわせて泣いている。

 「…ほら、口がお留守になってますよ」
 「ふっ、ぅ、ぐ!!」

 俺が再びぐっと頭を押さえ付けると同時に、奴が無遠慮な抽挿を開始する。
 ぐちゅ、と卑猥な音と肌がぶつかる音がバスルーム内にこだました。
 ぱたぱたと床の上に、彼の先走りが糸をひいて落ちるのが目に入った。さっき出したばかりだというのに。そろそろまた、限界が迫っているのだろう。
 こんなふうに、セックスというよりは使われている、といった表現が正しいような、好き勝手な蹂躙を受けてそれに感じているのだからほとほと救いようがない。彼の身体は。

 「ふっ、ふぁ…、ん……、んぐ、…っ、っ」

 必死に口の中の肉塊を舐めしゃぶりながら、内壁をこすりたてられるたびに背中をびくつかせて鳴く。正気の失せきった頭で、男に奉仕し受け入れ悦ぶそのさまは酷く醜悪で、淫猥で、かわいらしい。

 「司令のは、飲ませてもらったんですか?」

 言い含めるように一語ずつ区切って問い掛けると、ややあって彼はうつろな目で頷いた。
 その頼りなげな仕草にまたぐんと射精感が高ぶる。

 「じゃあ、今度は顔にかけてあげますよ。…嬉しいでしょう?」

 言われていることがわかっているのかいないのか、彼は口の中のものを吸い上げながらまた小さく首を頷かせた。

 「…っふあ、!」

 ずる、と咥内から抜き出すと、自分の掌で、彼の唾液と自分の体液でぬるついた幹を数度扱き上げる。もう片手でぐい、と乱暴に彼の髪をかきあげ顔を上向かせると、その鼻梁目掛けて思い切り射精した。


 「……っ、!!!」


 白濁とした精液がぴしゃ、と彼の額や頬にかかって、肌の上を重たげにたれおちていく。 とんでもなく卑猥な構図だ。
 こちらの射精が終わるのを待っていた奴が、茫然とそれを受け止めた彼の肢体を、埋め込んだもので再び殊更に強く奥まで突きはじめる。

 「ひぃ…ッ、あ!、ぅあ、あ、あ…!!」

 腕に力が入らずに、がくん、と前のめりになる彼の身体を支える。既にろくに力むこともできないらしい。

 「やば、俺ももう、いきそ…」

 荒い息の間で奴がつぶやくと同時に、彼はひときわ悲痛な声を上げて身体を大きく痙攣させた。
 どうやら達したらしい。
 精液なのか先走りなのか判別のつかない粘液が少量、床に模様を描く。
 ややあって、く、と声を噛み殺しながら奴も射精した。
 彼の内部に注ぎ込んだそれを掻き混ぜるように数度出し入れしたあと、ゆっくりと引き抜いていく。こぷ、と空気を孕んだ音とともに彼が痛々しげに身体をひくつかせた。
 こんなに体内を精液で満たされて、何度も何度も。もしも彼が女性だったらとっくに妊娠しているだろうな、とどうでもいいことを考えながら、次はどんな方法で彼を追い詰めようかと思考を巡らせた。






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update:09/09/01



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