今更だが、古泉は生粋のサド属性なんだと思う。

 薄々感づいてはいたものの、こういう関係になってからはっきりと思い知らされた。
 俺が嫌がることや痛がることを強要する時の笑顔といったら、ハルヒの前では決して見せないような、まさに至福の境地とはかくやといった様相である。
 泣いたり喚いたりするのも逆効果だ。嗜虐心を煽る結果にしかならない上、古泉は寧ろそういう状態の俺をいたぶるのが心底愉しいらしい。
 流石にそうされることに悦びを見出だせるほど真性のマゾヒストでもない俺は、許容の範疇外のことは全力で拒否するか精一杯の妥協案を提示するのだが、今回ばかりはそうもいかない。何せこれまでにないほど怒り心頭の古泉に抵抗なんてしようものなら、一体何をされるかわかったものではないからだ。

 黙って酷いことをされるか、古泉の機嫌を更に損ねていっそう酷くなった行為を強いられるか、二つにひとつしか道がないのだとしたら、俺じゃなくとももう大人しく全てを諦めて悪夢が過ぎ去るのを待つしかないと思わないか?

















ルール オン ジェラシー 4























 縛られるのは好きじゃない。
 手足の自由が利かないと、どんなことをされてもそれを受け入れるしかないからだ。
 苦痛を逃がす為にシーツを握りしめることも、地獄みたいな快楽のさなか古泉の背中に爪を立ててやることもできない。
 一体どうしてうちの制服はブレザーなんだ。
 ネクタイなんて忌々しいオプションがついているから、こうも頻繁に俺は古泉に拘束される羽目に陥るんじゃないのか。
 ベッドにうつ伏せたままそんな現実逃避に近いことを考えていると、背中に回された両手首がぎちりと悲鳴を上げた。勿論その両手を後ろ手にきっちりと固定しているのは、さっき外された俺のネクタイだ。

 「動かさないほうがいいですよ。いつもよりきつめに縛りましたから」

 簡単に痕が残りますよ、と言いながら、寝室の外に消えていた古泉が戻ってくる。
 寝室のほうが薄暗いせいで逆光になっていて表情はよくわからなかったが、ともかく今から俺がろくな目に遭わされないだろうことは、地動説並の揺るぎのなさで分かり切っている。

 耐えろ。堪えるしかない。

 今回ばかりは仕方のないことだ。
 古泉の怒りは尤もだし、もし俺が逆の立場で、例えば古泉と誰か可愛い女子あたりのラブシーンなんか目撃したら、やっぱりキレると思う。悪いのは俺の方だ。
 いや厳密に言うと諸悪の根源は百パーセント会長なのだが。
 くそ、あいつのせいで踏んだり蹴ったりだ!

 「腰、上げてください」
 「…、……」

 懇願というよりは命令されて、俺は大人しく従った。
 とにかく、一切逆らわずに古泉の気の済むようにさせよう。
 それがせめてもの贖罪になるなら。

 ベルトを外され、下衣を一気に引き剥がされる。
 腰を高く上げ、膝を開くよう掌で促された。
 腰骨からなでるように後ろのほうまでたどられたかと思うと、

 「ひっ、あ…!、いた、…いッ痛…」

 なんの潤いもないそこに、渇いたままの指を突っ込まれた。
 引き攣る痛みに勝手に身体が跳ねる。第一間接まで入ったか入らないかというところで指はすぐにどん詰まりにあったらしく、それを無理やり押し開くようにして捩込もうとする動きに、俺は堪らず悲鳴を上げた。

 「いたい…っこいず、み……、や、ぁぁあ!」
 「狭いですね…。こちらは使わなかったんですか」

 その台詞の意味を理解すると、俺はシーツに顔を擦りつけながら否定した。
 他の奴にこんなことされるなんて、想像するだけで吐き気がする。

 「そん、なの……するわけ、な…、ぁあ…!」

 「そうですか。では、それが本当かどうか検査して差し上げますよ。
  …きちんと、奥までね」

 指が引き抜かれる。
 それに安堵する暇もなく、すぐさま後ろにひやりとした感覚がきた。

 「なに…、…ぅ、ん!」

 冷たく細いものが身体の中に入ってくる。
 指よりも数段細いそれは、潤滑になるものがないにも関わらずすんなりと入口を割って侵入してきた。何だこれ。

 「わかりませんか?」

 しばらく考えたあと、力無く首を振る。
 そこまでひどい痛みがないといっても、異物感まで和らぐわけじゃない。
 古泉が可笑しそうに喉を鳴らした。


 「マドラーですよ」


 「……! な…」

 マドラーって、あれか。グラスの飲物を撹拌するのに使う棒。
 確かにステンレス製の、先端が円球になっているタイプのやつをここのキッチンで見かけたことがある。
 まさか、それを突っ込んでやがるのか!?

 「他に使えそうなものがなかったもので。これが一番手近でしたし。
  貴方には細すぎて物足りないでしょうが、まあ…検査ですので」

 本当はクスコとかあれば良いんですけど、などと愉しげに独り言ちる古泉の台詞を、くらくらする頭で聞いた。クスコって何だ。いや言わなくていい断固として知りたくない。

 「っう、……ぅ、く、…」

 そうこうしている間に、マドラーが更に奥まで無造作に突っ込まれた。
 ぐうっと内臓を犯される感覚に気持ち悪さが込み上げてくる。どれくらい入っているんだろう。細いからかえって解りにくいが、かなり奥まで侵入しているのは何となく腹の中に蟠る違和感でわかる。

 「ぁ、ぐ……ッや、指っ、だめ…、」

 棒を押し上げるように角度を変えられ、わずかな隙間を拭い
 拡げながら指が入り込む。

 「力抜いてください」

 無理言うな。
 勝手に強張ってしまうものは仕方ない。
 俺はせめて少しでも苦痛を逃がせるよう、ともすれば引き攣る呼吸を止めないように努めた。逆らえば苦しいだけだ。

 「はッ…、はぁ…、あ…ぐ、」

 二本、指が潜り込む。かなりつらいし、痛い。
 きつく握り締めた掌にじっとりと油汗がにじんだ。
 入り口を指先で拡げながら、

 「やっぱり、そんなに奥までは見えませんね」

 古泉が小さく呟く。
 瞬間、かあっと身体が熱くなった。あられもない場所を無防備に、古泉の目に晒している。外側だけじゃない、内側まで。

 「ん、あ…、あ、っあ、あ!」

 おもむろに、マドラーを小刻みに抽挿される。
 球になった部分に襞をこすられ、恥ずかしい声が口をつく。抜き差しされるたびに条件反射みたいに筋肉が収縮して、それが入り口を拡げている古泉の指を締めつけてしまうのがどうしようもなく羞恥を煽った。
 わざとなのかどうかは定かではないが前立腺を避けて刺激され、決め手を欠いたそれは快感と呼ぶにはあまりにもどかしい。

 「っんん……!!」

 指と共にマドラーが引き抜かれる。

 「こちらを使ってないのは本当みたいですね。
  精液らしいものもついていませんし」

 当たり前だ。
 第一、万が一にも使っていたとしたら指を入れられただけであんなに痛がるわけないだろ、と心の中で思ったが、無論口には死んでも出さない。

 とにかく、これで嫌疑は晴れたはずだ。
 早く解いてくれ。

 ぐったりとシーツに埋まって息をついていると、再び腰を持ち上げられる。

 「え……」

 今度は無機質な冷たさじゃなく熱をもったものが押し当てられ、俺は慌てて首を捻じ曲げ背後を振り返った。凄惨とか、冷淡とかいう単語がぴったりきそうな古泉の笑顔と視線がかち合う。待て!ろくに慣らしてもないのに入れる気か!?

 「やっ、いやだっ、古泉…まだ、無理…むり…ぃ…!!!」

 必死の制止も聞かず逃げる腰を押さえつけ先端を押し込んでくる。
 痛みと熱と圧迫感に、喉が切れそうな悲鳴が上がった。

 「ひ、ッ、い…痛…、い…ぁあ…ッ!!っ抜い、抜いて…」

 ぶわりと湧いてきた生理的な涙で視界が濁る。
 かぶりを振って抜いてくれ、と懇願すると、背後で古泉が密やかに哂う気配がした。





 「駄目ですよ。…罰を受けて頂くのはこれから、ですから」






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やりたい放題ですサーセン


update:08/2/1



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